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第IV部 防衛生産・技術基盤の強化

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第2章 防衛生産・技術基盤の維持・強化に向けた基本的な考え方

第1節 防衛生産基盤の強化

1 防衛生産基盤強化法と基本方針

わが国の防衛産業は装備品等のライフサイクルの各段階(研究、開発、生産、維持・整備、補給、用途廃止など)を担っており、装備品等と防衛産業は一体不可分である。防衛産業が高度な装備品等を生産し、高い可動率を確保できる能力を維持・強化していくために必要な施策を講じるため、防衛生産基盤強化法1が2023年に施行された。

この法律において、防衛大臣は、基本方針2を定めることとされており、同年10月にこれを公表した。この基本方針では、防衛生産基盤強化法に定められた施策が適切に行われるために必要な事項を定めるとともに、2014年に策定した「防衛生産・技術基盤戦略」に代わり、今後の防衛生産・技術基盤の維持・強化の方向性を新たに示した。

参照資料72(装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する基本的な方針)

1 防衛生産・技術基盤の維持・強化に関する主な方向性
(1)防衛生産・技術基盤の維持・強化の意義

国内に防衛生産・技術基盤を維持・強化する意義として、わが国の安全保障上の主体性の確保や抑止力の向上、国内産業への経済的・技術的貢献といった観点はこれまでも指摘されてきた。特に「新しい戦い方」を踏まえたわが国独自の「新しい守り方」や持続可能な対応能力の確保が求められるなか、国内の防衛生産・技術基盤が果たす役割は高度な装備品等の早期獲得や自衛隊の十分な持続的な対応能力の維持・確保にとってますます重要である。

また、民生用の技術と安全保障用の技術の区別が困難となるなか、防衛と民生のデュアルユースの領域(構成品、技術)も拡大しつつある。これにより、防衛力強化のための生産・技術基盤への投資が国内外の民生市場における競争力の強化につながるとともに、国内外の民生市場の獲得により強化された生産・技術基盤が装備品の質と量の向上につながる「防衛と経済の好循環」が生じる傾向が拡大しつつある。

加えて、近年、経済安全保障の観点から各国による技術の囲い込みが進み、また、新型コロナウイルスの感染拡大などでサプライチェーンの途絶なども生じた。こうした背景から、わが国防衛に直結する装備品等の安定的な製造等や技術的優位性を確保する観点からも、防衛生産・技術基盤を国内に維持・強化する必要性は一段と高くなっている。

参照4節(防衛生産・技術基盤とイノベーション)

(2)装備品等の取得の考え方

装備品等の取得方法については、わが国を防衛するために必要な性能を有する装備品等を取得するという前提のうえで、次の考え方を踏まえて決定する必要がある。①経費面においても継続的な取得や維持整備が可能であること、②わが国に比較優位がある分野を育成し、劣後する分野や欠落する分野を必要に応じ補完すること、③防衛生産・技術基盤を国内に維持し、強化していく必要があること。具体的には、装備品等を新たに取得するにあたって、次の分野を中心に国産による取得を追求する。

ア 運用構想、性能、取得経費、ライフサイクルコスト、スケジュールなどの諸条件を国内技術で満たすことができるもの

イ 有事の際の持続的な対応能力の維持と平素からの運用、維持整備にかかる改善能力の確保の観点から不可欠なもの(例:弾薬、艦船)

ウ 機密保持の観点から外国に依存すべきでないもの(例:通信、暗号技術)

エ わが国の地理的、政策的な特殊性を踏まえた運用構想の実現に不可欠なもの

オ 外国からの最新技術の入手が困難なもの

カ 経済的手段による外的脅威の対象となりうるもの

(3)国際協力の考え方

各国が軍事分野での研究開発にしのぎを削り、技術の進展が著しい昨今、必要な防衛生産・技術基盤を自国のみで維持することは困難であり、他国に依存すべきでない装備品等にかかる基盤は国内において維持・強化することを基本としつつも、装備・技術面での国際協力を推進していくことが不可欠となっている。したがって、国際共同研究・開発、さらには積極的な国際協力やライセンス国産を推進し、各国の優れた技術をわが国の装備品等に取り込むことが必要である。

