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第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

3 わが国の主権を侵害する行為に対する措置

1 領空侵犯に備えた警戒と緊急発進(スクランブル)
(1)基本的考え方

国際法上、国家はその領空に対して完全かつ排他的な主権を有している。対領空侵犯措置は、公共の秩序を維持するための警察権の行使として行うものであり、陸上や海上とは異なり、この措置を実施できる能力を有するのは自衛隊のみであることから、自衛隊法第84条の規定に基づき、第一義的に空自が対処している。

(2)防衛省・自衛隊の対応

空自は、わが国周辺を飛行する航空機を警戒管制レーダーや早期警戒管制機などにより探知・識別し、領空侵犯のおそれのある航空機を発見した場合には、戦闘機などを緊急発進(スクランブル)させ、その航空機の状況を確認し、必要に応じてその行動を監視している。さらに、この航空機が実際に領空を侵犯した場合には、退去の警告などを行っている。

2021年度の空自機による緊急発進(スクランブル)回数は1,004回(中国機に対し722回、ロシア機に対し266回、その他16回)であった。これは、1958年に対領空侵犯措置を開始して以来2番目となる回数であった。

緊急発進(スクランブル)準備中の空自戦闘機

緊急発進(スクランブル)準備中の空自戦闘機

近年、中国機の飛行形態は変化し、活動範囲は東シナ海のみならず、太平洋や日本海にも拡大している。2021年度に生起した特異な事例として、8月25日、中国のY-9情報収集機、Y-9哨戒機及びBZK-005無人機が東シナ海から沖縄本島・宮古島間の空域を南下し太平洋に至り、太平洋上で旋回後、反転しこの空域を北上し東シナ海に至った事例があり、これに対して、空自戦闘機を緊急発進させるなどして対応した。無人機による沖縄本島と宮古島の間の通過を公表したのはこれが初めてであり、このような中国軍用機によるこの空域の通過は2013年7月に初確認されて以降、多数確認されている。また、2021年11月には、3度目となるわが国周辺における中露爆撃機による長距離にわたる共同飛行が確認され、空自戦闘機により対応した。このような、両国の戦略爆撃機によるわが国周辺での度重なる軍事演習は、わが国周辺における活動の拡大・活発化を意味するとともに、わが国に対する示威行動を意図したものと考えられる。防衛省・自衛隊としては、今後も活動を活発化させている中国軍の動向を注視しつつ、対領空侵犯措置に万全を期していく。

また、2021年9月12日、北海道知床岬のわが国領海上空を、2022年3月2日、北海道根室半島沖の領海上空をロシア機が領空侵犯する事案が生起し、わが国は外交ルートを通じてロシア政府に抗議した。2021年12月には、ロシアのIL-20情報収集機が日本海、オホーツク海、太平洋を、推定ロシア機8機が長距離にわたり随伴機などを含む形で日本海などを飛行した事例があり、これに対しても空自戦闘機を緊急発進させるなどして対応した。こうしたロシア機の活動も、引き続き注視していく。

参照図表III-1-1-2(冷戦期以降の緊急発進実施回数とその内訳)、
図表III-1-1-3(緊急発進の対象となったロシア機及び中国機の飛行パターン例(2021年度))、
図表III-1-1-4(わが国及び周辺国・地域の防空識別圏(ADIZ)(イメージ))

図表III-1-1-2 冷戦期以降の緊急発進実施回数とその内訳

図表III-1-1-3 緊急発進の対象となったロシア機及び中国機の飛行パターン例(2021年度)

図表III-1-1-4 わが国及び周辺国・地域の防空識別圏(ADIZ)(イメージ)

2 領海及び内水内を潜水航行する潜水艦への対処など
(1)基本的考え方

わが国の領水内5で潜水航行する外国潜水艦に対しては、海上警備行動を発令して対処することになる。こうした潜水艦に対しては、国際法に基づき海面上を航行し、かつ、その旗を掲げるよう要求し、これに応じない場合にはわが国の領海外への退去を要求することになる。

(2)防衛省・自衛隊の対応

海自は、わが国の領水内を潜水航行する外国潜水艦を探知・識別・追尾し、こうした国際法に違反する航行を認めないとの意思表示を行う能力及び浅海域における対処能力の維持・向上を図っている。2004年11月、先島群島周辺のわが国領海内を潜水航行する中国原子力潜水艦に対し、海上警備行動を発令し、海自の艦艇などにより潜水艦が公海上に至るまで継続して追尾した。

また、2018年1月、尖閣諸島周辺のわが国接続水域を潜水航行する中国潜水艦を海自護衛艦などが確認した。これまでも他海域においてわが国接続水域内を潜水航行する潜水艦を確認した事例はあったが、このような尖閣諸島周辺のわが国の接続水域における中国海軍潜水艦による航行の確認は、本件が初めてであった。

さらに、2021年9月10日には中国国籍と推定される潜水艦が奄美大島周辺のわが国接続水域内を潜水航行しているのを確認し、海自護衛艦及び哨戒機による警戒監視を行った。この潜水艦による領海侵入はなかったものの、このような潜水艦の活動はわが国として注視すべきものである。国際法上も、外国の潜水艦が沿岸国の領海内を航行する際には海上において、その旗を掲げて航行しなければならないとされており、国際法に反する活動を許さないためにも、自衛隊は万全の警戒監視態勢を維持していく。

3 武装工作船などへの対処
(1)基本的考え方

武装工作船と疑われる船(不審船)には、警察機関である海上保安庁が一義的に対処するが、海上保安庁では対処できない、又は著しく困難と認められる場合には、海上警備行動を発令し、海上保安庁と連携しつつ対処することになる。

(2)防衛省・自衛隊の対応

防衛省・自衛隊は、1999年の能登半島沖での不審船事案や2001年の九州南西海域での不審船事案などの教訓を踏まえ、様々な取組を行っている。

特に海自は、①ミサイル艇の配備、②特別警備隊6の編成、③護衛艦などへの機関銃の装備、④強制停船措置用装備品(平頭弾)7の装備、⑤艦艇要員の充足率の向上、⑥立入検査隊に対する装備の充実などを実施してきたほか、1999年に防衛庁(当時)と海上保安庁が策定した「不審船に係る共同対処マニュアル」に基づき、定期的な共同訓練を行うなど、連携の強化を図っている。

5 領海及び内水

6 2001年3月、海上警備行動下において不審船の立入検査を行う場合、予想される抵抗を抑止し、その不審船の武装解除などを行うための専門の部隊として海自に新編された。

7 護衛艦搭載の76mm砲から発射する無炸薬の砲弾で、先端部を平坦にして跳弾の防止が図られている。