Contents

第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

2 国連平和維持活動などへの取組

国連PKOは、世界各地の紛争地域の平和と安定を図る手段として、伝統的な停戦監視などの任務に加え、近年では、文民の保護(POC:Protection of Civilian)、政治プロセスの促進、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR:Disarmament, Demobilization and Reintegration)、治安部門改革(SSR:Security Sector Reform)、法の支配、選挙、人権などの分野における支援などを任務とするようになっている。2023年3月末現在、12の国連PKOが設立されている。

また、紛争や大規模災害による被災民などに対して、人道的な観点や被災国内の安定化などの観点から、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:Office of the United Nations High Commissioner for Refugees)などの国際機関や各国政府、非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)などにより、救援や復旧活動が行われている。

これまで、わが国は、25年以上にわたって、カンボジア、ゴラン高原、東ティモール、ネパール、南スーダンなど、様々な地域において国際平和協力業務などを実施し、内外から高い評価を得ている。

現在、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS:United Nations Mission in the Republic of South Sudan)及び多国籍部隊・監視団(MFO:Multinational Force and Observers)にそれぞれ司令部要員を派遣している。

今後も国際平和協力活動については、これまでに蓄積した経験を活かし、人材育成などに取り組みつつ、現地ミッション司令部要員などの派遣やわが国が得意とする分野における能力構築支援などの活動を通じ積極的に貢献していくこととしている。

1 多国籍部隊・監視団(MFO Multinational Force and Observers)への派遣
(1)MFOへの派遣の意義など

1981年8月、MFOは、「エジプト・アラブ共和国及びイスラエル国との間の平和条約の議定書」により、平和条約に定められた国連の部隊及び監視団の任務及び責任を代替する機関として設立された。MFOは、1982年の活動開始以来、エジプトとイスラエルとの間の対話や信頼醸成の促進を支援することにより、わが国の「平和と繁栄の土台」である中東の平和と安定に貢献してきた。

このような中、MFOからわが国に対し、要員の派遣について要請があり、わが国としても、国際平和のための努力に対し人的な協力を積極的に果たしていくため、2019年4月以降、国際連携平和安全活動としてMFOへ司令部要員2名を派遣している。

MFO連絡調整部ミーティングに参加する派遣隊員

MFO連絡調整部ミーティングに参加する派遣隊員

また、MFOでは、施設の更新・修繕のニーズが大きく、2023年2月には、MFOから施設担当としてのわが国要員の追加派遣について要請があったことから、同年5月、施設業務を担当する司令部要員2名を追加派遣することとした。

今般の要請は、これまでに派遣した要員の能力・実績が評価された結果であり、追加派遣を行うことは、わが国の自衛隊の強みである施設分野の知見・能力を対外的に示すことができるとともに、MFOの活動基盤である施設の整備に参画することで、中東の平和と安定に一層貢献することができるなど、非常に意義深いものである。

(2)司令部要員などの活動

シナイ半島南部シャルム・エル・シェイクの南キャンプに所在するMFO司令部において、従前より派遣している司令部要員2名は、エジプト及びイスラエルの政府その他の関係機関とMFOとの連絡調整に従事する連絡調整部の副部長及び部員として勤務している。

今般の追加派遣の司令部要員2名については、MFOの各種施設の更新に関する計画の作成や、進捗管理などを行う後方支援部の施設課の課員として勤務を行う。また、MFOに派遣された司令部要員が、円滑かつ効果的に活動を行えるよう、関係機関との連絡・調整などを行うため、カイロに連絡調整要員1名を派遣している。

この活動を通じ、中東の平和と安定へのわが国の一層積極的な関与の姿勢を示すほか、米国などの他の要員派遣国との連携の促進、人材育成の機会となることも期待される。

参照図表III-3-3-2(MFO活動の概要及び関連地図)、図表III-3-3-3(MFO組織図)

図表III-3-3-2 MFO活動の概要及び関連地図

図表III-3-3-3 MFO組織図

動画アイコンQRコード資料:国連PKO派遣30周年 陸上自衛隊「国際活動の軌跡と発展」
URL:https://www.mod.go.jp/gsdf/about/pko30/index.html

2 国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS United Nations Mission in the Republic of South Sudan)
(1)UNMISSへの派遣の意義など

2011年7月、南スーダン独立に伴い、平和と安全の定着や南スーダンの発展のための環境構築の支援などを目的として、UNMISSが設立された。わが国は、国連からのUNMISSに対する協力、特に陸自施設部隊の派遣要請を受け、司令部要員、自衛隊の施設部隊などを派遣してきた。

南スーダンは6つの国と国境を接し、アフリカ大陸を東西南北に結ぶ、極めて重要な位置にある。南スーダンの平和と安定は、南スーダン一国のみならず、周辺諸国の平和と安定、ひいてはアフリカ全体の平和と安定につながるものであり、かつ国際社会で対応すべき重要な課題である。防衛省・自衛隊は、これまでの国連PKOにおいて実績を積み重ね、国連も高い期待を寄せているインフラ整備面での人的な協力を行うことで、同国の平和と安定に貢献してきた。

参照I部3章10節2項(アフリカ)

(2)司令部要員などの活動

現在、陸上自衛官4名(兵站幕僚、情報幕僚、施設幕僚、航空運用幕僚)がUNMISS司令部において活動を実施している。兵站幕僚はUNMISSの活動に必要な物資の調達・輸送、情報幕僚は治安情勢にかかる情報の収集・整理、施設幕僚はUNMISS全体の施設業務にかかる企画・立案、航空運用幕僚はUNMISSが運航する航空機の飛行計画の作成などといった業務を行っている。

