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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

3 軍事態勢と動向

ロシアの軍事力は、連邦軍、連邦保安庁国境警備局、連邦国家親衛軍庁などから構成される。連邦軍は3軍種2独立兵科制をとり、地上軍、海軍、航空宇宙軍と戦略ロケット部隊、空挺部隊からなる。

戦力の整備にあたっては、かつて対峙した米国を意識し、核戦力のバランスを確保したうえで、先進諸国との対比で劣勢を認識する通常戦力において、精密誘導可能な対地巡航ミサイルや無人機といった先進諸国と同様の装備を拡充しつつあるほか、非対称な対応として、長射程の地対空及び地対艦ミサイル・システムや電子戦装備による、いわゆる「A2/AD」能力の向上を重視しているものとみられる。

参照図表I-3-5-2(ロシア軍の配置と兵力(イメージ))

図表I-3-5-2 ロシア軍の配置と兵力(イメージ)

1 核戦力

ロシアは、国際的地位の確保と米国との核戦力のバランスをとる必要があることに加え、通常戦力の劣勢を補う意味でも核戦力を重視しており、即応態勢の維持に努めている。

戦略核戦力については、ロシアは、米国に並ぶ規模のICBM、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)と長距離爆撃機を保有している。

2011年以降、ICBM「トーポリM」の多弾頭型とみられている「ヤルス」の部隊配備を進めているほか、ミサイル防衛システムの突破能力を有する弾頭を搭載可能とされる大型のICBM「サルマト」を開発中である。新型のSLBM「ブラヴァ」を搭載するボレイ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN:Ballistic Missile Submarine Nuclear-Powered)は、5隻が就役しており、今後、北洋艦隊及び太平洋艦隊にそれぞれ5隻配備される予定である。長距離爆撃機「Tu-95」、「Tu-160」の近代化改修も継続している。

ICBM「サルマト」

【ロシア国防省】

【ロシア国防省】

【諸元・性能】

開発中

【概説】

新型の大型ICBM。極超音速弾頭を含む幅広い種類の弾頭を搭載可能であるほか、事実上射程に制限がなく、北極又は南極経由で目標を攻撃可能とされる。2022年配備予定。

非戦略核戦力については、ソ連時代に米国との間で締結された中距離核戦力(INF:Intermediate-Range Nuclear Forces)全廃条約が2019年8月に終了したが、米国が地上発射型の短・中距離ミサイルを配備しない限り、ロシアは欧州その他の地域に向けた短・中距離ミサイルを製造・配備するつもりはないとの意向を繰り返し表明している。その一方で、通常弾頭又は核弾頭を搭載可能とされる地上発射型ミサイル・システム「イスカンデル」や、海上発射型巡航ミサイル・システム「カリブル」、空中発射型巡航ミサイル「Kh-101」、同弾道ミサイル「キンジャル」などの様々なプラットフォームによるミサイルの配備を進めている。特に、「カリブル」については、同ミサイル・システムを搭載可能なフリゲート及び潜水艦の極東への配備が進められており、わが国周辺の安全保障環境にも大きな影響を与えうることから、注視していくことが必要である。

海上発射型巡航ミサイル・システム「カリブル」

【ロシア国防省】

【ロシア国防省】

【諸元・性能】

射程:潜水艦発射型(対地)約2,000km、水上艦発射型(対地)約1,500km

速度:マッハ0.8

【概説】

シリアでの作戦で使用した実績がある。様々なプラットフォームに搭載可能であるほか、INF全廃条約で開発・保有が禁止されている地上発射型の中距離巡航ミサイルであると米国から指摘された9M729のもとになったとの指摘もある。

2 新型兵器

1999年以降、東欧諸国のNATO加盟、いわゆる「NATOの東方拡大」が進められるとともに、米国が国内外でMDシステムの構築を進めていることに対してロシアは反発している。

このような中、プーチン大統領は、2018年3月の年次教書演説で、ロシアの核戦力の基盤である弾道ミサイルへの対抗手段として、米国内外におけるMDシステムが整備されつつあるとの見方を示し、同システムを突破する手段として以下の5つの新型兵器を紹介した。

