Contents

コラム

防衛白書トップ > コラム > <解説>最近の台湾をめぐる国際情勢

<解説>最近の台湾をめぐる国際情勢

中国と台湾は、1949年に中国国民党政権が台湾へ移って以降、台湾海峡を挟んで対峙を続けてきました。中台間では、これまでにも数度の台湾海峡危機と呼ばれる軍事的緊張の高まりが起こりましたが、全面的な武力衝突には発展していませんでした。しかしながら、2016年に台湾で中国との対等な関係構築を志向するとされる民進党の蔡英文政権が発足すると、中国は台湾に対する各種の圧力を一段と強めるようになりました。現在、中台関係をめぐっては、台湾統一には武力行使も辞さない構えを見せる習近平指導部と、これに対抗する蔡英文政権及び「台湾関係法」などに基づき台湾を支援する米国との間で緊張が高まりつつある状況にあると言えます。

こうした台湾をめぐる情勢の緊迫化を背景に、米国のみならず、欧州諸国を中心とする国際社会は台湾海峡の平和と安定への関心や懸念を相次いで表明しており、中には台湾をめぐる問題に積極的に関与する姿勢を示す動きなども現れています。例えば、EUは2021年10月に欧州議会が台湾との関係強化に関する文書を採択したほか、同年11月に欧州議会の議員団が台湾を訪問し、偽情報対策での協力などについて協議したとされています。また、バルト三国の一つであるリトアニアは、同年8月、一つの中国の原則に沿って、台湾と互恵的な関係を追求する旨の声明を発表し、同年11月には、「台湾」の名を冠した出先機関である「台湾代表処」の設置を許可し、台湾との関係を重視していく姿勢を示しました。安全保障面では、同年、米国に加え、英国やカナダの艦艇が台湾海峡を通過したほか、同年11月には、オーストラリアの国防相が、「台湾有事」が起こった場合、米国を支援する旨の発言を行っています。

これらの動向に対し、中国は言論と軍事の両面から強い反発を示しています。2021年6月、台湾海峡の平和と安定の重要性に言及したG7サミット首脳宣言について、中国外交部報道官は、台湾に関する事務は完全に中国の内政事項であり、いかなる外部勢力の干渉も受け入れられないとして強く反発しました。また、リトアニアの「台湾代表処」設置についても、中国外相は、「2つの中国」や「1中1台」を行ういかなる行為にも断固反対するとの立場を表明しました。このほか、台湾国防部の発表によれば、中国は2020年9月以降、台湾南西空域への軍用機の進入を頻繁に行っており、2021年には、2020年の2倍以上に及ぶ述べ約970機の中国機が同空域に進入したとされています。これらの飛行について、中国メディアは、その目的の一つは、域外勢力の頻繁な挑発に断固として反撃することである旨の見解を公表しています。また、中国は、台湾海峡を挟んで台湾に相対する福建省での着上陸訓練の実施を公表したり、2021年8月には東部戦区が、台湾本島南西・南東周辺の海・空域における統合火力強襲などの実動訓練を実施したと発表するなど、台湾に対する軍事的圧力とみられる行動をより一層強めています。

台湾はわが国にとって、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人です。台湾は、わが国の南西諸島に極めて近接しており、最西端にある与那国島からの距離はわずか約110キロです。台湾は、南シナ海、バシー海峡、東シナ海の接点に所在し、わが国の重要なシーレーンに面しています。これらのことから、台湾をめぐる情勢の安定は、わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要であると言えます。台湾をめぐる問題について、わが国としては、対話により平和的に解決されることを期待するというのが従来から一貫した立場であり、引き続き関連動向を注視する必要があります。

訪台したEU議員団と面会する蔡英文総統【台湾外交部HP】

訪台したEU議員団と面会する蔡英文総統【台湾外交部HP】