さらに、司令部要員の活動を支援するため連絡調整要員1名を在南スーダン連絡調整事務所に派遣している。連絡調整要員は、わが国のUNMISSに対する協力を円滑かつ効率的に行うことを目的として、南スーダン政府などと南スーダン国際平和協力隊との間の連絡調整にあたっている。

このように、わが国は引き続き、UNMISSの活動に貢献していくこととしている。

参照図表III-3-3-4(UNMISSの組織)

図表III-3-3-4 UNMISSの組織

3 国連事務局への防衛省職員の派遣

防衛省・自衛隊は、国連の国際平和に向けた努力に積極的に寄与し、また、派遣された職員の経験をわが国のPKO活動への取組に活用することを目的に、国連事務局へ職員を派遣している。2023年3月現在、2名の自衛官(室長級及び担当級)が国連平和活動局において国連PKOの方針や計画の作成、各国派遣要員の能力評価などに関する業務を行っているほか、1名の自衛官及び1名の事務官(ともに担当級)が国連活動支援局において国連三角パートナーシップ・プログラム(UNTPP:United Nations Triangular Partnership Programme)2に関する業務を行っている。

参照資料59(国際機関への防衛省職員の派遣実績)

4 PKO訓練センターへの講師などの派遣

防衛省・自衛隊は、アフリカ諸国などの平和維持活動における自助努力を支援するため、PKO要員の教育訓練を行うアフリカなどに所在するPKO訓練センターなどに自衛官を講師などとして派遣しており、これらPKO訓練センターの機能強化を通じ、アフリカなどの平和と安定に寄与している。

PKO訓練センターへの講師派遣

PKO訓練センターへの講師派遣

参照資料59(国際機関への防衛省職員の派遣実績)

5 国連三角パートナーシップ・プログラム(UN TPP United Nations Triangular Partnership Programme)への支援

わが国は、これまでPKOの円滑化に欠かせない施設や輸送の分野で確かな信頼を得てきた。今後とも、PKOの早期展開を支援し、質の高い活動を実現するため、2014年9月のPKOサミットにおいて、わが国は積極的な支援を表明し、本プログラムによって具体化された。

本プログラムは、わが国が拠出した資金を基に、国連活動支援局が重機の調達や工兵要員への訓練を実施するものとして始動した。プログラムの開始から2023年3月までに、延べ184名の陸上自衛官をアフリカに派遣し、10回の訓練を、アフリカの8か国312名の要員に対して実施してきている。

また、PKO要員の30%以上がアジアから派遣されていることを踏まえ、工兵要員に対する重機の操作訓練を実施する本プログラムを初めてアジア及び同周辺地域で行うこととした。2022年8月からは、陸上自衛官26名をインドネシア平和安全保障センターに派遣し、インドネシア軍工兵要員を対象としてPKOにおけるインフラ整備、宿営地の造成などに必要な知識及び技能の修得に寄与した。プログラムの開始から2023年3月までに、延べ92名の陸上自衛官を派遣し、アジア及び同周辺地域の9か国76名の要員に対して、計4回の訓練を実施した。

また、国連PKOにおいて、派遣要員の安全確保のための衛生能力強化が課題となっていることを踏まえ、国連が本プログラムにおける支援の枠組みを衛生分野にも拡大することとなった。これを受けて、PKOの活動地域で衛生科隊員又は医療従事者が専門的な治療を行う前に、応急処置を実施できる要員の育成を目的とした国連野外衛生救護補助員コース(UNFMAC:UN Field Medical Assistant Course)が設置された。2022年6月には、2回目となる同コースがウガンダにある国連エンテベ地域支援センターにおいて実施され、教官要員として陸上自衛官1名を派遣し、要員21名に対して教育を実施した。

さらに、UNTPPの一環として、工兵要員を対象とした作業工程管理課程をオンラインで開催している。本課程は、国連PKOミッションにおける工事管理、問題発生時の対処法などを教育するものであり、2022年9月、陸上自衛官4名の教官が、カンボジア、タイ、モンゴルの工兵要員20名を対象に教育を実施した。

6 ウクライナ被災民に対する救援活動への協力

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から、ドバイ(アラブ首長国連邦)にあるUNHCRの倉庫に備蓄された人道救援物資をウクライナ周辺国(ポーランド共和国及びルーマニア)に輸送してほしいとの要請があった。これに応じ、2022年4月28日、閣議において、「ウクライナ被災民救援国際平和協力業務実施計画」が決定され、岸防衛大臣(当時)から「ウクライナ被災民救援国際平和協力業務の実施に関する自衛隊行動命令」を発出した。これを受け、5月から6月までの間、自衛隊機により、ドバイからポーランド及びルーマニアへ人道救援物資を輸送した。今般の活動においては、C-2輸送機により延べ6便、KC-767空中給油・輸送機により延べ2便の計8便を運航し、人道救援物資(毛布、ビニールシート、ソーラーランプ及びキッチンセット)合計約103トンを輸送した。なお、今般の協力について、UNHCRから謝意を表明されたほか、ウクライナ政府関係者からも感謝と高い評価が得られた。

2 国連、国連PKOの要員派遣国及び技術や装備を有する第三国間の協力により、国連PKOの要員派遣国の要員の能力向上を支援するプログラム