Contents

第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

4 中東地域における日本関係船舶の安全確保のための情報収集

1 中東地域への自衛隊派遣に向けた経緯

中東地域の平和と安定は、わが国を含む国際社会の平和と繁栄にとって極めて重要である。また、世界における主要なエネルギーの供給源であり、わが国の原油輸入量の約9割を依存する中東地域での日本関係船舶の航行の安全を確保することは非常に重要である。

中東地域においては、緊張が高まる中、船舶を対象とした攻撃事案が生起し、2019年6月には日本関係船舶の被害も発生した。このような状況のもと、米国や欧州諸国などの各国は、その地域において艦船、航空機などを活用し、船舶の航行の安全のための取組を進めている。

わが国は、中東における緊張緩和と情勢の安定化に向けて、同月の安倍内閣総理大臣(当時)のイラン訪問、同年9月の国連総会時の日米首脳会談、日イラン首脳会談をはじめ、政府として外交的な取組を積極的に進めてきた。

このような中、国家安全保障会議などにおいて、総理を含む関係閣僚の間で行った議論の結果、わが国としては、中東地域における平和と安定及び日本関係船舶の安全の確保のためのわが国独自の取組として、①中東の緊張緩和と情勢の安定化に向けた更なる外交努力、②関係業界との綿密な情報共有をはじめとする航行安全対策の徹底、及び③自衛隊アセットの活用による情報収集活動を行っていくこととし、同年12月、日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組について、政府としての方針を閣議決定した。

本情報収集活動では、2021年12月の閣議決定以降、派遣海賊対処行動航空隊のP-3C哨戒機2機に加え、派遣海賊対処行動水上部隊の護衛艦1隻を活用することとしている。

また、活動海域は、オマーン湾、アラビア海北部及びバブ・エル・マンデブ海峡東側のアデン湾の三海域の公海(沿岸国の排他的経済水域を含む。)としている。

自衛隊が収集した情報については、内閣官房、国土交通省、外務省をはじめとする関係省庁に共有しており、官民連絡会議などを通じて関係業界にも共有するなど、政府としての航行安全対策に活用されている。

2 自衛隊の活動
(1)自衛隊による情報収集活動

自衛隊による情報収集活動は、政府の航行安全対策の一環として日本関係船舶の安全確保に必要な情報を収集するものである。

これは、不測の事態の発生など状況が変化する場合への対応としての自衛隊法第82条に規定する海上における警備行動(海上警備行動)に関し、その要否にかかる判断や発令時の円滑な実施に必要であることから、防衛省設置法第4条第1項第18号の規定に基づき実施するものとしている。

(2)活動実績

2020年1月、海賊対処部隊のP-3C哨戒機2機が、情報収集活動を開始した。

また、同年2月、派遣情報収集活動水上部隊の護衛艦が情報収集活動を開始した。

なお、2021年12月の閣議決定に基づき、2022年2月以降、派遣海賊対処行動水上部隊が海賊対処行動と情報収集活動を兼務して実施している。

現在までのところ水上部隊及び航空隊が活動した海域において、日本関係船舶に対する特異な事象があったとの情報には接していない。

ア 水上部隊(2022年2月まで派遣情報収集活動水上部隊、同月以降派遣海賊対処行動水上部隊)

オマーン湾の公海及びアラビア海北部の公海において活動している。確認した船舶数は2022年3月31日現在で累計79,433隻となっている。

イ 航空隊(派遣海賊対処行動航空隊)

アデン湾の公海及びアラビア海北部の西側の公海において活動している。確認した船舶数は2022年3月31日現在で累計45,426隻となっている。

(3)活動期間の延長

中東地域においては、日本関係船舶の防護を直ちに要する状況にはないものの、高い緊張状態が継続していること、また、米国などによる「海洋安全保障イニシアティブ」をはじめ、各国も活動を継続していることなどを踏まえ、2020年以降、政府は自衛隊の活動期間を毎年約1年間延長している。

なお、期間満了前に、日本関係船舶の航行の安全確保の必要性に照らし、自衛隊による活動が必要と認められなくなった場合には、活動期間の終了を待たず、その時点においてこの活動を終了するほか、情勢に顕著な変化が見られた場合は、国家安全保障会議において対応を検討することとしている。

参照図表III-1-1-5(中東における情報収集活動に従事する部隊)、
図表III-1-1-6(自衛隊による情報収集のための活動(イメージ))、
資料20(中東地域における日本関係船舶の安全確保に関する政府の取組について)

図表III-1-1-5 中東における情報収集活動に従事する部隊

図表III-1-1-6 自衛隊による情報収集のための活動(イメージ)

3 関係国との意思疎通や連携
(1) 米国

わが国として、中東地域における日本関係船舶の航行の安全を確保するためにどのような対応が効果的かについて、原油の安定供給の確保、米国との関係、イランとの関係といった点も踏まえつつ、総合的に検討した結果、米国などの海洋安全保障イニシアティブには参加せず、日本独自の取組を適切に行っていくこととした。一方、中東における航行の安全を確保するため、米国とはこれまでも様々な形で緊密に連携してきているところであり、自衛隊の情報収集活動に際しても、わが国独自の取組を行うとの政府方針を踏まえつつ、同盟国である米国と適切に連携することとしている。このため、海自からバーレーンに所在する米中央海軍司令部へ、海上自衛官1名を連絡官として派遣し、米軍と情報共有を行っている。

(2)中東地域における沿岸国

わが国独自の取組として実施する今般の情報収集活動については、イランを含む沿岸国の理解を得ることは重要であり、これまでもこの活動について、透明性をもって説明してきている。また、中東における船舶の航行の安全確保については、沿岸国の役割が重要であり、わが国の取組について、沿岸国に働きかけ、理解を得てきている。