【AI時代だからこそ、人が決断する】
近年、AI(人工知能)の進歩には目を見張るものがあります。
文章や画像を思いどおりに生成し、膨大な情報を瞬時に分析する。少し前までは想像もしなかったことが、今では日常になりつつあります。
その一方で、「AIに仕事を奪われるのではないか」という声も聞かれるようになりました。確かに、定型的な事務作業や情報処理など、多くの仕事はAIによって効率化され、その役割も変わっていくでしょう。実際、米国のIT企業では、人員の削減が相次いでいると、先日の新聞記事にもありました。
では、自衛隊という職業も、今後AIに置き換わっていくのでしょうか?
私は、仕事の内容は変化していくものの、職業そのものは決してなくなることはないと、考えています。
『クリムゾン・タイド』は、私の好きな映画の一つです。米海軍のSSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)を舞台に、核ミサイル発射命令を受けた艦長と副長が対立する物語です。
発射命令を受信している最中、攻撃によってアンテナが故障し、通信が途絶えます。命令はそのまま有効なのか、それとも続報があるのか。さらなる攻撃が迫る状況下、限られた情報の中で、艦長は発射を主張し、副長は確認を優先すべきだと訴えます。どちらも職務に忠実であり、どちらにも合理的な理由があります。しかし、その判断が国家の命運を左右するかもしれないという極限状態の中で、最後に求められるのは、誰かが責任を持って決断することでした。
この映画が公開されたのは30年以上前ですが、AIが急速に進歩する今だからこそ、改めて考えさせられる作品です。
AIは、膨大な情報を分析し、最適と思われる選択肢を提示してくれます。災害時の被害予測、衛星画像の解析、レーダー情報の分析、装備品の故障予測、補給計画の最適化など、自衛隊においても、AIが活躍する場面は今後ますます増えていくでしょう。無人機や無人車両などの技術も進歩し、自衛隊の任務を支える重要な力になることは間違いありません。
しかし、AIは「最適解」を示すことはできても、その結果に責任を負うことはできません。
災害派遣では、どの地域を優先して救助するのか。隊員の安全をどこまで確保するのか。国の防衛では、刻々と変化する状況の中で、法令や国際情勢、国民への影響など、さまざまな要素を総合的に考えながら判断しなければならない場面が生じます。その判断には、知識や経験だけでなく、使命感や倫理観、そして何より「自分が責任を負う」という覚悟が求められます。
少なくとも、そこにある「決断」と「責任」までをAIに委ねることはできません。
AI時代を迎え、自衛隊の仕事はこれまで以上に変化していくでしょう。しかし、それは人間が不要になるということではありません。AIを活用しながら、より高度な判断を担う存在へと、自衛官の役割も変化していくということです。
AIは、これからも進歩し続けるでしょう。しかし、国民の命と平和な暮らしを守るという使命は変わりません。その使命を最後まで担うのは、あくまでも「人」です。
優れた技術を使いこなし、自ら考え、仲間と協力しながら、最後には決断し責任を負う。自衛官という仕事の本質は、変わることはありません。むしろその価値は、これからの時代にはますます高まっていくと、私は確信しています。
【装備品の向こうにいる、「人」を見てほしい】
皆様は、自衛隊と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。
護衛艦でしょうか。航空機でしょうか。それとも災害派遣の現場でしょうか。
7月1日から、陸上自衛隊東部方面隊の管内では、夏の広報キャンペーン、「サマキャン」を実施しています。
千葉県内の自衛隊部隊も、各駐屯地、基地で実施する「夏祭り」、松戸駐屯地や下総基地で実施する「駐屯地、基地ツアー」、下志津駐屯地で実施する「子供キャンプ」をはじめ、様々なイベントを予定しています。
こうしたイベントを紹介すると、多くの方は護衛艦や航空機、車両などの装備品を思い浮かべるかもしれません。確かに、普段はなかなか目にすることのない装備品を間近で見られることは、自衛隊ならではの魅力の一つです。しかし、私が来場いただいた皆様に本当に見ていただきたいのは、装備品そのものではなく、その装備品を運用し、日々の任務に取り組んでいる自衛官たちです。
私自身の経験をお話ししたいと思います。
私は神奈川県横須賀市の出身です。子供の頃から港には護衛艦が並び、それが当たり前の風景でした。海上自衛隊や米海軍が基地で開催するイベントに足を運ぶ機会もあり、自衛隊は身近な存在だったと思います。
しかし、当時の私は、自衛隊を自身の職業の選択として考えたことはありませんでした。「学校の先生」になろうと思っていたのです。
