安全保障・防衛分野における国際協力の必要性と潜在性がかつてなく高まる中、防衛省・自衛隊としても、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、わが国の安全及び地域の平和と安定、さらには国際社会全体の平和と安定及び繁栄の確保に積極的に寄与していくことが重要です。
このため、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを踏まえ、地域の特性や相手国の実情を考慮しつつ、多角的・多層的な安全保障協力として二国間・多国間の防衛協力・交流を実施しています。
FOIP:「自由で開かれたインド太平洋」とは
経緯
- 2016年8月、安倍総理(当時)はケニアで開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD
VI)の基調演説において、「自由で開かれたインド太平洋」(Free and Open
Indo-Pacific)の考え方を提唱。
- 自由で開かれたインド太平洋を介してアジアとアフリカの「連結性」を向上させ、地域全体の安定と繁栄を促進することを目指す。
「自由で開かれたインド太平洋」の基本的な考え方
- インド太平洋地域は、世界人口の半数を擁する世界の活力の中核であり、この地域の安定的で自律的な発展を実現することは、世界の安定と繁栄にとって不可欠
- 「自由で開かれたインド太平洋」ビジョンは、インド太平洋地域全体に広がる自由で活発な経済社会活動を促進し、地域全体の繁栄を実現することを目指すもの
「自由で開かれたインド太平洋」の三本柱
- 法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着
- 経済的繁栄の追求(連結性の向上等)
- 平和と安定の確保
✔「自由で開かれたインド太平洋」の推進に向け、政府一体となって取り組んでいく方針
インド太平洋地域の特色
- 我が国の主要なシーレーンが通過し、世界人口の多くが集中。また、経済成長も著しいことを踏まえれば、当地域の安定は我が国の安全と繁栄のために極めて重要
- 他方で、地域内では軍事力の急速な近代化や軍事活動の活発化が見られるなど、地域の安定にはさまざまな課題が存在
- 地域内では、こうした急速な環境の変化に対応すべく各国が取組を実施
防衛省における取組の方向性
- 防衛協力・交流を活用し、主要シーレーンの安定した利用を確保
- 信頼醸成や相互理解を進め、不測の事態を回避
- 関係各国と協力し、地域の平和と安定に貢献
✔ インド太平洋地域には安全保障上多くの課題が存在
✔ 防衛協力・交流を活用し、我が国にとって望ましい安全保障環境を創出
FOIPビジョンの広がり
- 米国、オーストラリア、ASEAN、インドに加え、英国、フランス、ドイツ、オランダといった欧州諸国やEUがインド太平洋地域におけるイニシアチブやビジョンを有しており、これらは我が国の「自由で開かれたインド太平洋」ビジョンとも整合的なもの
- 防衛省・自衛隊を含め、我が国としては、このビジョンに賛同する全ての国との協力を推進していく考え
FOIPビジョンに基づく取組
- 防衛省・自衛隊としては、重要なシーレーンが通過する東南アジア、南アジア、太平洋島嶼国に加え、エネルギー安全保障上重要な中東やアフリカ、中南米といったインド太平洋の各地域との間で、防衛協力・交流を強化
- 推進に当たっては、米国、豪州、インド及び英仏独等の欧州諸国や、カナダ、ニュージーランドといった、FOIPというビジョンを共有し、インド太平洋地域に繋がりを有する国々との間で積極的に協働
✔FOIPは包摂的なものであり、この考えに賛同するのであれば、いずれの国とも協力可能
FOIPの維持・強化に向けて協働を進めていく国々との協力の例
米 国
FOIPの維持・強化のため、日米が基軸となって共同訓練や能力構築支援の実施などを通じ、地域内外の多様なパートナーとの協力を強化
ベトナムに対する能力構築支援(潜水医学)(2019年3月)
豪 州共に米国の同盟国として、基本的価値のみならず安全保障上の戦略的利益を共有
地域における平和と安定の維持に共に貢献する意思と能力を兼ね備えた「特別な戦略的パートナー」
東ティモールに対する能力構築支援 「ハリィ・ハムトゥック」(2021年9月)
イ ン ド
普遍的価値を共有し、アジア及び世界の平和と安定、繁栄に共通の利益を有する特別な「戦略的グローバル・パートナー」
日米印豪共同訓練「マラバール」(2021年8月)
英 国
欧州のみならず世界に影響力を持つ大国であり、我が国と歴史的にも深い関係を有し、安全保障面でも米国の重要な同盟国として戦略的利益を共有
- 日英共同訓練(ガーディアン・ノース、ヴィジラント・アイルズ)
- 2021年、英空母「クイーン・エリザベス」を旗艦とする英空母打撃群が日本に寄港するとともに、パシフィック・クラウン等の共同訓練を実施
- 日英「2+2」
日本に寄港した英空母クイーン・エリザベスを視察する岸防衛大臣(2021年9月)
フ ラ ン ス
インド太平洋地域に常続的な軍事プレゼンスを有する唯一のEU加盟国、我が国と歴史的にも深い関係を持つ「特別なパートナー」
- 日仏米豪印共同訓練(ラ・ペルーズ21)
- 2021年、仏練習艦隊「ジャンヌダルク」の構成艦艇と共に、東シナ海等で日米豪仏共同訓練(ARC21)を実施
- 日仏「2+2」
日米豪仏共同訓練「ARC21」(2021年5月)
ド イ ツ基本的価値を共有し、G7等において国際社会の問題に対し協調して取り組むパートナー
- 2021年4月に、日独間で初の「2+2」
- 本年、独フリゲート「バイエルン」がインド太平洋地域への展開を開始し、8月にはアデン湾で日独共同訓練を実施
第1回日独「2+2」(オンライン形式) (2021年4月)
カ ナ ダ 共にG7に所属し、同じ太平洋国家であるとともに、基本的価値を共有するパートナー
日加共同訓練「KAEDEX20」 (2020年11月)
ニュージーランド
基本的価値観を共有する重要な太平洋地域の「戦略的協力パートナー」
ミクロネシア連邦等における人道支援・災害救援共同訓練「クリスマス・ドロップ」(2019年12月)
FOIPの維持・強化に向けて協力を強化する地域との取組の例
東南アジア シーレーンの安定的確保、南シナ海の航行・上空飛行の自由
南アジアシーレーンの安定的確保、インド洋沿岸の港湾の安定的利用
- スリランカ軍に対する能力構築支援(航空救難)
- パキスタン海軍主催の多国間共同訓練「アマン21」への海上自衛隊の艦艇の参加
- 地域の安定・安全の確保のため、自衛隊のアセットによる寄港・寄航の推進(スリランカ、パキスタン、モルディブ、バングラデシュ)
パキスタン海軍主催多国間共同訓練「アマン21」(2021年2月)
スリランカ空軍に対する能力構築支援(航空救難) (2021年5月)
中南米 防衛当局間の中長期的な関係の構築
- ブラジルとの間での防衛協力に関する覚書の署名(他に中南米諸国では、コロンビアと覚書を署名済)
日ブラジル防衛相テレビ会談 及び日ブラジル防衛協力・交流に関する覚書の署名式 (2020年12月)
能力構築支援事業の歩み
相手国軍隊などの能力向上を図り、相手国が国際平和・地域の安定のための役割を果たすことを促進する事業。具体的な事業:セミナーや実習、技術指導、教育・訓練の視察や意見交換など。
これまでの歩み
2012年よりインド太平洋地域の軍隊等に対して能力構築支援を実施し、これまでに約700名の自衛官等が派遣され、支援対象者は約5,400名を数えている。また、米豪軍などの関係国と協力し、それぞれの能力を活かしつつ事業を効率的に進める取組も実施。
事業状況
各国とのこれまでの取組
能力構築支援における主な取組
人道支援・災害救援における取組
ASEAN諸国に対する人道支援・災害救援事業(2018年以降毎年実施)

