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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチなど

5 指揮統制・情報関連機能の強化

1 基本的考え方

情報通信インフラは、平素から災害発生時や有事に至るまで、国民生活や社会経済活動だけでなく、自衛隊の活動においても、全ての基盤となっている。さらに近年、大容量低遅延で伝送された膨大なデータが、AIを用いて至短時間で分析され、軍事作戦に活用されるなど、新しい戦い方が顕在化しており、これを支えるものとして、次世代情報通信技術が注目されている。

防衛省・自衛隊としては、これまで国家防衛戦略などに基づき、リアルタイム性や抗たん性、柔軟性のあるシステム・ネットワークの構築に必要な施策を進めてきた。次世代情報通信技術をより一層取り込むことは、防衛力を抜本的に強化する上で不可欠であるとの認識のもと、2025年7月に防衛省次世代情報通信戦略を策定し、次世代の情報通信技術について、近年の急速な進展も踏まえ、防衛省としての活用のあり方を示した。具体的には、防衛省の基盤的なプラットフォームとして新たな防衛情報通信基盤(仮称)を整備することで、各種データの組織横断的な利活用や、各種作戦に必要な機能の柔軟な整備などを実施していくなどとしている。

わが国周辺における軍事活動が活発化するなか、平素から有事までのあらゆる段階においてシームレスに対応していくため、様々な手段を適切に活用し、隙のない情報収集体制を構築することがこれまで以上に重要となっている。また、わが国周辺における軍事動向などを常時継続的に把握するとともに、ウクライナ侵略でも見られたような認知領域を含む情報戦などにも対応できるよう情報機能を抜本的に強化する取組を進めている。

2 指揮統制機能

防衛省・自衛隊は、迅速かつ確実な指揮統制を行うため、抗たん性のあるネットワークによりリアルタイムで情報共有を行う能力を確保することで指揮統制機能を強化していく。このため、防衛省・自衛隊では、防衛情報通信基盤(DII)の整備に加え、自衛隊の作戦行動のための指揮命令の伝達や情報共有を行うためのシステムの基盤として、各自衛隊のデータ基盤を統合した「防衛省クラウド」の整備を進めている。その際、武力攻撃事態や災害時などにおいてもシステムを継続的に使用できる抗たん性を確保することが不可欠である。このため、情報を仮想的に統合して利用するクラウド技術を活用するとともに、この技術を支えるハードウェアについては、物理的に分散して整備することとしている。

3 情報戦への対応を含む情報関連機能
(1)情報収集・分析などの機能の強化

ア 軍事情報の収集と分析機能の強化

急速かつ複雑に変化する安全保障環境において、政府が的確に意思決定を行うためには、質が高く、時宜に適った情報収集・分析が不可欠である。国際情勢の急速な変化やわが国周辺における軍事活動が活発化するなか、防衛省・自衛隊は、様々な手段を適切に活用し、隙のない情報収集体制を構築していく。

防衛省・自衛隊は、平素から様々な手段により、迅速かつ的確に情報収集を行っている。情報収集の手段などについては、①わが国上空に飛来する軍事通信電波や電子兵器が発する電波などの収集・処理・分析、②衛星画像の収集・判読・分析、③艦艇・航空機などによる警戒監視、④各種公開情報の収集・整理、⑤各国国防機関などとの情報交換、⑥各国に派遣されている防衛駐在官などによる情報収集などがあげられる。

防衛駐在官については、防衛省として派遣体制の強化に加え、赴任国において効果的に情報収集活動を行うため、赴任前研修の充実・強化やキャリアパスの確保、関連情報の蓄積をはじめとした情報収集サイクルを強化するなど、防衛駐在官の支援体制の強化にも取り組んでいる。2025年度は、新たにフィジー、ブルネイに各1名を派遣するとともに、フィリピン、フランスに各1名を増員した。また、2026年度には、米国、インドネシア、トルコに各1名を増員する予定であり、防衛駐在官86名体制となる。

また、情報本部や陸・海・空自の情報システムの整備、各種情報収集アセット(装備品)や各通信所、沿岸監視隊の情報収集器材の維持・整備、各種情報資料の収集・整理を行い、情報分析などの機能を強化していく。

さらに、多様化するニーズに情報部門が的確に応えていくため、能力の高い情報収集・分析要員の確保や育成を進め、採用、教育・研修、人事配置などの様々な面において着実な措置を講じ、総合的な情報収集・分析機能を強化していく。さらに、情報関連の国内関係機関との協力や連携を進めるとともに、内閣衛星情報センターが運用する情報収集衛星などにより収集した情報を防衛省・自衛隊の活動により効果的に活用するために必要な措置を講じていく。

参照図表III-1-2-12(防衛駐在官の派遣状況(イメージ))

図表III-1-2-12 防衛駐在官の派遣状況(イメージ)

イ 情報本部

情報本部は、防衛省の中央情報機関であり、わが国最大の情報機関である。情報本部では、様々な情報を収集し、国際・軍事情勢など、極めて速いスピードで変化しているわが国を取り巻く安全保障環境にかかわる分析を行っている。

国家防衛戦略において、情報本部は、情報の収集・分析に加え、わが国の防衛において情報戦対応の中心的な役割を担うとされ、国際・軍事情勢などに関する情報収集・分析能力を抜本的に強化していくこととしている。

情報本部は、陸・海・空の自衛官と事務官・技官(語学系、技術系、行政・一般事務)からなる組織であり、自衛官は各部隊などで培った経験や知見を、事務官・技官は語学、技術などの専門的な知識を駆使し、一丸となって業務に従事している。具体的には、電波情報、画像・地理情報、公開情報(新聞、インターネットなど)、関係者との意見交換など、様々な情報源から得た情報に基づき、軍事的、政治的、経済的要因を含む様々な観点から総合的な分析を行っている。

