50年の振返り

潜水艦教育訓練隊50周年 ”亀のつぶやき”

第2代統合幕僚長  齋藤 隆 氏
 「令和」元年、潜水艦教育訓練隊創設50年を迎えドン亀仲間として若干昔話を交えて雑感をしたためた。
 昭和48年潜訓に入隊した。同期14名、当時潜水艦は13隻程度であったと思うが、どうも潜水艦を増勢するらしい、我々潜水艦学生も14名と増えていると根も葉もない学生内の噂があった。
 その後昭和52年大綱別表で潜水艦の隻数は16隻とされその後平成22年まで続く、この間に艦齢16年と相まって基本的に毎年一隻を建造し続けてきた。財務からは艦齢16年は早いのではと疑義が挟まれたこともあったが、毎年造ることによって技術基盤が維持され結果、現在世界に冠たる在来型潜水艦を建造するに至った。
 平成22年の大綱で潜水艦は22隻体制が決定された。普通防衛力の増勢にあたってはメデイア等反対意見がでてくるものであるが、潜水艦増勢に反対する意見はなかったと認識している。現下の厳しい北東アジア情勢のなかで如何に潜水艦の役割が重要であるか国民が期待している証であると思う。現場においては、要員養成等非常に苦労されていると思うが、踏ん張りどころであり国民の期待に答えてもらいたい。
 さて昔潜水艦の神様といわれた教官がいた。海軍からのたたき上げの教官で学生からのどんな質問にも黒板に詳細図を書きながら各種構造を説明していただいた。その教官曰く電池の技術は限界に来ている、従って通常型潜水艦も限界にあり在来型潜水艦は原子力潜水艦へのつなぎの存在でしかないと言うのが教官の持論であったと思う。
 しかしまもなく鉛電池の能力を遙かに超えるLi電池を搭載した潜水艦が就役する。潜水艦の神様が言われていたことは本当であっただろうか。将来を予測することは極めて難しいが、電気自動車、AI技術を利用した無人化装備は蓄電技術を一層発展させ、在来型潜水艦といえども、ミニ原潜に近い哨戒能力が期待できると妄想している。
 妄想のついでに、イワシの大群はなぜあのように群れをなして行動ができるのか、相互の連絡はどの様になされているのだろう。空中、水上においては、有人機と無人機が協力し合う技術が進展しつつある。有人潜水艦とUUVとのコラボレーションも夢でないかもしれない。それを解く鍵は遠距離水中通信とAI技術であろう。
 現在、潜訓で学ばれている諸君は明らかに令和時代の潜水艦部隊を牽引する中核になることは間違いない。
 後に、ある海軍潜水艦乗りの手記から「『艦内浸水』の伝令の声で、僅か数日前に2隻の大事故を聞き、上から十分な潜航軍紀遵守の訓示を聞いただけに今度はうちか、しかし部下の手前恥ずかしくない最後を、ということだけが念頭に浮かんだ、後で考えるとそんなことを考えるより本当に適切な行動をとるためには、船体機関の構造・取り扱いに熟知することが必要なのだと痛感した」とあった。
 高邁な安全保障論も重要だが、少なくとも諸君が潜水艦部隊の中核である限り、愚直なまでに「Know Your Boat」に原点を求めて。