災害対応に関するセミナー、机上訓練、防災訓練視察等を通じ、大規模自然災害発生時における多国間協力体制の強化を目指す。
新たな脅威への取組
ベトナムに対するサイバーセキュリティ事業(2017年、2019年、2020年、2022年実施)

講義と実習を通じ、ベトナム人民軍がサイバー空間で発生するインシデントに適切に対応するサイバーセキュリティ能力の向上に寄与。
国連平和維持活動に資する取組
モンゴルに対するPKO(施設)事業(2014年~2019年、2021年実施)

PKO派遣に必要な道路構築分野における人材育成に貢献することで、モンゴル軍独力での道路施工を可能とする体制の整備を目指す。
海洋安全保障における取組
スリランカに対する航空救難事業(2019年、2020年、2021年実施)

航空自衛隊の救難機パイロットや救難員による技術指導や航空救難マニュアルの共同作成を通じ、洋上における捜索救難能力の向上に貢献。
太平洋島嶼国に対する取組
パプアニューギニアに対する軍楽隊育成事業(2015年~2019年、2021年実施)

演奏・演出に関する技術指導等を通じ、パプアニューギニア軍楽隊の国家的行事や軍楽祭等におけるパフォーマンスの発揮に貢献。
関係国と連携する取組
東ティモールにおける米豪との共同事業(2015年~2019年、2021年実施)

豪軍主催のハリィ・ハムトゥック訓練に参加し、建築等の施設活動を通じて、東ティモール軍の能力向上に寄与すると共に日米豪各軍の関係強化を図る。
新型コロナウイルス感染症流行下における防衛協力・交流
防衛計画の大綱(2018年)における安全保障協力の位置づけ
我が国の防衛の基本方針
- 我が国の防衛について、その目標及びこれを達成するための手段を明示した上で、これまで以上に多様な取組を積極的かつ戦略的に推進する
- 防衛の目標として、平素から、我が国が持てる力を総合して、我が国にとって望ましい安全保障環境を創出するとともに、脅威を抑止し、万が一脅威が及ぶ場合には、確実に脅威に対処する
- 防衛の目標を確実に達成するための手段として、①我が国自身の防衛体制、②日米同盟、③安全保障協力を強化していく
安全保障協力の強化
- 自由で開かれたインド太平洋というビジョンを踏まえ、地域の特性や相手国の実情を考慮しつつ、多角的・多層的な安全保障協力を戦略的に推進する
- その一環として、防衛力を積極的に活用し、共同訓練・演習、防衛装備・技術協力、能力構築支援、軍種間交流等を含む防衛協力・交流に取り組む
✔ 我が国の防衛の目標を達成するための3つの手段のうちの一つとして、安全保障協力を位置づけ
✔ 「自由で開かれたインド太平洋」の達成に資するよう、安全保障協力を強化
パンフレット
第二版(2021年11月更新)
2nd ver.(Updated on November 2021)
初版(2020年7月)
1st ver.(July 2020)
FOIP対外発信
令和2年度 防衛省シンポジウム 戦略的な国際防衛協力の推進
~「自由で開かれたインド太平洋」ビジョンを踏まえた防衛省の取組~
基調講演
防衛省防衛政策局長 岡 真臣
基調講演
パネルディスカッション
モデレーター
パネリスト
- 大庭 三枝(神奈川大学法学部教授)
- 川島 真 (東京大学大学院総合文化研究科教授)
- 佐竹 知彦(防衛研究所主任研究官)
- 神保 謙 (慶應義塾大学総合政策学部教授)
- 高見澤 將林(東京大学公共政策大学院客員教授)
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2021年11月24日更新