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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

2 アフリカ

1 アフリカ諸国が抱える課題

アフリカ諸国は14億人を超える人口を擁し、高い潜在性と豊富な天然資源により国際社会の関心を集めている。一方で、紛争、テロや海賊などの安全保障上の課題を抱えている地域でもある。

スーダンでは、2023年4月、国軍と準軍事組織である「即応支援部隊(RSF:Rapid Support Forces)」とが、RSFの国軍への統合などをめぐって対立し、武力衝突に至った。これまで双方は数度にわたり一時的な停戦を表明し、5月には米国とサウジアラビアの仲介により一時的な停戦に合意したものの、情勢は流動的である。

南スーダンでは、2011年の独立以降、2020年の現暫定政府設立に至るまでに、キール大統領と、マシャール前副大統領(当時)との政治的対立に起因する大規模な武力衝突が2度発生した。また、2021年8月から2022年1月にかけ、マシャール第一副大統領の派閥が分裂して衝突が発生した。このような衝突を背景に、2020年に発足した暫定政府の統治期間が2025年2月まで延長されるなど、総選挙による正式政府発足に向けたタイムラインが後ろ倒しになっており、今後の動向が注目される。

エチオピアでは、2020年11月に連邦政府とティグライ人民解放戦線(TPLF:Tigray People's Liberation Front)との間で武力衝突が発生した。対立は激化し、2021年11月には全土に非常事態宣言が発令されたが、2022年2月に解除され、同年11月には和平合意が成立した。治安の安定に向けた和平合意の履行状況が注目される。

リビアにおいては、2019年4月、東部にある代表議会側の「リビア国軍」(LNA:Libya National Army)が西部にある首都トリポリ郊外に進軍して「国民統一政府」(GNA:Government of National Accord)3側と衝突したが、2020年10月、GNA側とLNA側が停戦合意に署名した。2021年3月にトリポリに「暫定国民統一政府」(GNU:Government of National Unity)が成立したが、同年12月に予定されていた大統領及び議会選挙は時期未定で延期され、正式政府発足に向けた見通しは不透明となっている。

参照図表I-3-10-1(現在展開中の国連平和維持活動)、3項2(アフリカにおける動向)4章5節2項(2)(海賊)III部3章3節2項2(国連南スーダン共和国ミッション)

図表I-3-10-1 現在展開中の国連平和維持活動

2 アフリカ諸国とその他の国との関係

アフリカは安全保障面ではかねてより米国、欧州及びロシアとの関係が深い。そのうえで、近年はロシアとの関係のさらなる深化に加え、中国によるアフリカへの関与が目立っている。

(1)中国・ロシア

中国はアフリカにおいて2000年代から経済的利益を享受してきたが、近年は軍事的関与も強めている。2017年8月には、ジブチにおいて、中国軍の活動の後方支援を目的とするとされる「保障基地」の運用が開始され、2022年3月及び8月には大型揚陸艦の「保障基地」への入港が指摘されている。さらに、ケニアや赤道ギニアなどに軍事兵站施設の設立を検討している可能性が指摘されている4。こうした中国の動向について米国は、「中国はアフリカを、ルールに基づく国際秩序に挑戦し、自らの商業的・地政学的利益を増進するために重要な場と考えている」旨を指摘している5

ロシアはアフリカ諸国に対し武器輸出を積極的に行ってきた6。近年はこれに加えて民間軍事会社(PMC)の活動が目立っている。特に「ワグナー」は、リビア、中央アフリカ、マリなどに傭兵を派遣しているとされる7

また、中露は2019年11月及び2023年2月に南アフリカと合同軍事演習を実施するなど、連携を強めている。

(2)米国・欧州

米国はかねてより、米アフリカ軍(AFRICOM)などとの共同演習8などを通じて、アフリカと軍事的に連携してきた。米アフリカ軍司令官は、中国について「中国の経済的・軍事的影響力は、アフリカ諸国と米国双方の利益に対する挑戦となっている」、ロシアについて「ロシアはアフリカでの活動を拡大している。その活動の中には、民間軍事会社のワグナーを通じた活動も含まれる。ロシアの活動はアフリカに、不安定化、民主化の退行、人権侵害をもたらす」と警鐘を鳴らし9、2022年10月に発表された「国家安全保障戦略」において、米国はアフリカの平和と安全の強化に取り組むなどアフリカとのパートナーシップを構築する考えを示しており、米国は引き続きアフリカに関与していくとみられる。

また、欧州も従前から、駐留や訓練ミッション、対テロ作戦への人員派遣という形でアフリカにおいてプレゼンスを発揮してきたとされる。しかし2021年6月以降、マリにおいて、マリ政府の内部反乱や「ワグナー」との接近を背景に、欧州諸国の部隊が撤退する流れがある。

3 リビアにおいては、2011年にカダフィ政権(当時)が崩壊し、2014年に代表議会選挙を実施した後、西部にある首都トリポリを拠点とする制憲議会と、東部トブルクを拠点とする代表議会が並立する状態に陥った。国連が仲介した2015年の合意に基づき、トリポリに「国民統一政府」(GNA)が発足したものの、対立は継続した。

4 米国防省「中華人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する年次報告」(2022年)による。

5 米国政府「対サブサハラ・アフリカ戦略」(2022年)による。

6 たとえばSIPRIによれば、2016年から2020年までのロシアからアフリカへの武器輸出は、2011年から2015年までから、23%増加している。

7 米アフリカ軍司令官の議会証言(2023年3月)による。

8 米軍は過激派組織への対抗や海上法執行能力向上を目的とした演習を開催している。たとえば、過激派組織への対抗を目的とした演習「Flintlock」をサヘル地域で2005年から毎年開催しており、2023年3月にはガーナとコートジボワールで開催され、29か国から1,300人以上の兵士が参加した。

9 米アフリカ軍司令官が米上院軍事委員会に提出した文書(2023年3月)による。