また、装備移転は、特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止して、わが国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使または武力による威嚇を受けている国への支援などのための重要な政策的手段となる。こうした観点から、官民一体となって安全保障上意義の高い装備移転や国際共同開発を幅広い分野で進めていく。

(4)防衛産業のあるべき姿

防衛産業は、防衛省・自衛隊とともに国防を担う重要なパートナーである。安全保障環境が加速度的に変化するなかにおいて、質・量の両面でわが国の防衛を全うできる装備品等を、継続的に開発・生産・維持整備できる能力を構築することが不可欠である。

また、防衛産業は、デュアルユース分野をはじめとする取組を通じて、「防衛と経済の好循環」を実現する主体としての役割も期待されている。これまで防衛産業は、主な販路が防衛省に限られることや利益率の低さなどから、成長が見込めないと考えられてきた。しかし、従来の枠組みにとどまることなく、能動的な成長投資を行い、装備品の移転やデュアルユースによる民生市場の獲得などに積極的に取り組んでいくことが重要である。

このような認識のもと、次に示す防衛産業の望ましい姿の実現に向けて、官民が連携して取り組んでいく。

  1. ① 防衛力の強化に必要な装備品等を、適時かつ十分な量で安定的に提供できる体制を確立する。
     持続可能な対応能力や「新しい戦い方」を踏まえたわが国独自の「新しい守り方」を支えるため、開発・生産・維持整備の各能力を確保することが求められる。そのため、需要の急増にも対応可能な生産基盤・維持整備基盤を構築するとともに、サプライチェーンの強靱化を図る。さらに、国立研究開発法人・大学などやスタートアップを含む防衛イノベーション・エコシステムを構築し、最先端科学技術を積極的に取り込む。あわせて、非対称な装備品やデュアルユース技術を活用した装備品の開発・生産を進め、装備品の迅速なアップデートサイクルを実現する。
  2. ② 防衛装備品の移転を通じて、望ましい安全保障環境の創出を図るとともに、生産能力の確保などを実現する。
  3. ③ デュアルユース分野への積極的な投資を進め、民間市場の競争力の強化につなげるとともに、民生市場の獲得で強化された基盤を、防衛装備品の質と量の向上につなげる。
(5)装備品等の安定的な製造を確保するための国と事業者の役割

装備品製造等事業者3が、継続的に防衛事業に携わることができるよう、国は環境を整えることが重要である。事業者は、自らが国防を担う重要な存在であるとの認識を強く持ったうえで、防衛生産・技術基盤の維持・強化に主体的に取り組むことが期待される。

2 防衛生産基盤強化法に基づく措置
(1)特定取組(サプライチェーン強靱化、製造工程効率化、サイバーセキュリティ強化、事業承継など)

装備品等の製造等に際しては、安定的な製造等を損なう様々なリスクが想定される。例えば、①外国政府が輸出を規制して原材料などの輸入が困難となるリスク、②老朽化した設備が更新されず生産性や技術水準が低迷し納入遅延や要求性能未達となるリスク、③工程においてマルウェアやスパイウェアが混入するといった懸念部品(悪意あるソフトウェアが組み込まれた部品)のリスク、④サイバー攻撃によって性能などの情報が流出するリスク、⑤事業継続が困難となって防衛事業から撤退するリスクなどがあげられる。このようなリスクに効果的に対応し、プライム企業とサプライヤーから構成されるサプライチェーンが効果的・効率的に機能し、指定装備品等4の安定的な製造等に寄与するよう、事業者により次の特定取組(防衛生産基盤強化法に基づき、自衛隊の任務遂行に不可欠な装備品等の安定的な製造等を確保するために行う取組)がなされる必要がある。

  1. ア サプライチェーン強靱化
    • 原材料の国産化・備蓄
    • 代替素材、部品等の研究開発 など
  2. イ 製造工程効率化
    • 最新設備などの導入
    • 人工知能による検査工程自動化 など
  3. ウ サイバーセキュリティ強化
    • 情報システムの強化
    • 社内人材育成 など
  4. エ 事業承継など
    • 製造設備などの整備
    • 人材育成(技術・ノウハウ習得) など