  • 事実上射程制限がなく、北極又は南極経由で目標を攻撃可能とされる新型の大型ICBM「サルマト」
  • 大陸間の大気圏をマッハ20以上の速度で飛翔するとされる極超音速滑空兵器(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)「アヴァンガルド
  • MiG-31K戦闘機に搭載可能とされる空中発射型弾道ミサイル(ALBM:Air-Launched Ballistic Missile)「キンジャル
  • 事実上射程制限がなく、低空を飛翔可能とされる原子力巡航ミサイル「ブレヴェスニク
  • 深海を高速航行が可能とされる原子力無人潜水兵器「ポセイドン

また、2019年には、最高速度約マッハ9で1,000km以上の射程を持つとされる海上発射型の極超音速巡航ミサイル(HCM:Hypersonic Cruise Missile)「ツィルコン」を開発中であることを初めて明らかにした。

これらの新型兵器のうち、HGV「アヴァンガルド」とALBM「キンジャル」は配備済みであり、ICBM「サルマト」は2022年4月に初の飛翔試験を実施し、同年末までに配備開始とされている。2021年12月、ショイグ国防相は、HCM「ツィルコン」の国家試験が最終段階にあり、2022年から量産型が配備されると述べた。

HGV「アヴァンガルド」

【ロシア国防省】

【ロシア国防省】

【概説】

マッハ20以上の速度で大気圏内を飛翔し、高度や軌道を変えながらMDシステムを回避可能とされる。2019年12月配備開始。

ALBM「キンジャル」

【ロシア国防省】

【ロシア国防省】

【諸元・性能】

速度:マッハ10以上

射程:2,000km以上

【概説】

飛翔中に機動可能な戦闘機搭載の空中発射型弾道ミサイル(ALBM)。地上発射型短距離弾道ミサイル「イスカンデル」の空中発射型との指摘もある。

原子力推進式巡航ミサイル「ブレヴェスニク」

【ロシア国防省公式Youtubeチャンネル】

【ロシア国防省公式
Youtubeチャンネル】

【諸元・性能】

開発中

【概説】

原子力推進のため事実上射程制限がなく、低空を飛び、予測不可能な軌道を持つとされる。2019年8月に軍施設で起きた爆発事故は、この兵器開発に伴う実験が原因だったとの指摘がある。

原子力無人潜水兵器「ポセイドン」

【ロシア国防省公式Youtubeチャンネル】

【ロシア国防省公式
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【概説】

原子力推進であり、2メガトンの核弾頭を搭載して最大1万kmの距離を潜航可能とされる。

HCM「ツィルコン」

【ロシア国防省公式Youtubeチャンネル】

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【諸元・性能】

開発中。2022年5月の実射試験では、約1,000kmを飛翔し、海上標的に着弾したと発表されている。

【概説】

「カリブル」巡航ミサイルと発射装置を共用するため、太平洋艦隊の新型艦艇からも発射可能となる。

3 通常戦力など

ロシアは、「装備国家綱領」に基づき装備の開発・調達などを行っている。Su-35戦闘機や地対地ミサイル・システム「イスカンデル」の導入に加えて、いわゆる「第5世代戦闘機」として開発されている「Su-57」や「T-14アルマータ」戦車などの新型装備の開発、調達及び配備も進められている。また、航空宇宙軍は、無人機開発で有人航空機との統合に注力していると明らかにしている。この点、2019年9月、ロシア国防省は、大型攻撃用無人機「オホートニク」と第5世代戦闘機Su-57との協調飛行試験を公開した。また、2020年12月には、長距離爆撃機Tu-95と無人機との協調飛行が実施されたとも伝えられた。

第5世代戦闘機と共同飛行する大型攻撃用無人機「オホートニク」【ロシア国防省】

第5世代戦闘機と共同飛行する大型攻撃用無人機「オホートニク」
【ロシア国防省】

また、ロシア海軍は2027年までに装備の近代化率を70%まで引き上げるとしており、沿岸海域向け水上艦艇の整備が完了しつつあることから、今後は外洋向け水上艦艇の建造に移るとしている。2020年7月には、ロシア初の強襲揚陸艦2隻が起工され、2027年までに海軍に引き渡される見通しである。

