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第IV部 防衛生産・技術基盤の強化

2 防衛生産基盤強化法以外の主な取組

1 防衛事業の魅力化

防衛事業は高度な要求性能や保全措置への対応の必要性などにより、多大な経営資源の投入を必要とする一方、収益性は調達制度上の水準より低い傾向にあった。

こうした状況を踏まえ、原価計算方式の価格算定において、企業努力を正当に評価し、企業の適正な利益を算定する仕組みを構築した。具体的には、利益率の算定方式を改め、QCD(Quality, Cost, Delivery)評価5を導入して、5~10%の間で利益率を算定するとともに、契約の履行期間に応じてコスト変動調整率6を1~5%付与することとした。

調達制度についてもより一層の効率化を促すための各種契約制度の見直しを不断に行うこととしている。

参照図表IV-2-1-3(防衛事業の適正な利益の確保にかかる措置(QCD評価、コスト変動調整率))

図表IV-2-1-3 防衛事業の適正な利益の確保にかかる措置(QCD評価、コスト変動調整率)

2 防衛産業の活性化
(1)防衛産業参入促進展

防衛産業に未参入の企業が積極的に防衛事業に参画することは、防衛産業の活性化および防衛生産・技術基盤の強化の観点から極めて重要である。特に民生分野で進展の著しいAIや情報通信技術などの分野における先端ソフトウェア技術を有するスタートアップ企業など、従来防衛分野との関連が薄かった企業を防衛産業に取り込んでいくことが不可欠である。

防衛装備庁では、優れた技術や製品を有するスタートアップ企業や中小企業などが防衛産業に新規参入する機会を創出するため、2016年から、わが国の防衛関連企業および防衛省・自衛隊とのマッチングを図る展示会を開催している。2025年度は12月および2月に東京で、それぞれ2日間開催した。

防衛産業参入促進展の様子

防衛産業参入促進展の様子

(2)スタートアップ企業の活用

ア 防衛産業へのスタートアップ活用に向けた合同推進会

スタートアップ企業は、速やかな意思決定を通じ、新技術を活用した製品やサービスの開発や新規参入を行うことが可能であり、急速に厳しさを増す安全保障環境において、わが国が直面する課題に対し、臨機応変な解決策を提供する担い手として、大きなポテンシャルがある。また、こうしたスタートアップ企業が有する優れた技術や製品を装備品に活用することは、「新しい戦い方」を踏まえたわが国独自の「新しい守り方」に対応するための技術的優越の確保や、わが国の防衛生産・技術基盤の維持・強化といった観点からも極めて重要である。そこで防衛省・自衛隊は、現存する民生技術・既製品などを活用しながら、先端技術研究の成果を装備品の研究開発などに積極的に取り込むため、スタートアップ企業などと連携し、早期装備化を推進している。こうした取組の一環として、経済産業省と連携し、経済産業省が保有するスタートアップ支援の枠組みやネットワークを活用し、防衛省・自衛隊のニーズとスタートアップ企業とのマッチングを図る機会を創出するため、防衛省と経済産業省の関係部署が会合する枠組みとして、「防衛産業へのスタートアップ活用に向けた合同推進会」を整備し、継続して意見交換を行っている。また、本推進会の分科会として、AI、無人機などの技術分野毎にマッチングを図る機会を創出する「スタートアップ合同ヒアリング」を実施し、より一層集中的かつ効率的に防衛省・自衛隊とスタートアップ企業とのマッチングを図っている。

イ スタートアップ技術提案評価方式

政府は、高度かつ独自の新技術を有するスタートアップなどとの随意契約を可能とするため、2024年6月に「高度かつ独自の新技術を有するスタートアップ等との随意契約(スタートアップ技術提案評価方式)についての申合せ」を行った。防衛省では2025年3月に本方式を適用した契約を株式会社インフォステラと締結し、政府で最初の適用事例となった。

本方式は、最適な解決策を見つけ出すのが困難な行政課題に対し、優れた提案を行った企業との仕様の確定に向けた協議を経て、随意契約が可能となることが特徴である。

参照図表IV-2-1-4(スタートアップ技術提案評価方式における随意契約の流れ)

