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第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

2 海賊対処への取組

1 海賊対処の意義

海賊行為は、海上における公共の安全と秩序の維持に対する重大な脅威である。特に、海洋国家として国家の生存と繁栄の基盤である資源や食料の多くを海上輸送に依存しているわが国にとっては、看過できない問題である。わが国は、海賊行為に対しては、第一義的には警察機関である海上保安庁が対処し、海上保安庁では対処できない又は著しく困難と認められる場合には、自衛隊が対処することになる。

ソマリア沖・アデン湾は、わが国及び国際社会にとって、欧州や中東から東アジアを結ぶ極めて重要な海上交通路に当たる。人質の抑留による身代金の獲得などを目的とした機関銃やロケット・ランチャーなどで武装した海賊事案が多発・急増したことを受けて採択された2008年6月の国連安保理決議第1816号をはじめとする決議1により、各国は同海域における海賊行為を抑止するための行動、特に軍艦及び軍用機の派遣を要請されている。

これまでに、米国など約30か国がソマリア沖・アデン湾に軍艦などを派遣している。海賊対処のための取組としては、2009年1月に第151連合任務部隊2が設置されたほか、EUは2008年12月から「アタランタ作戦」を実施しており、また、これらに属さない各国独自の活動も行われている。なお、第151連合任務部隊は、2021年6月に、効率的な部隊運用を目的とした組織改編が実施され、第151連合任務群に改編された。

こうした国際社会の取組が功を奏し、ソマリア沖・アデン湾における海賊事案の発生件数は、現在低い水準で推移しているものの、海賊を生み出す根本的な原因とされているソマリア国内の不安定な治安や貧困などはいまだ解決されていない。また、ソマリア自身の海賊取締能力もいまだ不十分である現状を踏まえれば、国際社会がこれまでの取組を弱めた場合、状況は容易に逆転するおそれがある。このように、わが国が海賊対処を行っていかなければならない状況に大きな変化はない。

参照II部5章3項3(海賊対処行動)
図表III-3-2-1(ソマリア沖・アデン湾及びその周辺における海賊等事案の発生状況(未遂を含む))

図表III-3-2-1 ソマリア沖・アデン湾及びその周辺における海賊等事案の発生状況(未遂を含む)

動画アイコンQRコード動画:【海外派遣】第39次派遣海賊対処行動水上部隊活動記録
URL:https://youtu.be/vuFxed4AVLw(別ウィンドウ)

2 わが国の取組
(1)海賊対処行動のための法整備

2009年3月、ソマリア沖・アデン湾においてわが国関係船舶を海賊行為から防護するため、海上警備行動が発令されたことを受け、護衛艦2隻3がわが国関係船舶の直接護衛を開始し、P-3C哨戒機も同年6月より警戒監視などを開始した。

その後、海賊対処法4が同年7月から施行されたことにより、船籍を問わず、全ての国の船舶を海賊行為から防護することが可能となった。また、民間船舶に接近するなどの海賊行為を行っている船舶の進行を停止するために他の手段がない場合、合理的に必要な限度において武器の使用が可能となった。

さらに、2013年11月、「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」の施行により、一定の要件を満たした場合に限り、警備員が日本船舶に乗船し、小銃を所持した警備が可能となった。

参照資料12(自衛隊の主な行動の要件(国会承認含む)と武器使用権限等について)

(2)自衛隊の活動

ア 派遣海賊対処行動水上部隊などの部隊派遣

派遣海賊対処行動水上部隊、派遣海賊対処行動航空隊及び派遣海賊対処行動支援隊を派遣し、現地における活動を実施している。

派遣海賊対処行動水上部隊は、護衛艦(1隻派遣)により、アデン湾を往復しながら民間船舶を直接護衛するエスコート方式と、状況に応じて割り当てられたアデン湾内の特定の区域で警戒にあたるゾーンディフェンス方式により、航行する船舶の安全確保に努めている。護衛艦には海上保安官も同乗5している。

派遣海賊対処行動航空隊は、P-3C哨戒機(2機派遣)により海賊行為への対処を行っている。第151連合任務群司令部との調整により決定した飛行区域において警戒監視を行い、不審な船舶の確認と同時に、海自護衛艦、他国艦艇及び民間船舶に情報を提供し、求めがあればただちに周囲の安全を確認するなどの対応をとっている。収集した情報は、常時、関係機関などと共有され、海賊行為の抑止や、海賊船と疑われる船舶の武装解除といった成果に大きく寄与している。