4 宇宙・電磁波領域

近年ロシア軍は宇宙及び電磁波領域における活動を活発化させている。ロシアは、対衛星ミサイル・システム「ヌドリ」などの対衛星兵器の開発を推進しているとされ、2021年11月、対衛星ミサイルによる衛星破壊実験の実施を公表した。また、2013年以降、接近・近傍活動(RPO:Rendezvous and Proximity Operations)を行う衛星を低軌道と静止軌道の双方に投入しており、静止軌道上で他国の衛星への接近・隔離を頻繁に繰り返していることが観測されている。2020年7月、米宇宙コマンドは、ロシアが地球の周回軌道上で対衛星兵器の実験を行った証拠があると発表し、同コマンドのレイモンド司令官は声明で「ロシアが宇宙配備型システムの開発と実験を継続していることを示している」と批判した。

電磁波領域においては、2009年以降、ロシア軍に電子戦(EW)部隊が編成されるとともに多くの新型電子戦システムが調達され、各軍種・兵科に分散配置されている。2021年12月には、中央軍管区所在の電子戦部隊が、自軍部隊の活動を秘匿するため偽の命令や信号を発信し、敵を欺瞞する訓練を実施した旨発表されており、「ネットワーク中心の戦い」への対応として電子戦能力の向上が重視されていることがうかがわれる。

地上配備電子戦(EW)システム「Leer-3」【ロシア国防省公式Youtubeチャンネル】

地上配備電子戦(EW)システム「Leer-3」
【ロシア国防省公式Youtubeチャンネル】

5 ロシア軍の動向(全般)

ロシア軍は、2010年以降、軍管区などの戦闘即応態勢の検証を目的とした大規模演習を各軍管区が持ち回る形で行っており2、こうした演習はロシア軍の長距離移動展開能力の向上に寄与している。2021年は、西部軍管区において、ベラルーシとの共同戦略演習「ザーパド2021」が兵員約20万人、インドやモンゴルなど8か国から兵員約2,000人が参加して実施された。

ウクライナ侵攻開始直前の2022年2月には、「戦略抑止力演習」として、ICBM及びSLBMといった戦略核戦力に加え、「イスカンデル」、「カリブル」、「キンジャル」及び「ツィルコン」の通常弾頭または戦術核を搭載可能なミサイル戦力を用いたロシア全土にわたる大規模なミサイル演習が実施された。

北極圏では、警戒監視強化のため、沿岸部にレーダー監視網の整備を進めている。同時に、飛行場を再建し、Tu-22M中距離爆撃機やMiG-31迎撃戦闘機などを展開させているほか、地対空ミサイルや地対艦ミサイルを配備し、北方からの経空脅威や艦艇による攻撃に対処可能な態勢を整備している。これに伴い、基地要員のための大型の居住施設を北極圏の2か所に建設した。

こうした軍事施設の整備に加え、SSBNによる戦略核抑止パトロールや長距離爆撃機による哨戒飛行を実施するなど、北極における活動を活発化させている。例えば、アラスカ沖の国際空域やバレンツ海、ノルウェー海などにおいて長距離爆撃機Tu-95やTu-160などの飛行がたびたび確認されている。

この背景には、近年の地球温暖化による海氷融解に伴い、埋蔵資源の採掘可能性の増大、航路としての有用性の向上により、ロシアを含む各国の注目が集まっていることがあげられる。このためロシアは、北極圏における国益擁護の体制を推進しており、各種政策文書において北極圏におけるロシアの権益及びそれらの権益擁護のためのロシア軍の役割を明文化している。例えば、2020年10月に改訂された「2035年までのロシア北極圏の発展及び国家安全保障戦略」では、北極圏における軍事安全保障を確保するための具体的な課題として、「北極圏に適した運用体制の確保」、「北極の環境に適した近代兵器、軍事・特殊機材の装備」、「拠点インフラの開発」などが明記されている。