また、情報本部では、宇宙・サイバー・電磁波の領域における情報収集・分析機能を強化しており、例えば、サイバー空間における脅威の動向について、公開情報の収集や諸外国との情報交換など、必要な情報の収集・分析を行っている。

情報本部の情報業務の成果は、分析プロダクトとして、内閣総理大臣、防衛大臣、内閣官房国家安全保障局、内閣情報調査室や陸・海・空自の各部隊に対して適時適切に提供され、政策判断や部隊運用を支えている。また、関係省庁や諸外国カウンターパートとの情報交流も積極的に行っている。

ウ 情報保全に関する取組

防衛省・自衛隊においては、従来から、秘匿性の高い様々な情報を適切に保護するため、特定秘密保護法24などの関係法令に従い、関係省庁・部局間で連携しつつ、必要な情報保全のための体制整備に取り組んできた。

しかしながら、防衛省は、2022年12月、海自情報業務群司令(当時)が、かつて上司であった秘密を取り扱う資格のない者に対して特定秘密などの情報を故意に漏らした事案を公表した。また、2024年4月、7月、12月および2025年12月、特定秘密の適性評価が未実施の隊員を特定秘密取扱職員に指名し、特定秘密の情報を取り扱わせていた事案などの情報保全事案を公表した。

頻発する事案を受け、防衛省は、2024年12月に策定した「部隊運用の実情に即した情報保全の在り方の検討」、「情報保全意識の向上及び情報保全教育の抜本的改善」、「総合秘密保全システム(仮称)25の導入によるヒューマン・エラーの局限」など各種の再発防止策を一つ一つ着実に進めるとともに、秘密制度にかかる相談窓口の更なる普及などに取り組むこととしている。

これにより、情報保全に対する考え方や体制を抜本的に改めるとともに、法律や規範を確実に遵守する組織風土への改善に向け、防衛省・自衛隊全体で取り組んでいる。

参照図表III-1-2-13(2024年12月に策定した特定秘密漏えい事案などにかかる再発防止策)

図表III-1-2-13 2024年12月に策定した特定秘密漏えい事案などにかかる再発防止策

(2)認知領域を含む情報戦などへの対処

ア 認知領域を含む情報戦

国際社会においては、紛争が生起していない段階から、偽情報や戦略的な情報発信など、人の認知に働きかけることにより、他国の世論や意思決定に影響を及ぼし、自らの意思決定への影響を防ぐことで、自らに有利な安全保障環境を構築しようとする情報戦が行われている。このような状況を踏まえ、わが国は認知領域を含む情報戦に確実に対処できる体制・態勢を構築することとしている。

参照I部4章3節5項(認知領域をめぐる動向)

イ 防衛省・自衛隊の取組

厳しさを増す安全保障環境やIT(Information Technology)技術を含む技術革新の急速な進展などに伴い、認知領域を含む情報戦などの「新しい戦い方」を踏まえた我が国独自の「新しい守り方」を実現していくことが重要である。特に、ロシアによるウクライナ侵略やイスラエル・パレスチナ武装勢力間の衝突の状況を踏まえれば、わが国防衛の観点から、偽情報を見破り、分析し、適切な情報を迅速かつ戦略的に発信するなど、認知領域を含む情報戦への対応が急務である。

防衛省・自衛隊においては、2027年までに認知領域を含む情報戦に確実に対処可能な情報能力を整備することとしており、2025年度には、陸自情報作戦隊、海自情報作戦集団を新編した。また、各国による情報発信の真偽を見極めるためのSNS情報などを自動収集する機能を整備することなどを推進しており、政策部門、運用部門、情報部門が緊密に連携しつつ、情報の収集・分析・発信のあらゆる段階において必要な措置を講じている。

情報作戦隊新編行事(2026年3月)

情報作戦隊新編行事(2026年3月)

あわせて、同盟国・同志国などとの情報共有や共同訓練などを行うことにより、国際社会の趨勢を踏まえたさらなる能力の強化に努める。

こうした各種措置のほか、防衛力の中核である自衛隊員が偽情報に惑わされ、的確な意思決定や行動が阻害されることのないよう、隊員一人一人が偽情報の危険性を理解し、常日頃から物事を冷静に捉え、客観的に分析できる姿勢を涵養することが求められる。このため、教育などの機会を通じ、必要な素養の習得やサイバー/メディア・リテラシーの向上などを図り、情報保全体制のさらなる強化に取り組む。また、外国から発信された防衛省・自衛隊に関する偽情報の事例の一例を公表することなどにより、正確な情報の発信にも取り組む。

参照1節2項5(認知領域を含む情報戦への対応)

4 2026年度予算のポイント

2026年度の指揮統制・情報関連機能における能力強化の施策は、約5,166億円を計上している。主要な事項としては、意思決定の優越を確保する情報システムの整備として、情報処理技術、量子関連技術、AI技術といった次世代情報通信技術を積極的に活用した、基盤的なプラットフォームとしての新たな防衛情報通信基盤(仮称)の整備に向けた実証実験を行う予定である。また、わが国周辺における軍事動向などを常時継続的に情報収集し、その処理・分析を行うための電波情報収集機(RC-2)の取得、わが国周辺における情勢などに関する情報の収集を行うための、衛星からの画像データの取得を行う予定である。

24 特定秘密の保護に関する法律

25 適性評価の申請・登録をはじめ、保全区画への入退室記録、秘密文書へのアクセス履歴などを一元的に管理するシステム