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令和4年版防衛白書の刊行に寄せて

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国際社会は今、戦後最大の試練の時を迎えています。21世紀における新たな危機の時代に入ったといっても過言ではありません。ロシアによるウクライナ侵略は、世界を驚愕させ、罪のない多くの民間人の命を奪い、怒りと悲しみに打ち震わせました。このような力による一方的な現状変更は、国際社会の平和と繁栄を支えてきた普遍的価値に基づく国際秩序の根幹を揺るがすものであり、断じて許容することはできません。

こうした国際秩序への挑戦は、欧州のみの課題ではありません。グローバルなパワーバランスの変化を背景に国家間の戦略的競争が顕在化する中、とりわけインド太平洋地域はそのような競争の中心にあり、既存の秩序は深刻な挑戦に晒されています。

特に、中国は東シナ海や南シナ海において、力による一方的な現状変更やその試みを続けています。また、近年、侵略国であるロシアとの連携を深化させており、わが国周辺で両国の艦艇や航空機による共同航行・飛行も行っています。さらに、台湾をめぐっては、その統一に武力行使も辞さない構えを見せており、地域の緊張が高まりつつあります。

北朝鮮は、本年に入ってからも弾道ミサイルの発射を繰り返し、国際社会に対する挑発を一方的にエスカレートさせています。また、ウクライナ侵略についてロシアを擁護しつつ、事態の原因は米国や西側諸国にあるなどと主張しています。

幸いなことにわが国には志を同じくする多くの仲間がおり、未曾有の危機に直面し、その結束を一層強固なものにしています。なかでも日米同盟の絆は揺るぎなく、さらには日米豪3か国や日米豪印4か国での協力も深化しています。昨年のわが国への艦艇の相次ぐ寄港にも象徴されたように、欧州諸国ともこの地域を自由で開かれたものとすべく協働を進めています。

そして、このように普遍的価値に基づく国際秩序を不変のものとして守っていくためには、わが国の持てる叡智と技術を結集し、総力をあげて、わが国自身の防衛力の強化を急がねばなりません。

現在、岸田内閣総理大臣の指示のもと、新たな国家安全保障戦略などの策定を進めていますが、力による現状変更を未然に抑止するとともに、ウクライナ侵略でも見られたような情報戦やサイバー戦といった現代的な戦いへの備えも万全とすべく、既存の思考の枠組みにとらわれない柔軟な発想で、大胆かつ創造的に、新たな戦略を構築してまいります。

今、世界の平和と安全は灰色の厚い雲に覆われ、先行き不透明であるように見えます。しかしながら、一つだけ確かなことは、明日の国際秩序を形作るのは、今日の私たちの選択と行動であるということです。平和国家としての不動の方針を貫くわが国は、力によって秩序を変えようとする者に断固として反対し続けてまいります。そして、自由や民主主義の強さを、人権や法の重大さを、揺るぎない信念と弛まぬ努力をもって、世界に表明し続けていく決意です。

防衛省・自衛隊は、いつ如何なるときも日本という国を断固として守り抜くため、そして、地域と国際社会の平和と繁栄、これを支えてきた普遍的価値に基づく国際秩序をこの先も確かなものとするため、いかなる困難にも果敢に立ち向かい、この試練の時を切り拓いてまいります。

この白書が、防衛省・自衛隊にその意思と能力があるということを、国民の皆さまと国際社会に対してしっかりとご説明するとともに、わが国が置かれた環境や防衛省・自衛隊の取組についてより一層のご理解を賜るための一助となることを願っております。