このように、ロシアは軍事活動を活発化させる傾向にあり、その動向を注視していく必要がある。

新型コロナウイルス感染症をめぐるロシア軍の動向については、感染拡大に際し、ロシア国防省は2020年2月、CBRN(化学・生物・放射能・核兵器)専門家、軍医、ウイルス学専門家らを乗せた航空宇宙軍の輸送機2機を中国・武漢に派遣するとともに、ロシア国民ほか百数十名をロシアに輸送している。また、ロシア軍は感染症対策に軍人3万人以上を投入し、CBRN防護部隊による軍施設・街区の消毒作業、軍病院での感染者の受け入れを行ったほか、太平洋艦隊が保有する病院船の病床増設や、国内16か所に医療センターを新設するなど、民間の医療支援を視野に病床数の増設にも取り組んだ。各国への医療支援物資の輸送などの支援活動にも従事した。さらに、国防省隷下の第48中央化学研究所は、保健省隷下のガマレヤ国立研究所とともに国産ワクチン「スプートニクV」を共同開発した。

2021年12月の国防省幹部会議拡大会合において、ショイグ国防相は、ロシア軍におけるワクチン接種率が軍人100%、文民70%であり、完全な集団免疫を達成していると述べた。

アレクサンドラ島の軍用居住施設「北極の三つ葉」【ロシア国防省】

アレクサンドラ島の軍用居住施設「北極の三つ葉」【ロシア国防省】

6 わが国の周辺のロシア軍

ロシアは、2010年、東部軍管区及び東部統合戦略コマンドを新たに創設し、軍管区司令官のもと、地上軍のほか、太平洋艦隊、航空・防空部隊を配置し、各軍の統合的な運用を行っている。

極東地域のロシア軍の戦力は、ピーク時に比べ大幅に削減された状態にあるが、依然として核戦力を含む相当規模の戦力が存在しており、新たな部隊配備や施設整備にかかる動きなど、わが国周辺におけるロシア軍の活動には活発化の傾向がみられるほか、近年は最新の装備が極東方面にも配備される傾向にあるが、2021年12月現在の東部軍管区の新型装備の比率は56%と発表されている。

ロシア軍は、戦略核部隊の即応態勢を維持し、常時即応部隊の戦域間機動による紛争対処を運用の基本としていることから、他の地域の部隊の動向も念頭に置いたうえで、極東地域のロシア軍の位置づけや動向について、ウクライナ侵略における動きも踏まえつつ、懸念を持って注視していく必要がある。

(1)核戦力

極東地域における戦略核戦力については、SLBMを搭載した1隻のデルタIII級SSBN及び2隻のボレイ級SSBNがオホーツク海を中心とした海域に配備されているほか、約30機のTu-95長距離爆撃機がウクラインカに配備されている。ロシアは、旧ソ連時代と比べて大きく縮小させていた海上戦略抑止態勢の強化を優先させており、その一環として、今後太平洋艦隊にボレイ級SSBNを計5隻配備する計画である。

(2)陸上戦力

東部軍管区においては自動車化狙撃兵(機械化歩兵)、戦車、砲兵、地対地ミサイルなど24個旅団及び2個師団約8万人となっているほか、水陸両用作戦能力を備えた海軍歩兵旅団を擁している。また、同軍管区においても、地対地ミサイル・システム「イスカンデル」、地対艦ミサイル・システム「バル」及び「バスチオン」、地対空ミサイル・システム「S-400」など、新型装備の導入が進められている。

(3)海上戦力

太平洋艦隊がウラジオストクやペトロパブロフスク・カムチャツキーを主要拠点として配備・展開されており、主要水上艦艇約20隻と潜水艦約20隻(うち原子力潜水艦約13隻)、約22万トンを含む艦艇約260隻、合計約61万トンとなっている。2021年4月には、近代化改修を終えたウダロイ級フリゲート「マルシャル・シャポシニコフ」が、日本海において「カリブル」巡航ミサイルの実射訓練を初めて実施し、太平洋艦隊初の「カリブル」巡航ミサイル搭載艦として常時即応戦力に復帰した。また、同年11月には、太平洋艦隊向けに新造された「カリブル」巡航ミサイル搭載艦であるステレグシチーII級ミサイルフリゲート「グレミャシチー」、キロ改級潜水艦「ペトロパブロフスク・カムチャツキー」及び「ヴォルホフ」がウラジオストクに回航された。

