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吉田統合幕僚長 新年のご挨拶
  • -波濤を超えて-

    謹んで新年のお慶びを申し上げます。
     皆様におかれましては、平素より自衛隊に対する深い御理解と御厚情を賜り、心より御礼申し上げます。

    昨年を振り返ると、一昨年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵略が、まるで一世紀前の第一次世界大戦のような長期・消耗戦の様相を呈する中、10月7日のハマスによるイスラエルに対するテロ攻撃を契機に、同月27日、ガザ地区においてイスラエルによるハマスに対する対テロ攻撃が始まりました。
     米作家マーク・トウェインは、「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」という名言を残しましたが、第1次世界大戦から四半世紀後、アジア・太平洋地域を含む第2次世界大戦が勃発した歴史を繰り返してはなりません。すなわち、現在の欧州及び中東における戦火を、インド太平洋地域、就中、我が国周辺地域に波及させることなく、今後四半世紀、同様の深刻な事態の発生を防止しなければならないのです。そのためには、欧州・中東の事態がこれ以上エスカレーションしないよう抑止するとともに、我が国及び日米同盟の抑止力・対処力を急速に強化しつつ、インド太平洋地域において同盟国・同志国を結集する必要があります。
     米ソ冷戦後の安全保障環境を概観すると、1990年代~2010年代までの30年間の「ポスト冷戦」という過渡期が終焉し、2020年代からは、多極構造下において、米中の戦略的競争を主軸とし、力による一方的な現状変更を試みる勢力と法の支配に基づく国際秩序の維持を図る勢力がせめぎ合う、新たな大国間競争の時代に入ったと認識しています。その中で、地域的焦点はインド太平洋であり、我が国はその最前線に位置しています。おそらくこうした時代は、21世紀半ばまで続くことでしょう。

    このように、国際社会と我が国の平和と安定にとって正念場とも言える戦略環境の中、我々自衛隊が果たすべき役割と責任は極めて重いと感じています。私は、昨年3月末、統合幕僚長に着任しましたが、統幕の果たすべき隊務として、①当面の作戦任務の完遂、②将来に向けた統合運用態勢の抜本的強化、③同盟国・同志国との連携強化の3つの柱を掲げています。

    第1の当面の作戦任務については、一言でいうと、現在は、「複合事態の常態化」にあると感じています。着任直後の4月、最初のオペレーションは、宮古島近傍におけるUH-60JA墜落事故の捜索救難活動でした。個人的にも、坂本師団長以下、クルーも含めてよく知る隊員ばかりであり、10名の尊い仲間の生命を失ったのは、文字通り痛恨の極みであり、歯を食いしばって任務を遂行しました。その後、続けざまに、北朝鮮によるICBMミサイルや衛星の発射対応、中国空母の太平洋展開対応、在スーダン邦人等輸送等の任務が連続しました。「小学生のサッカー」のように、皆が1つのボールに集まっていては、複合事態には対処できず、大局を見ておくことの大切さを痛感しました。

    第2の統合運用態勢の抜本的強化については、3つの「融合」アプローチ、すなわち、①戦略レベルと作戦レベルの融合、②防衛力整備と防衛力運用の融合、③統合・日米共同・多国間連携・省庁間協力の融合を推進しています。
     戦略レベルと作戦レベルの融合については、反撃能力や宇宙・サイバー領域等の戦略レベルの状況判断が必要な分野が拡大する中、それをどのように作戦レベルと融合させるかが極めて重要となっています。特に、令和6年度末には、すべての領域の作戦を統括する常設の統合司令部が新設される予定であり、統合幕僚監部が補佐する防衛大臣以上の戦略レベルとの連接の仕方を、各種演習等を通じて早急に詰めていく必要があります。
     防衛力整備と防衛力運用の融合については、国家防衛戦略で「2027年度までに我が国が主たる責任をもって、我が国への侵攻を阻止・排除できるように防衛力を強化する」という目標が示されていますが、例えば、最速でも導入開始が令和7年度となるスタンドオフ防衛能力は、これまでのように装備が導入されてから、戦力化し、運用態勢を確立するのでは、目標の2027年度に間に合わすことができません。したがって、装備化以前に運用構想を具体化し、各種演習で検証しながら、防衛力整備と運用態勢の確立を同時並行的に実施することが必要不可欠となっています。
     統合・日米共同・多国間連携・省庁間協力の融合については、各種事態に対応するに当たって自衛隊独力でできることには限りがあり、国民保護、在外邦人等輸送・保護、大量避難民への対処等の任務遂行に当たっては、政府全体及び地方自治体、更には同盟国・同志国との連携が必須です。
     今年も、こうした3つの「融合」アプローチを深化させて参ります。

    第3の同盟国・同志国との連携については、コロナ収束後、統合レベルでも、各軍種でも、質・量ともに防衛協力・交流が拡充しています。これまでにない危機は、これまでにない同志国等を結集する機会を生み出しているとも言えます。私自身も、着任後8か月の間に、26か国延べ88名の参謀総長等とハイレベル会談を重ねていますが、インド太平洋地域のみならず、ウクライナにおける戦争の中でもインド太平洋地域への関与を拡大するNATO諸国との連携も急速に強化されています。力による一方的な現状変更を認めず、法の支配に基づく国際秩序の維持を図る同盟国・同志国が結集すること自体が、インド太平洋地域に望ましい安全保障委環境を創出する大きな力になっていると感じています。

    ここまで、統合幕僚監部の隊務の柱について述べてきましたが、本年の焦点は、何と言っても、令和6年度末に新設される常設の統合司令部の準備となります。平時から有事までシームレスに領域横断作戦を遂行できる体制を構築し、新設と同時に運用開始ができるよう、全力で準備を推進して参ります。

    自衛隊は、本年も、我が国を取り巻く「波濤を超えて」、我が国の防衛力の抜本的強化に邁進し、時代の責任を果たすことをお誓い申し上げますとともに、皆様にとって心穏やかな一年になるよう心からお祈り申し上げ、年頭のご挨拶と致します。