時は流れて私は大学4年生、教員免許は取得する目途が立ったものの、当時は就職氷河期、中学・高校の社会の先生の志願倍率は、100倍を超えている時代でした。
「さて、どうしたものか」と悩んでいたまさにその時、たまたま大学で、自衛隊が職業説明会を実施しているところに遭遇し、本当に軽い気持ちで、話を聞いてみたのです。
そこには、同じ大学を5年前に卒業した、陸上自衛隊の2等陸尉がおりました。彼は、自衛隊での仕事のやりがい、責任、仲間との絆、厳しい訓練と自らの成長について、飾らない言葉で語ってくれました。彼と話をする中で、「このような世界で働いてみるのも、一つのチャレンジとしてありかもしれない」と感じたことを、今でも鮮明に覚えています。
振り返ってみれば、私が自衛隊という職業を選んだのは、装備品に魅力を感じたからではなく、一人の自衛官の姿に、自身の将来のイメージを、重ねることができたからでした。
自衛隊というと、厳しい訓練や特殊な任務をイメージする方もいるかもしれません。しかし実際には、操縦士や整備員、通信員、補給や会計を担当する隊員など、多様な職種の隊員がそれぞれの専門性を発揮しながら任務を遂行しています。
また、陸・海・空それぞれの現場で働く隊員たちは、異なる環境の中で様々な経験を積みながら成長しています。その姿は、将来を考える皆様にとっても、大きな参考になるのではないでしょうか。
サマキャンに来場いただいた皆様には、ぜひ隊員たちと積極的に話をしていただきたいと思います。なぜ自衛隊を志したのか。どのような仕事をしているのか。仕事のやりがいや苦労は何か。そうした何気ない会話の中に、自衛隊という組織の本当の姿が見えてくるはずです。
特に、自衛隊を進路の一つとして考えている皆様には、自衛隊を身近に感じてもらうとともに、そこで働く自衛官との出会いを通じて、自らの将来について考えるきっかけとしていただければ幸いです。
装備品の向こうには、人がいます。そして、その人との出会いが、皆様の未来を変えるかもしれません。
【災害に備える ― 千葉地本のもう一つの任務】
6月3日、房総半島南岸を通過した台風6号は、千葉県内にも広い影響を及ぼしました。
一部地域では警戒レベル4相当の避難指示が発令され、公共交通機関の運転見合わせや道路の通行止めも相次ぎました。大規模な被害には至りませんでしたが、改めて自然の猛威と災害への備えの重要性を実感した方も多かったのではないでしょうか。
こうした自然災害の発生が予想される場合、自衛隊の各部隊では災害派遣を見据えた準備を開始します。千葉地方協力本部も例外ではありません。
今回の台風接近に際しても、早い段階から千葉県庁の防災担当部署との連絡体制を構築し、状況の推移を注視していました。幸い県の災害対策本部は設置されませんでしたが、万一設置された場合には、県庁に最も近い自衛隊機関である千葉地本から職員を派遣し、直ちに対応できる態勢を整えていました。
災害が発生した際、自衛隊法に基づき災害派遣を要請する権限を有するのは県知事です。そのため、県庁に派遣された千葉地本の職員は、被害状況の把握を支援するとともに、県と自衛隊の橋渡し役として活動します。自衛隊の能力や活動内容を県に伝え、県の要望や現地の状況を自衛隊部隊へ迅速に共有することで、必要な活動を速やかかつ効果的に開始できるよう調整を行います。
この任務に当たるのが、LO(リエゾン・オフィサー:連絡幹部)です。千葉地本では、私を含む7名の職員が緊急参集要員として指定されており、LOとして、24時間いつでも対応できる態勢を維持しています。
千葉県内には、陸・海・空合わせて9,000名を超える自衛官が勤務しています。しかし、その力を災害時に最大限発揮するためには、平素からの緊密な連携と意思疎通が欠かせません。
このため、千葉県と自衛隊はさまざまな防災訓練を実施するとともに、防災関係者と在葉自衛隊部隊の指揮官が定期的に会議を行い、課題の共有や連携強化に努めています。
本年度の会議は5月13日に千葉市内で開催され、能登半島地震における災害派遣の教訓や、自衛隊部隊の改編による影響などについて活発な意見交換が行われました。
災害は、発生してから備えることはできません。だからこそ、自衛隊は平素から自治体との連携を深め、有事に備えています。
近年、自然災害は激甚化・頻発化の傾向にあります。県民の皆様の安心と安全を守るため、千葉地方協力本部はこれからも関係機関との連携を強化し、「見えない備え」の充実に努めてまいります。
【一歩踏み出すことで広がる世界 ― 自衛隊という選択肢】
先日、県内高校のインターアクトクラブの生徒の皆さんを対象に、「世界の現場で働くということ」をテーマに講話を行う機会をいただきました。
社会貢献への関心が高い生徒の皆さんの姿に触れ、改めて将来を担う世代の可能性を強く感じたところです。