図表IV-2-1-4 スタートアップ技術提案評価方式における随意契約の流れ

ウ 日本スタートアップ大賞における防衛スタートアップ賞の新設

日本スタートアップ大賞は、次世代を担う若者や起業家のロールモデルとなるような、社会的インパクトのある新事業を創出したスタートアップを表彰することにより、積極的な挑戦の重要性や起業家への評価を浸透させ、社会全体のチャレンジ精神の高揚を図ることを目的としている。日本スタートアップ大賞2025からは、防衛分野における将来的なイノベーションの創出や防衛分野の発展に対して寄与したスタートアップを表彰するため、防衛大臣賞(防衛スタートアップ賞)を新設し、株式会社Synspectiveが受賞した。

日本スタートアップ大賞受賞企業については、スタートアップ技術提案評価方式においてJ-Startup選定企業などに限定して公募が行われる場合、その公募対象に含まれるほか、技術提案の審査においても加点されるなど、J-Startup選定企業と同等の優遇措置がとられる。

エ 「ファストパス調達」の新設

防衛省として、スタートアップ企業の活用を本格的に推進していくために、スタートアップ企業などの技術の迅速な導入に資する柔軟な契約制度の活用を推進する「ファストパス調達」についての取組を、2026年2月に公表した。

具体的には、①スタートアップ企業などの研究開発を支援する政府共通のスキームであるSBIR(Small Business Innovation Research)制度を活用し、自衛隊の運用ニーズを踏まえた研究開発を促進、②スタートアップ技術提案評価方式の更なる活用、③部隊が企業と一体となってフィードバックサイクルを回し迅速な装備化を目指すアジャイル型調達の制度化に加え、④「スタートアップ活用伴走支援グループ」を新設し、自衛隊の運用ニーズとのマッチングや契約締結時の障害の解決といった一気通貫の伴走支援を実施する体制の整備などを行った。

(3)インダストリーデー

2022年から、国内防衛関連企業の日米共通装備品などのサプライチェーンやインド太平洋地域における米軍の維持整備事業への参画を図るため、米軍および米国防衛産業とのマッチングの機会となる展示会(インダストリーデー)を行っている。2025年は9月に東京で開催した。その際、小林防衛大臣政務官(当時)が出席し、防衛産業と米軍および米国防衛産業とのマッチングの重要性を訴えた。

インダストリーデー(2025年9月)

インダストリーデー(2025年9月)

また、2026年2月には、米艦船修理に関する官民マッチングイベントを長崎県佐世保市で開催し、米海軍と地元企業を含む日本企業計16社との間で意見交換が行われた。

参照4章6項(FMS調達の合理化に向けた取組の推進)

3 強靱なサプライチェーンの構築
(1)防衛装備品等の供給の安定化に係る取決め

2023年、「防衛装備品等の供給の安定化に係る取決め」(SoSA:Security of Supply Arrangement)の署名がなされた。本取決めは、装備品等(最終製品のみならず、その部品や役務も含む。)を日米間で安定的に相互に供給し合うことを目的とした枠組みであり、装備品等の強靱で多様化されたサプライチェーン構築に寄与するものである。

わが国の企業がこの枠組みに参加することで、当該企業の製造する自衛隊向け装備品等に使用されている米国製品の納入遅延が解消される可能性があるほか、参加企業の登録情報が米国に共有されることで、米国において信頼のおける日本企業として認知されることにもつながりうる。

参照図表IV-2-1-5(防衛装備品等の供給の安定化に係る取決め(SoSA)(イメージ))

図表IV-2-1-5 防衛装備品等の供給の安定化に係る取決め(SoSA)(イメージ図)

動画アイコンQRコード資料:装備庁HP:防衛産業への参入促進について
URL:https://www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku_newentry.html

(2)取適ガイドラインの策定

防衛事業からの撤退などが断続的に生じる状況を踏まえ、防衛装備庁と経済産業省は共同で2025年3月、「防衛産業における受託適正取引等の推進のためのガイドライン」を策定した。これはサプライチェーン全体での基盤強化のための取組の一環として策定され、労務費などを適切に転嫁するとともに、必要な利益を確保することで、防衛産業を構成する取引事業者全体での企業価値の最大化を図ることを目的としたものである。本ガイドラインでは防衛産業の特徴を整理し、特徴ごとに当該特徴に起因すると考えられる事業者からの取引に関連する指摘事例を列挙したうえで、取引上の留意点や望ましい取引方法を整理し、適正な取引慣行の推進と業界全体の健全な発展を促している。

