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<解説>朝鮮半島における兵器開発の進展

2021年の朝鮮労働党第8回大会において、金正恩委員長は、「国防工業を飛躍的に強化して発展させるための中核的な構想と重大な戦略的諸課題」として、核兵器の小型・軽量化や、戦術核兵器、「超大型核弾頭」、「極超音速滑空飛行弾頭」、固体燃料推進式大陸間弾道ミサイル(ICBM)、無人偵察機の開発など、原子力潜水艦、軍事偵察衛星の保有といった具体的な目標をあげ、軍事力を強化していく考えを表明しました。その後の発表によって、党大会時に「国防科学発展及び武器体系開発5か年計画」という計画が提示されたことが分かっており、金正恩委員長が言及した一連の目標は、この計画に関連するものとみられています。

実際に、同年以降に行われた、新型長距離巡航ミサイルや「極超音速ミサイル」と称するミサイルの試験発射、「偵察衛星」開発の重要試験と称して行われた「火星17」型ICBM級弾道ミサイル発射後の発表などにおいて、北朝鮮はそれぞれ「5か年計画」に言及しています。同年9月に金与正朝鮮労働党中央委副部長が同計画の「初年の重点課題遂行のための正常かつ自衛的な活動を行っている」と発表したとおり、北朝鮮は、米朝間・南北間の対話に進展がみられない中、「5か年計画」に沿って関連技術の研究開発・運用能力向上に注力しつつ、これを「自衛的」な活動であるとして常態化・既成事実化を図っています。

北朝鮮は、同年10月には、「国防発展展覧会『自衛2021』」と題する展覧会を開催しました。ここでは、これまで発射が確認されていたミサイルのみならず、「火星17」型ICBM級弾道ミサイル、「極超音速ミサイル」と称するもの、鉄道発射型の弾道ミサイル、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、長距離巡航ミサイルといった、同年以降に新たに発射が発表された各種ミサイルや、これまでの軍事パレードでみられた、新型SLBMの可能性がある「北極星5」型などを表したとみられる展示物が披露されています。その開幕式において、金正恩委員長が「5か年計画」に触れつつ、軍事力を引き続き強化していく意思を表明していることからも、北朝鮮は、「計画」の達成に向けて今後も各種ミサイルの発射を繰り返していく可能性があります。

一方、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した同年9月15日、韓国は、これまで開発・保有を公表していなかったSLBMの試験発射を初めて行い、さらに複数の新型ミサイルの開発や試験にも成功したと発表しました。文在寅大統領(当時)は、これらのミサイル試験が自国の「ミサイル戦力増強計画」に基づき行われたものとしつつ、同時に「北朝鮮の非対称戦力に対抗して圧倒できるよう、多様なミサイル戦力を持続的に増強していく」ことに言及し、北朝鮮に対抗する姿勢も示しました。同年5月、韓国のミサイルの射程や弾頭重量などを制限してきた米韓「ミサイル指針」の終了が発表されたことも追い風として、韓国は今後、同年9月に発表された「2022-2026国防中期計画」にも示しているとおり、ミサイル戦力のさらなる多様化や長射程化を図っていくものとみられます。このほかにも、韓国は、新型イージス艦、ステルス戦闘機などの最新兵器の獲得を計画するとともに、次期戦闘機をはじめ、潜水艦、軽空母、弾道弾迎撃ミサイル、北朝鮮の長射程砲を迎撃する韓国型アイアンドームなど各種兵器の国産化にも注力し、着実に軍備増強を進めています。

こうした動きに対して、金正恩委員長は、韓国が「朝鮮半島地域の軍事的均衡を破壊」していると主張しています。一方で韓国を標的として軍事力を強化しているわけではないとも述べるなど硬軟織り交ぜた姿勢を示しており、朝鮮半島における軍事力の動向や南北関係の推移を注視していくことが必要です。

朝鮮労働党第8回大会において金正恩委員長が提示した目標(軍事関連)(2021年1月)

〇 核技術のさらなる高度化

〇 核兵器の小型・軽量化、戦術兵器化のさらなる発展

〇 超大型核弾頭の生産の持続的な推進

〇 15,000km射程圏内の任意の戦略的諸対象を正確に打撃する命中率のさらなる向上、核先制及び報復打撃力の高度化

〇 近い期間内の「極超音速滑空飛行弾頭」の開発、導入

〇 水中及び地上固体エンジン大陸間弾道ミサイル開発事業の推進

〇 原子力潜水艦と水中発射核戦略兵器の保有

〇 近い期間内の軍事偵察衛星の運用

〇 500km前方の縦深まで偵察可能な無人偵察機をはじめとする諸偵察手段の開発