内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもっては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合、原則として、出動を命じた日から20日以内に国会に付議して、その承認を求めなければならない。
都道府県知事は、治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合には、当該都道府県公安委員会と協議のうえ、内閣総理大臣に対し、部隊等の出動を要請することができる。内閣総理大臣は、出動の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等の出動を命ずることができる。
参照III部1章2節3項(ゲリラや特殊部隊による攻撃などへの対応)
防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる。
参照III部1章1節3項(わが国の主権を侵害する行為に対する措置)
防衛大臣は、海賊行為に対処するため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において海賊行為に対処するため必要な行動を命ずることができる。
わが国に対する武力攻撃として弾道ミサイルなどが飛来する、又は存立危機事態において弾道ミサイルなどが飛来する場合であって、「武力の行使」の三要件が満たされるときには、自衛隊は、防衛出動により対処することができる。一方、わが国に弾道ミサイルなどが飛来するものの、武力攻撃と認められない場合は、防衛大臣は、次の措置をとることができる。
(1)防衛大臣は、弾道ミサイルなどがわが国に飛来するおそれがあり、その落下によるわが国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると判断する場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、わが国に向けて現に飛来する弾道ミサイルなどをわが国領域又は公海の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。
(2)また、前述(1)の場合のほか、発射に関する情報がほとんど得られなかった場合などのように、事態が急変し、防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得る時間がない場合も考えられる。防衛大臣は、このような場合に備え、平素から緊急対処要領を作成して内閣総理大臣の承認を受けておくことができる。防衛大臣はこの緊急対処要領に従い、一定の期間を定めたうえで、あらかじめ自衛隊の部隊に対し、弾道ミサイルなどがわが国に向けて現に飛来したときには、当該弾道ミサイルなどをわが国領域又は公海の上空において破壊する措置をとるべき旨を命令しておくことができる。
参照図表II-5-1-3(弾道ミサイルなどへの対処の流れ)
III部1章2節2項(ミサイル攻撃などへの対応)
防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、領空侵犯機を着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるために必要な措置(誘導、無線などによる警告、武器の使用など)を講じさせることができる。
参照III部1章1節3項1(領空侵犯に備えた警戒と緊急発進(スクランブル))
防衛大臣は、外国における緊急事態に際し、外務大臣から依頼があった場合には、生命又は身体の保護を要する邦人等を安全な地域に輸送することができる。2021年8月に実施した在アフガニスタン邦人等の輸送における経験などを踏まえ、2022年には法改正を行い(同年4月成立・施行)、輸送手段を原則として政府専用機としていた制限を廃止するとともに、実施にあたっての安全にかかる要件の見直しを行った。あわせて、外国人のうち、①邦人の配偶者・子、②名誉総領事・名誉領事もしくは在外公館の現地職員、③独立行政法人のいわゆる現地職員については、邦人と同様に主たる輸送対象者とすることとし、主たる対象者を拡大した。
また、生命又は身体に危害が加えられるおそれがある邦人等の警護、救出などの「保護措置」も、外務大臣からの依頼を受け、外務大臣と協議し、次のすべてを満たす場合には、内閣総理大臣の承認を得て実施可能となっている。
ア 保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがないと認められること
イ 自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む。)を行うことについて、当該外国など10の同意があること
ウ 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること
参照III部1章4節2項(在外邦人等の保護措置及び輸送への対応)
自衛隊法第95条の2の規定に基づき、自衛隊と連携してわが国の防衛に資する活動に現に従事している米軍等の部隊の武器等を防護できることとされている。本条の基本的な考え方、本条の運用に際しての内閣の関与などについては、国家安全保障会議において決定された「自衛隊法第95条の2の運用に関する指針」11により定められており、概要は次のとおりである。
本条の警護は、米軍その他の外国の軍隊その他これに類する組織の部隊であって、自衛隊と連携してわが国の防衛に資する活動(共同訓練を含み、現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く。)に現に従事しているものの武器等を対象としている。本条は、わが国の防衛力を構成する重要な物的手段に相当するものと評価することができるものを武力攻撃に至らない侵害から防護するための、極めて受動的かつ限定的な必要最小限の武器の使用を認めるものである。
「我が国の防衛に資する活動」に当たり得る活動については個別具体的に判断されるが、主として①弾道ミサイルの警戒を含む情報収集・警戒監視活動、②重要影響事態に際して行われる輸送、補給などの活動、③わが国を防衛するために必要な能力の向上のための共同訓練が考えられる。
米軍等から警護の要請があった場合には、防衛大臣は、当該活動が「我が国の防衛に資する活動」に該当するか及び警護の必要の有無について、活動の目的・内容、部隊の能力、周囲の情勢などを踏まえ、自衛隊の任務遂行への影響も考慮したうえで主体的に判断する。
米軍等からの警護の要請を受けた防衛大臣の警護の実施の判断に関し、次の場合には、国家安全保障会議で審議する。ただし、緊急の場合には、防衛大臣は、速やかに国家安全保障会議に報告する。
また、重要影響事態における警護の実施が必要と認める場合は、その旨基本計画に明記し、国家安全保障会議で審議のうえ、閣議の決定を求めるものとする。
参照III部1章5節2項(米軍等の部隊の武器等防護(自衛隊法第95条の2)の警護の実績)
10 国際連合の総会又は安全保障理事会の決議に従って、当該外国において施政を行う機関がある場合にあっては、当該機関
11 「自衛隊法第95条の2の運用に関する指針」については、首相官邸HPを参照(https://www.kantei.go.jp/jp/content/2016122201.pdf)