4 防衛産業保全の強化

装備品等の国際的な共同研究・開発・生産が加速するなか、サイバー攻撃や情報窃取の脅威は深刻化しており、わが国の防衛産業には国際水準の強固な情報保全体制が求められている。

こうした課題に対応するため、防衛装備庁は、2025年6月「防衛事業適合事業者制度」を創設した。本制度は、従来の調達契約ごとに行われていた秘密保全に関する契約を抜本的に見直し、事業者の保全体制をあらかじめ認証した上で、事業所単位で一元的に契約を締結する仕組みである。これにより、煩雑な事務手続の大幅な迅速化・合理化が実現されるとともに、企業にとっても自社のセキュリティレベルが国際標準と遜色ないことをグローバルに証明しやすくなる。

KEY WORD防衛産業保全

防衛省と自衛隊が使用する装備品等の研究開発、調達、補給もしくは装備品等に関する役務の調達にかかる契約を締結した事業者(防衛産業)が秘密情報(Classified Information)を取り扱うにあたり、当該秘密情報の保護に必要な保全措置を講じること。

KEY WORD防衛事業適合事業者制度

防衛事業に参画する意思のある事業者が、秘密情報などを取り扱う契約を履行する体制にあることを、契約の前に審査する制度。

さらに2025年5月に43の国・機関で構成される多国間産業保全ワーキンググループ(MISWG:Multinational Industrial Security Working Group)の分科会を東京で主催したほか、同年9月の年次総会においてもわが国の取組を積極的に発信している。

こうした取組を通じ、国際共同開発への参画機会が拡大し、日本企業の国際競争力向上にも寄与することが期待される。

また、秘密情報ではないものの適切な保護を要する情報について、米国防省の「NIST SP800-171」と同水準の装備品等及び役務の調達における情報セキュリティ基準を2023年4月より適用した。防衛装備庁は、防衛関連企業と緊密に連携し、脅威を直視した情報管理策の徹底と合理性の向上に取り組み、2026年3月現在、100社を超える国内の防衛関連企業が情報システムの改修や新規導入を行った。防衛装備庁は、防衛産業全体の情報保全レベルの強化、国際的信頼性の向上、そして持続可能な防衛産業基盤の確立を引き続き強力に推進していく。

参照III部1章2節4項2(2)イ(セキュリティ強化)

動画アイコンQRコード資料:装備庁HP:装備品等及び役務の調達における情報セキュリティ基準について
URL:https://www.mod.go.jp/atla/cybersecurity.html

動画アイコンQRコード資料:装備庁HP:防衛産業保全について
URL:https://www.mod.go.jp/atla/industrialsecurity/index.html

5 機微技術管理の強化

防衛装備移転時に技術の重要度や優位性などを踏まえた技術的機微性評価を行い、機微性が高い技術については、技術のリバースエンジニアリング対策を推進するなど、技術流出防止に取り組んでいる。

近年、先端技術をめぐる国際競争が激化するなか、防衛技術の専門家としての観点から先端技術の分析を行い、重要技術の特定・把握に取り組むとともに、同盟国などと技術分析の連携推進に取り組んでいる。また、経済安全保障施策の一つである特許出願の非公開に関する制度、あるいは対内直接投資などについて、技術流出防止の観点から関係府省庁と連携・協力しているほか、特許出願の非公開に関する制度を活用し、保護すべき情報に該当するため安全保障上の観点から出願できなかった発明を出願できるよう規則の改正を行った。

6 情報発信など

防衛大臣と防衛産業(主要プライム企業)の社長などが一堂に会して意見交換を行っており、2025年7月には第4回となる意見交換会を行った。加えて、防衛装備庁長官と各企業防衛部門の長との間での意見交換をこれまで計8回行い、双方が認識している問題や課題を共有するなど、官民の協力・連携の強化を進めていくこととしている。

5 各企業の防衛事業に対するQuality(品質)、Cost(費用)、Delivery(納期)などを評価し、利益率に反映する仕組み

6 企業努力の及ばない将来の労務費や物価高騰などのコスト上昇のリスクを吸収するもの。