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<解説>露中軍事協力の動向:「戦略的連携」がもたらす波紋

近年ロシアと中国は、軍事分野における協力を進展させています。かつて、ソ連と中国は、1969年に中ソ国境紛争を経験するなど、軍事的にも緊張関係にありました。1980年代以降、両国は徐々に関係改善を進め、1989年5月の関係正常化を契機として、両国関係における懸案であった国境画定作業が再開され(2008年最終的に画定)、これと並行し、国境地域における兵力削減などが協定に基づき実行されることで、現在みられるような両国の接近の基盤が出来上がりました。

露中両国は2003年に、旧ソ連諸国のロシア及び中央アジア諸国と中国との国境画定枠組みを母体として設立された上海協力機構(SCO)の対テロ共同演習「連携2003」を初めて実施、2005年からは演習名を「平和の使命」に改め実施しており、2012年からは、共同海軍演習「海上協力」を実施しています。「平和の使命」については、当初から中央アジア諸国を交えて実施する年と露中のみで実施する年があり、近年は新たにSCO加盟国となったインドやパキスタンが参加していることから、露中を中心とするユーラシア諸国の軍事面における関係強化やアフガニスタン情勢を念頭に置いた中央アジア諸国軍の能力向上を主眼とするものと考えられます。

「海上協力」については、露中両国が相互に海軍の能力を確認する「内向き」の性格があると指摘される一方で、日本海、東シナ海や黄海といった、演習の主たる参加部隊である露太平洋艦隊と中国海軍双方にとっての主要活動海域にとどまらず、2015年に地中海、2016年に南シナ海、2017年にバルト海で演習を実施しており、露中の連携ぶりをそれぞれの利害関心が大きい海域において第三国に対して誇示する「外向き」の性格もあるものと考えられます。

近年、このような露中の軍事面における協力を「戦略的連携」としてアピールするかのような動きはより顕著なものとなっています。例えば、2018年から2020年にかけて、中国軍がロシア国内の年次戦略指揮参謀部演習に参加したほか、2021年8月には、ロシア軍が初めて中国国内における二国間戦略演習「西部/連合2021」に参加しました。また、2019年以降、露中両国は日本海、東シナ海さらには太平洋上空における爆撃機による共同飛行を実施しており、2021年10月には、前述の「海上協力」参加艦艇を主体とする10隻の海軍艦艇による初めての共同航行を、わが国を周回する形で実施しました。同年11月の露中爆撃機による共同飛行においては、ロシア機が中国領空を、中国機がロシア領空をそれぞれ初めて通過して直接日本海に進出したうえで、日本海から東シナ海、さらには太平洋にかけて実施されました。

そして、これらの動きが「戦略的連携」の強化であるとの見方を裏付けるかのように、2021年11月の露中国防相オンライン会談では、ロシア側が自国隣接空域における米国の戦略爆撃機の活動頻度増加がロシアのみならず、中国にとっても脅威であると主張しつつ、両国軍が共同戦略演習や、前述の共同飛行や共同航行を指すものと思われる、「共同パトロール」に関する協力関係の強化に合意したと発表されました。さらに2022年1月にはアラビア海において、イランを含めた海軍共同訓練を実施したと発表されたほか、ロシアのウクライナ侵略開始から3か月となる同年5月には、通算4回目となる露中爆撃機による共同飛行が、東京における日米豪印首脳会合の開催当日に日本海、東シナ海及び太平洋上空において実施されており、露中共同の軍事活動が、当初のユーラシア内奥における二国間の信頼醸成を主眼とするものから、ユーラシア外縁の海洋において、日米欧を含む国際社会に露中二国間の協力を「戦略的連携」として広くアピールするようなものへと徐々に拡大・変化している様子がうかがえます。

また、軍事技術の分野においても、90年代にみられたロシア製の完成品を中国に輸出するという商業的な利益に重点が置かれたものから、近年では例えば、ミサイル攻撃警報システムの構築支援という、一定程度の信頼関係を前提とするような、戦略的なレベルにおける協力関係へと深化しているように見受けられます。

ロシアと中国は、2022年2月の共同宣言において、中国は、ロシアとともに「NATOのさらなる拡大」に反対することを、ロシアは、「一つの中国」原則を尊重し、いかなる形であれ「台湾の独立」に反対することを宣言し、それぞれの「核心的利益」を相互に支持する姿勢を確認しました。露中両国は、同宣言においても随所にみられるように、米国を露中共通の競争者として常に意識しつつ協力関係を進展させているように見受けられます。2月24日にロシアがウクライナへの侵略を開始すると、中国は、ロシアの侵攻計画について関知はしていないとの立場をとりつつも、ロシアを非難せず、ロシアの行動の原因は米国をはじめとするNATO諸国の「冷戦思考」にあると主張し、安全保障問題におけるロシアの合理的な懸念を理解するとの見解を表明しています。「包括的戦略協力パートナーシップ」を掲げる露中が示した、それぞれの「核心的利益」の相互支持は、今回のロシアの行動によって明らかになったように、露中両国が国際の平和及び安全の維持に主要な責任を負う国連安保理の常任理事国であるにもかかわらず、いずれか一方による他国への侵略行為、すなわち力による一方的な現状変更を他方が容認するかのような関係をもたらしうるものであり、わが国の安全保障の観点からも決して看過できるものではありません。

このように、露中軍事協力は、両国関係の一側面ではありながらも、中印国境紛争の再燃や、欧米諸国との協力を推進するウクライナに対するロシアの侵略といった昨今の国際軍事情勢とあいまって、ロシアとインドの関係や欧州の対中認識といった、露中軍事協力の主要な焦点地域である東アジアの安全保障環境にとどまらない様々な方面に影響を及ぼすものと考えられ、今後もその動向を懸念を持って注視する必要があります。

露中首脳会談におけるプーチン大統領と習近平国家主席(2022年2月4日、北京)【AFP=時事】

露中首脳会談におけるプーチン大統領と習近平国家主席
(2022年2月4日、北京)【AFP=時事】

ロシアのTu-95爆撃機

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中国艦艇とロシア艦艇(2021年10月22日)

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