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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

4 北方領土などにおけるロシア軍

旧ソ連時代の1978年以来、ロシアは、わが国固有の領土である北方領土のうち国後島、択捉島と色丹島に地上軍部隊を再配備してきた。その規模は、ピーク時に比べ大幅に縮小した状態にあると考えられるものの、現在も南樺太に所在する1個軍団に属する1個師団が国後島と択捉島に所在しており、戦車、装甲車、各種火砲、対空ミサイル、偵察用無人機などが配備されている。さらに近年ロシアは、北方領土所在部隊の施設整備を進めているほか、海軍所属の沿岸(地対艦)ミサイルや航空宇宙軍所属の戦闘機などの新たな装備も配備し、大規模な演習も実施するなど、わが国固有の領土である北方領土において、不法占拠のもと、軍の活動をより活発化させている。こうした動向の背景として、SSBNの活動領域であるオホーツク海に接する北方領土などの軍事的重要性が高まっているといった指摘があり、北方領土のほか、帰属先未定地である南樺太や千島列島においてもロシア軍の活動は活発化の傾向にある。

近年の北方領土への主要な新型装備の配備として、2016年に択捉島及び国後島への沿岸(地対艦)ミサイル配備が発表されたほか、2018年8月、同年1月に軍民共用化された択捉島の新民間空港にSu-35戦闘機が3機配備されたと伝えられている。

地上軍の装備では、2020年12月、ロシア国防省系メディアは、択捉島及び国後島への地対空ミサイル・システム「S-300V4」(最大射程400km)の実戦配備を報じた。さらに、2022年1月、前年に北方領土所在部隊の戦車が寒冷地での運用に適した「T-80BV」に換装されたことが発表された。

地対空ミサイル・システム「S-300V4」

【ロシア国防省】

【ロシア国防省】

【諸元、性能】

最大射程:400km

最大高度:37km

【概説】

ステルス航空機対処能力を持つとされる防空ミサイル。

主力戦車「T-80BV(2018年式)」

【ロシア国防省】

【ロシア国防省】

【諸元、性能】

速度:最大時速70km

主要兵装:125mm滑腔砲

【概説】

「T-80」の簡易的近代化改修型。照準装置、燃料供給機構及び給弾装置が改良されたものとされる。

北方領土での軍事演習も継続して行われており、2021年6月、択捉島、国後島及び南樺太で兵員1万人以上、約500両の地上装備・機材、航空機32機、艦艇12隻が参加する着上陸・対着上陸対抗演習が実施された。

また、北方領土と同じくオホーツク海に接する樺太及び千島列島においては、ロシア軍は2021年2月、南樺太に地対空ミサイル・システム「S-400」を新たに配備したほか、同年12月には千島列島の松輪島に地対艦ミサイル・システム「バスチオン」を展開したことを発表した。南樺太に本部を置き、択捉島及び国後島所在部隊を管轄する沿岸(地対艦)ミサイル旅団が新設されるとの報道もあり、引き続き北方領土を含む極東におけるロシア軍の動向について、ウクライナ侵略における動きも踏まえつつ、懸念を持って注視していく必要がある。

中型偵察用無人機「オルラン-10」。2015年以降、北方領土に所在するロシア地上軍部隊の演習に使用されていることが確認されている。【ロシア国防省】

中型偵察用無人機「オルラン-10」。2015年以降、北方領土に所在する
ロシア地上軍部隊の演習に使用されていることが確認されている。
【ロシア国防省】