2021年11月にウラジオストクに回航された太平洋艦隊配属の改良型キロ級潜水艦「ヴォルホフ」。最大射程2,000kmの「カリブルPL」対地巡航ミサイルを装備可能とされる。【ロシア国防省】

2021年11月にウラジオストクに回航された太平洋艦隊配属の改良型
キロ級潜水艦「ヴォルホフ」。最大射程2,000kmの「カリブルPL」
対地巡航ミサイルを装備可能とされる。【ロシア国防省】

フリゲート「グレミャシチー」

【ロシア国防省】

【ロシア国防省】

【諸元、性能】

満載排水量:2,235トン

最大速力:26ノット

主要兵装:対地巡航ミサイルSS-N-30A(最大射程:1,500km)、対艦巡航ミサイルSS-N-26(最大射程:300km)、対空ミサイル9M96(最大射程:60km)

搭載機:ヘリ(Ka-27)1機

【概説】

ロシア海軍の新型フリゲート。太平洋艦隊に「カリブル」巡航ミサイル搭載型1隻、非搭載型3隻が配属。

(4)航空戦力

東部軍管区には、航空宇宙軍、海軍を合わせて約320機の作戦機が配備されており、既存機種の改修やSu-35戦闘機、Su-34戦闘爆撃機など新型機の導入による能力向上が図られている。

(5)わが国周辺における活動

わが国周辺では、軍改革の成果の検証などを目的としたとみられる演習・訓練を含めたロシア軍の活動が活発化の傾向にある。

地上軍については、わが国に近接した地域における演習はピーク時に比べ減少しているが、その活動には活発化の傾向がみられる。

艦艇については、近年、太平洋艦隊に配備されている艦艇による各種演習、遠距離航海、原子力潜水艦のパトロールが行われるなど、活動の活発化の傾向がみられる。2018年9月、スラヴァ級ミサイル巡洋艦などのロシア海軍艦艇28隻が宗谷海峡を通航したが、冷戦終結後、防衛省として一度に公表した同海峡の通航隻数の中では過去最多である。

2022年1月末から3月中旬にかけて、ロシア海軍全艦隊演習の一環とみられる大規模海上演習がオホーツク海などにおいて、20隻以上の艦艇が参加して実施された。同演習期間中には演習参加艦艇として発表されていない艦艇も含め延べ49隻が宗谷海峡及び津軽海峡を通航した。同演習は時期及び規模において特異であるほか、流氷期という実施海域の特性を踏まえれば、ロシアが戦略原潜の活動領域として重視するオホーツク海において活発に活動し得る能力を誇示するためのものであることは明らかであり、ウクライナ侵略に関連してロシアが核戦力に関する一連の発信をしたことを踏まえれば、懸念すべきものである。航空機については、2007年に戦略航空部隊が哨戒活動を再開して以来、長距離爆撃機による飛行が活発化し、空中給油機、A-50早期警戒管制機及びSu-27戦闘機による支援を受けたTu-95爆撃機やTu-160爆撃機の飛行も行われている。2021年12月にはIL-20情報収集機が日本海からオホーツク海を経由して太平洋へ飛行するとともに、別の推定ロシア機8機が日本海を飛行したことが確認された。2021年度のロシア機への対応に要したスクランブル回数は前年度を上回り、自衛隊機の緊急発進を伴う領空侵犯が2件確認されるなど、引き続き活発であった。

参照図表I-3-5-3(ロシア機に対する緊急発進回数の推移)

図表I-3-5-3 ロシア機に対する緊急発進回数の推移

2 中央軍管区、西部軍管区、東部軍管区及び南部軍管区を中心に実施され、それぞれ「ツェントル(中央)」、「ザーパド(西)」、「ヴォストーク(東)」、「カフカス(コーカサス)」と呼称される。