科学技術の発展は、国の防衛や安全保障にも大きな影響を与えるため、各国は新しい技術の研究や開発にかけるお金を増やしたり、自分の国を攻撃するかもしれないほかの国に重要な技術が渡らないようにするなど、様々な取組を進めています。
日本でも、防衛省・自衛隊だけではなくほかの省庁や企業などとも協力して、優れた技術を防衛に使えるようにしながら、防衛にとって重要な技術を守ることが必要になっています。
先端技術と世界の動き
近年、人工知能(AI)、量子技術、情報通信技術など、軍事分野以外の技術が急速に発展し、防衛や安全保障にも大きな影響を与えるようになっています。このように、これまでの防衛・安全保障に変革を起こすかもしれない技術は「ゲーム・チェンジャー」と呼ばれています。
人工知能(AI)
人工知能(AI)とは、人間の脳と同じように記憶・判断・推論・学習する能力を持ったコンピューターのことです。AIを使えば、これまで人間が行ってきた情報の分析や判断などを、もっと速いスピードで自動的に行うことができるようになります。
例えば、アメリカやロシアでは、AIを載せた無人の航空機を、人間が操縦する航空機と一緒に飛行させて、作戦を行う実験を行っています。中国も、AIを様々な武器に搭載して行う「智能化戦争」を目指しているといわれます。
また、みなさんもツイッターやインスタグラムなどのソーシャルメディアを使っているかもしれませんが、このようなソーシャルメディアに、AIも使って偽の情報を流すことで、人々の考えや判断に影響を与え、自分の国に有利な状況をつくろうとする動きも生じています。
量子技術
量子とは、物質を形作っている原子や、原子を形作っているさらに小さな電子・中性子・陽子などのことを指しますが、このような極めて小さな世界では、わたしたちの身の回りにあって目に見えるものに通用する法則が通用せずに、「量子力学」という原理が働くことが明らかになっています。
各国では、この量子力学を応用した新たな技術の研究開発が進められています。例えば、量子力学をコンピューターに応用すれば、現在のスーパーコンピューターでは時間のかかる問題を一瞬で解くことができます。通信の分野に応用すれば、ほかの人に読み取られずに情報のやりとりを行うことができるため、暗号通信に活用することができます。また、わたしたちは現在、GPSなどの人工衛星に位置情報(ナビゲーション)を頼っていますが、量子技術はその代わりとなる可能性が指摘されています。
情報通信技術(5Gなど)
みなさんの使っている携帯電話は4Gでしょうか、5Gでしょうか。5Gとは「第5世代」のことを指しており、1980年代に最初に登場した携帯電話を1G(第1世代)とし、そこから2G、3G、4Gと進化し、日本では現在新しく5Gの携帯電話サービスが広まり始めています。
5Gへの進化によって、単に多くの情報を速くやりとりできるようになるだけではなく、やりとりをする際の遅延(タイムラグ)もほとんどなくなり、たくさんの機器を同時にネットワークにつなげることができるようになります。タイムラグがなくなり、遠隔操作での自動車の運転などにも安心して使えるようになりますし、携帯電話だけでなく例えば冷蔵庫やエアコンなどの電化製品もネットワークにつなげることができるようになります。防衛の分野においても、複数のドローンの操縦など新たな活用方法に注目が集まっています。
先端技術などに対する防衛省のアプローチ
先端技術は、防衛省・自衛隊にとっても重要です。例えば、人工知能(AIは、自動運転や無人コンビニを可能にするだけでなく、装備品に活用することで、戦闘機の操縦の支援や、無人機の活用による警戒監視任務の無人化・省人化が可能になり、過酷な任務に励む自衛隊員の負担を軽減することができます。防衛省・自衛隊は、将来的に防衛分野に活用しうる技術を育てるために、企業や大学などの先進的な技術に関する基礎研究に対しての支援なども実施しています。産業界や学術界と連携しつつ、このような取組を進めることで、新たな技術の芽吹きにつながり、日本の科学技術の発展にも貢献しています。
また、防衛に関係する装備品の開発や生産をする国内の会社は、自衛隊の運用を支える基盤であり、日本の防衛力そのものです。防衛省はこうした国防を担う会社とも日ごろからしっかりと連携しています。
経済安全保障を巡る動向
新型コロナウイルスの影響下において、医薬品などが必要なところに行き渡らなくなるといったことが起こりました。必要な物の供給を確保できなければ、それが国や国民の安全をおびやかすことになりかねません。
また、アメリカと中国を中心に先端技術の利活用や管理をめぐる国家間競争が激化しており、わが国としても自国の強みとなるような技術を育てつつ、そのような技術が流出しないよう措置を講ずる必要があります。こうした安全保障と経済を横断する新しい課題が「経済安全保障」という新たな安全保障の課題として、広く認識されるようになってきています。そのため、日本でも2021年にはじめて「経済安全保障」を担当する大臣を置き、翌2022年には「経済安全保障推進法」という法律を策定するなど、政府全体で協力して様々な取組を実施しています。防衛省・自衛隊も、こうした政府一体の取組に積極的に協力しています。
スマホとかSNSとか僕たちに身近なものも防衛や安全保障に関係しているんだね。
急速に技術が発展する中で、国を守るため、防衛省・自衛隊だけでなく、ほかの省庁や企業や研究機関などとも協力し、日本全体として取り組むことが、ますます重要になっているんだよ。