日本を守るためには、陸海空といった従来の領域にとどまらず、宇宙領域、サイバー領域、電磁波領域といった「新たな領域」にも対応をしていくことが必要です。防衛省・自衛隊はこうした「新たな領域」においても様々な取組を進めています。
宇宙・サイバー・電磁波という「新たな領域」と世界の動き
宇宙空間には、様々な種類の人工衛星が打ち上げられており、天気予報、テレビの衛星放送、携帯電話のGPSによる位置情報機能など、日常生活の様々な場面で役立っています。また、インターネットなどの情報通信ネットワーク上の仮想空間のことをサイバー空間と呼びますが、このような情報通信ネットワークは、わたしたちの生活のあらゆる場面で必要不可欠なものになっています。さらに「電磁波」というと少しなじみの薄い言葉のように思われる人もいるかもしれませんが、テレビやラジオの放送や、携帯電話の通信などに使われている電波も電磁波であり、わたしたちの日常生活の中に深く入り込こんでいます。
このような宇宙・サイバー・電磁波の領域においては、科学技術が急速に発展し、わたしたちの生活をますます便利にしている一方、安全保障上の「新たな領域」として、各国が関連する能力を急速に開発しています。
宇宙
人工衛星を活用すれば、地球上のあらゆる地域の観測や通信、位置の測定を行うことができます。このため、主要国は、軍事施設の偵察やミサイルなどの発射を探知する衛星をはじめ、宇宙を利用した能力を上げることに力を注いでいます。
一方、自分の国が軍事的に有利な状況を確保するために、他国が宇宙を利用することを妨げる能力も重視されています。
具体的には、中国やロシアが衛星を破壊することを目標としたミサイルを発射したり、衛星を攻撃するための衛星(キラー衛星)を開発していると指摘されています。このような宇宙空間における脅威の増大が指摘される中、アメリカをはじめ、宇宙空間を「戦闘領域」や「作戦領域」と位置づける動きが広がっており、宇宙の安全保障は差し迫った課題となっています。
サイバー
日本を守るためには、自衛隊の部隊を動かしたり、集めた情報を共有したりすることが大事です。その際に、情報通信ネットワークはとても重要です。一方、国家が関与する高度なサイバー攻撃など、サイバー空間における脅威は増大しています。中国、ロシア、北朝鮮は、サイバー攻撃を増加させているといわれ、軍としてもサイバー攻撃能力を強化しているとみられています。サイバー攻撃を受けると、情報が勝手に抜き取られたり、システムの動作が妨害されてしまったり、乗っ取られたりしてしまう可能性があります。電力システムなど、わたしたちの生活に重要な基盤がサイバー攻撃を受ければ、大変な影響を受けるだけでなく、自衛隊が持つ戦車や護衛艦、航空機が動かせなくなるなどの可能性があります。
こういったことを防ぐためにも、サイバー攻撃への対処能力を向上することはとても重要です。
電磁波
電磁波は防衛の分野においても、命令を伝えるための通信機器、敵を発見するためのレーダー、ミサイルを目標に向かわせるための誘導装置などに数多く使われています。そのため現代の作戦では、電磁波が使えなくなると著しく不利になってしまうため、電磁波の領域で優勢を確保することが必要不可欠なものとなっています。
電磁波領域を利用した作戦は「電磁波作戦」と呼ばれますが、各国は電磁波作戦能力を強化しています。
「新たな領域」における自衛隊の取組
宇宙
宇宙空間の安定的な利用を確保するため、防衛省・自衛隊は、2021年度には宇宙作戦群という専門の部隊を設置し、JAXAなどの関係機関や、アメリカなどの国とも連携しながら、「宇宙状況監視(SSA)」を強化するなどの取組を進めています。
サイバー
サイバー空間における様々な脅威に対応するため、自衛隊は24時間態勢で自らの通信ネットワークの監視やサイバー攻撃への対処を行っています。2021年度には自衛隊サイバー防衛隊という専門の部隊も設置しました。さらに、アメリカなど様々な国とも連携しながら、サイバー領域における能力のさらなる強化を進めるとともに、陸上自衛隊高等工科学校に専門のコースを設けるなど、人材育成にも取り組んでいます。
電磁波
電磁波領域においては、普段からほかの国の電磁波に関する情報を収集・分析し、日本に攻めてこようとする敵が電磁波をうまく使えないようにすることが重要です。このため、自衛隊では、九州や沖縄をはじめ全国に専門の部隊の整備を進め、能力を強化しています。また、攻めてこようとする敵のレーダーや通信などを無力化するための能力の強化も進めています。