防衛大臣は、事業者から提出された特定取組に関する計画(装備品安定製造等確保計画)について、基本方針に従い、認定する。防衛省は、認定後に事業者と特定取組にかかる契約を直接締結し、当該契約の定めに従って遅滞なく対価を支払うこととしている。また、民間向けと併用する設備などの取得であっても事業計画の認定を受けることができる。2025年度は、計164件について認定を行ったところである。

参照図表IV-2-1-1(装備品安定製造等確保計画の認定実績)

図表IV-2-1-1 装備品安定製造等確保計画の認定実績

(2)特定取組として認定された例

これまで大企業・中小企業問わず多くの企業において、防衛生産基盤強化法に基づき事業計画を認定している。

サプライチェーン強靱化については、輸入部材の国産化などに関する調査や生産が停止される部品の代替品選定のための調査などに関する計画を認定した。また、製造工程効率化については、工程の集約や省人化による効率化のための設備投資に関する計画を認定した。

2025年度は、計164件について認定を行ったところであるが、このうち、124件は、中小企業による取組が認定されている。

そのほか認定された計画、申請方法や相談窓口については、防衛装備庁ホームページに掲載されている。

参照図表IV-2-1-2(特定取組として認定される例)

図表IV-2-1-2 特定取組として認定される例

動画アイコンQRコード資料:装備庁HP:防衛生産基盤強化法について
URL:https://www.mod.go.jp/atla/hourei_dpb.html

(3)装備移転の円滑化・指定装備移転支援法人

装備移転に際し、わが国の安全保障上の観点から適切な仕様・性能の変更などを事業者に実施させる場合がある。特に、わが国の装備品等に使われている先進的な技術に関する情報を保全することにより、諸外国に対する防衛分野における技術面での優位性が失われる懸念について適切に対応する必要がある。

こうした観点で防衛大臣が事業者に対して仕様と性能の調整を求める場合に、これにかかる必要な費用を助成金として交付する。

前述の助成金の交付とこれに必要な基金を管理し、また、装備移転が防衛省の政策目的に適合したものとして事業者による装備移転が適切な管理のもとで円滑に行われるようにするために、2024年2月、防衛大臣が指定装備移転支援法人を指定した。

2024年3月、防衛装備移転円滑化基金を造成し、これまでに計1,600億円を同法人に対して交付した(2026年6月1日時点)。

参照3章(防衛装備・技術協力と防衛装備移転の推進)

(4)装備品等秘密の保全

装備品等の製造等にあたって、より質の高い装備品等を安定的に調達するために、防衛省は先端技術などの装備品等に含まれる秘密情報を事業者に提供している。一方で、近年、安全保障上の懸念国によるサイバー攻撃、企業買収の働きかけなど、装備品等に含まれる秘密情報の流出の脅威がこれまで以上に高まっている。

こうした観点で、事業者に提供していた秘密情報を「装備品等秘密」として改めて指定し、これを取り扱う事業者とその従業者に情報管理の徹底を求めることとした。また、この秘密を故意に漏えいなどをした者に対して、自衛隊員などを対象にした秘密漏えい時と同様の罰則を措置することで、効果的に漏えいを防止する。

参照2項4(防衛産業保全の強化)

(5)防衛大臣による装備品製造施設の取得など

上記(1)と(2)の各種取組では防衛省による指定装備品等の安定的な調達ができないと判断される場合には、当該指定装備品等の製造等をする施設や設備を防衛省が取得することができる。取得した製造施設などは、事業者が指定装備品等の製造等のために防衛省から委託を受けてその管理を行う。このため、本制度を適用した場合でも事業主体は民間企業であり、通常の企業活動と何ら変わりなく、効率的な運営が期待される。

1 防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律

2 装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する基本的な方針

3 装備品等の製造等の事業を行う事業者。

4 防衛大臣が指定する自衛隊の任務遂行に不可欠な装備品等であって、その製造等を行う特定の装備品製造等事業者による製造等が停止された場合に、防衛省による適確な調達に支障を生じるものをいう。