私自身を振り返りますと、特別な志を持った学生だったわけではありません。高校時代は部活動やアルバイトに打ち込み、将来像も明確ではない、ごく普通の学生でした。
大学に進学してからも同様でしたが、ある時、海外への関心が芽生え、一年間休学して各地を旅した経験が、その後の進路に大きな影響を与えました。異なる文化や価値観に触れたことで、自分の視野が大きく広がったことを今でも鮮明に覚えています。
その後、自衛隊において、各国への寄港時における様々な交流、米海軍をはじめとする外国軍人との議論や共同の活動、さらには海外における能力構築支援など、様々な形で国際的な任務に携わる機会を得ました。
いずれも、国や立場の違いを越えて人と人が向き合い、信頼関係を築きながら課題に取り組む経験であり、大きなやりがいを感じてきました。
こうした経験は、決して特別な人だけに与えられたものではありません。
最初は誰もが、将来に迷う一人の学生です。違いがあるとすれば、それは自ら一歩踏み出したかどうかに過ぎないのではないかと思います。
自衛隊には、国内外で人々の生命と生活を支える多様な任務があります。
その中には、海外の現場で人々の役に立つ仕事も数多く含まれています。若いうちから責任ある役割を担い、仲間とともに成長できる環境があることも大きな特徴です。
進路を考える際には、様々な選択肢を知ることが重要です。
皆様の中から、将来、国内外で活躍し、社会に貢献する人材が育っていくことを期待するとともに、その選択肢の一つとして、自衛隊という道があることを知っていただければ幸いです。
桜の季節に、新たな一歩を踏み出す若者たち
4月の訪れとともに、令和8年度が始まりました。千葉地方協力本部は新たに11名の職員を迎え、新体制でのスタートを切ったところです。
そのような中、先週から今週にかけて参加した各地の入隊式の会場でも、満開の桜が新入隊員たちの門出に彩りを添えていました。
式典において、名前を呼ばれて大きな声で返事をし、宣誓を行う新入隊員たちの姿が強く印象に残っています。
まだあどけなさを残しながらも、その表情には、自らの進む道を選んだ者としての確かな意思が感じられました。
彼ら、彼女らは、特別な誰かではありません。
昨日まで、それぞれの地域で学び、生活していた、私たちと同じ社会の中にいた若者たちです。
その一人ひとりが、「自衛官として、平和と、国民の生活を守る」という決断をし、この場に立っていることに、胸を打たれる思いがいたしました。
自衛官という職業は、日々の生活の中で常に意識される存在ではないかもしれません。
しかし、こうして地域で育った若者たちが、その責務を担おうとしている現実こそが、わが国の平和と安全を支える基盤であると、改めて実感いたしました。
桜の時期もやがて終わりを迎え、季節が移ろうように、彼ら、彼女らもまた、これからの厳しい教育訓練の中で大きく成長していきます。
その歩みは決して平坦ではありませんが、自らの意思で踏み出した一歩が、やがて大きな力となっていくことを確信しています。
地域の皆様におかれましても、こうした若者たちの歩みを、温かく見守っていただければ幸いです。
私自身も、彼ら、彼女らが誇りをもって任務に専念できる環境を整えるため、引き続き全力で取り組んでまいります。
着任のご挨拶
【令和8年3月13日(金)】
令和8年3月13日付、千葉地方協力本部長を拝命いたしました吉江と申します。
出身こそ神奈川県横須賀市になりますが、妻が船橋市出身であり、結婚を機に千葉県に居を定めて、はや10年を超えました。このようなご縁のある地域で勤務する機会をいただきましたことを、大変うれしく思っております。
千葉県は、首都圏を支える活力ある地域であり、豊かな自然と多様な産業、そして温かい地域社会に恵まれた素晴らしい土地であると日々実感しております。また、自衛隊の活動に対し、県民の皆様、自治体の皆様、関係団体の皆様から温かいご理解とご支援をいただいておりますことに、心より御礼申し上げます。
千葉地方協力本部は、自衛隊の活動を地域の皆様に知っていただく広報活動や、自衛官の募集、予備自衛官制度の運営などを通じて、自衛隊と地域社会を結ぶ役割を担っております。
近年、自衛隊の任務はますます多様化しており、我が国の平和と安全を守るとともに、災害派遣などを通じて国民の生命と財産を守る重要な役割を果たしています。その基盤となるのは、志を持って自衛隊の門を叩く若者たちであり、また、それを温かく見守り支えてくださる地域の皆様の存在です。
私たちは、地域の皆様との信頼関係を何より大切にし、誠実で丁寧な活動を積み重ねてまいりたいと考えております。
千葉地方協力本部は、これからも県民の皆様に信頼され、親しまれる存在であり続けられるよう努めてまいります。
引き続き、皆様のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。