派遣海賊対処行動支援隊は、派遣海賊対処行動航空隊を効率的かつ効果的に運用するために、ジブチ国際空港北西地区に整備された活動拠点において、警備や拠点の維持管理などを実施しており、2021年に活動拠点開設から10年の節目を迎えた。

また、派遣海賊対処行動航空隊及び派遣海賊対処行動支援隊に必要な物資などの航空輸送を実施するため、必要に応じ空輸隊などを編成し、空自輸送機を運航している。

イ 第151連合任務群司令部派遣隊及び連合海上部隊司令部派遣隊

海賊対処を行う各国部隊との連携強化及び自衛隊の海賊対処行動の実効性向上を図るため、2014年8月以降、第151連合任務群の前身である第151連合任務部隊の司令部に司令部要員を派遣していた。また、2015年5月から8月までの間には、自衛隊から初めて第151連合任務部隊司令官を派遣し、その後、2017年3月から6月、2018年3月から6月及び2020年2月から6月までの間もそれぞれ第151連合任務部隊司令官及び司令部要員を派遣した。

2021年6月、連合海上部隊及び第151連合任務部隊は、効率的な部隊運用を目的とした組織改編を実施した。自衛隊は、引き続き国際社会と連携して海賊対処行動に取り組むために、組織改編後の連合海上部隊及び第151連合任務部隊から改編された第151連合任務群にも司令部要員を派遣している。

ウ 活動実績

水上部隊が護衛した船舶は、2022年3月31日現在で4,063隻(海上警備行動に基づく護衛実績である121隻を含む。)であり、自衛隊による護衛のもとで、1隻も海賊の被害を受けることなく、安全にアデン湾を通過している。

また、航空隊は、同日現在で飛行回数2,897回、延べ飛行時間約21,030時間、船舶や海賊対処に取り組む諸外国への情報提供15,615回の活動を行っている。アデン湾における各国の警戒監視活動の約9割を航空隊が担っている。

アデン湾における海賊対処行動に従事する護衛艦「おおなみ」(2020年9月)

アデン湾における海賊対処行動に従事する護衛艦「おおなみ」
(2020年9月)

呉基地においてソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動出国行事に参加する中曽根防衛大臣政務官(2022年1月)

呉基地においてソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動出国行事に
参加する中曽根防衛大臣政務官(2022年1月)

参照図表III-3-2-2(自衛隊による海賊対処のための活動(イメージ))
図表III-3-2-3(派遣部隊の編成)
I部4章5節2項(2)(海賊)

図表III-3-2-2 自衛隊による海賊対処のための活動(イメージ)

図表III-3-2-3 派遣部隊の編成

3 わが国の取組への評価

自衛隊による海賊対処行動は、各国首脳などから感謝の意が表されるほか、累次の国連安保理決議でも歓迎されるなど、国際社会から高く評価されている。また、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処に従事する現場の海自護衛艦に対し、護衛を受けた船舶の船長や船主の方々から、安心してアデン湾を航行できた旨の感謝や、引き続き護衛をお願いしたい旨のメッセージが多数寄せられている。加えて、一般社団法人日本船主協会などからも日本関連船舶の護衛に対する感謝の意とともに、引き続き海賊対処に万全を期して欲しい旨、継続的に要請を受けている。

1 ほかに、国連安保理が海賊抑止のための協力を呼びかけている決議としては、決議第1838号、1846号及び1851号(以上2008年採択)、決議第1897号(2009年採択)、決議第1918号及び1950号(以上2010年採択)、決議第1976号及び2020号(以上2011年採択)、決議第2077号(2012年採択)、決議第2125号(2013年採択)、決議第2184号(2014年採択)、決議第2246号(2015年採択)、決議第2316号(2016年採択)、決議第2383号(2017年採択)、決議第2442号(2018年採択)、決議第2500号(2019年採択)、決議第2554号(2020年採択)並びに決議第2608号(2021年採択)がある。

2 バーレーンに司令部を置く連合海上部隊が、海賊対処のための多国籍の連合任務部隊として、2009年1月に設置を発表した。

3 2016年12月以降、1隻に変更

4 正式名称:「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」

5 海自護衛艦に海上保安官8名が同乗し、必要に応じて海賊の逮捕、取調べなどの司法警察活動を行っている。