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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

3 欧州各国などの安全保障・防衛政策

1 英国

英国は、冷戦終結以降、自国に対する直接の軍事的脅威は存在しないとの認識のもと、国際テロや大量破壊兵器の拡散などの新たな脅威に対処するため、特に海外展開能力の強化や即応性の向上を主眼とした国防改革を進めてきた。

2023年3月、スナク政権(当時)は、「統合的見直し」の刷新を発表し、欧州・大西洋地域を最も重要な優先地域とし、ロシアを「最も差し迫った脅威」と位置づけ、対ロシア戦略として、NATOのさらなる強化や、偽情報の公表によるロシアの悪意ある影響力への対抗などを示した。中国については「時代を画する体制上の挑戦」と評価している。また、インド太平洋地域を「英国の国際政策の永続的な柱」と位置づけ、自由で開かれたインド太平洋ビジョンを支持し、わが国を含むパートナーなどと、数十年にわたる経済的、技術的、安全保障上の密接な関係を構築することなどにより、インド太平洋地域における関与を強化する方針を表明した。

2025年6月、スターマー政権は「戦略的国防見直し2025(SDR(Strategic Defence Review)2025)」を発表した。冷戦終結以降、最も深刻かつ予測困難な脅威に直面しているという認識のもと、欧州の防衛力の強化を最優先する方針を掲げ、ロシアを引き続き「差し迫った脅威」と位置づけた。また、中国については「高度で持続的な挑戦」と評価し、台湾周辺での軍事演習は台湾海峡における危険の増大を招くおそれがあり、その攻撃的な行動は南シナ海における緊張を高める要因となっているとも指摘した。なお、インド太平洋地域については、英国にとって戦略的に極めて重要な地域であるとし、NATOのインド太平洋地域におけるパートナー国であるIP4との連携にも言及した。

英国は、引き続きインド太平洋地域への関与を続けている。英国防省の発表によれば、2024年7月に、豪空軍演習「ピッチ・ブラック24」に参加した。2025年には、空母「プリンス・オブ・ウェールズ」を旗艦とする空母打撃群が、約8か月間にわたってインド太平洋地域への展開活動を実施した。この空母打撃群は、わが国を含む地域各国に寄港し、米豪主催多国間共同訓練「タリスマン・セイバー25」への参加を含め、各国との共同訓練などを行った。

加えて、英国は、2018年度以降、北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対して、わが国周辺海域において警戒監視活動を実施しており、2025年6月には、哨戒艦「スペイ」が、同年9月には、フリゲート「リッチモンド」が警戒監視活動を行った。

また、中東については、SDR 2025において、貿易上・世界のエネルギー供給上の観点から英国の安全保障と繁栄にとって極めて重要としており、2026年2月に始まった米国・イスラエルとイランによる攻撃の応酬に際しては、湾岸諸国に対し、戦闘機の追加派遣や防空システムの展開により、防空体制の支援を行った。さらに、同年3月19日にはフランス、ドイツ、イタリア、オランダ、日本、カナダなどとともにホルムズ海峡に関する首脳共同声明を発出したほか、4月17日にはフランスとともに首脳オンライン会合を主催するなど、ホルムズ海峡の安全な通航確保のための多国間の取組を主導している。

2 フランス

フランスは、冷戦終結以降、防衛政策における自律性の維持を重視しつつ、欧州の防衛体制や能力の強化を主導してきた。軍事力の整備については、基地の整理統合を進めながら、防護能力の強化などの運用所要に応えるとともに、情報機能の強化と将来に備えた装備の近代化を進めている。

2025年7月、世界の安全保障環境のさらなる悪化に伴い更新した「国家戦略レビュー2025(National Strategic Review 2025)」が発表された。この文書は、2030年までに、欧州で高烈度な紛争が発生するリスクが高いとし、再軍備の加速と同盟国との協力強化を示した。ロシアについては、フランスや欧州各国にとって最も直接的な脅威と位置づけ、核兵器による威嚇やサイバー攻撃、選挙への干渉を試み、中国や北朝鮮との連携を強化していると指摘した。中国については、米国との対立が不可避であり、2050年までに米国をしのぐ世界一の強国となることを目標としているとし、台湾周辺で前例のない規模で軍事演習を強化し、欧州やアフリカでも影響力を拡大していると指摘した。

2025年11月、マクロン大統領は、新たな志願制の兵役制度の導入を発表し、2026年1月から募集が開始された。この制度は、2035年に5万人が兵役に参加することを目標としている3

フランスは、インド太平洋地域に海外領土を持つ関係上、この地域に常続的な軍事プレゼンスを有する唯一のEU加盟国であり、艦艇などを含め約7,000人を常駐させている。インド太平洋地域へのコミットメントを重視しており、2019年6月に公表されたフランス軍事省の「インド太平洋国防戦略」は、中国が、拡大する影響力を背景にインド太平洋地域のパワーバランスを変更しようとしているとし、米国、オーストラリア、インド、わが国との連携強化の重要性を示した。

こうしたインド太平洋地域への積極的な関与の方針のもと、2025年には、空母「シャルル・ド・ゴール」を旗艦とする空母打撃群が、ミッション「クレマンソー25」の一環としてインド太平洋地域に派遣され、米国、カナダ、オーストラリアなどと共同訓練を実施した。同年2月には、日米仏共同訓練「パシフィック・ステラー」にも参加した。

また、フランスは、2019年以降、北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対する警戒監視活動を実施している。2025年2月には補給艦「ジャック・シュヴァリエ」などが、同年10月にはフリゲート「プレリアル」が、同年10月から11月にかけては哨戒機「ファルコン50M」が、それぞれ警戒監視活動を実施した。

フランスは、中東への関与も重視してきた。フランス軍は2014年からイラクで活動を続け、イスラム国(ISIL:Islamic State of Iraq and the Levant)に対抗するイラク治安部隊などへの軍事支援を行っている。

また、2026年2月に始まった米国・イスラエルとイランによる攻撃の応酬に際しては、空母「シャルル・ド・ゴール」を旗艦とする空母打撃群の東地中海および紅海などへの派遣や、レバノンへの装甲車の提供などにより、中東諸国などの防衛を支援した。さらに、同年3月19日には英国および他の参加国とともにホルムズ海峡に関する首脳共同声明を発出したほか、4月17日には英国とともに首脳オンライン会合を主催し、多国籍海洋ミッションの設立に向けた動きを含む仏英首脳共同声明を発出するなど、ホルムズ海峡の安全な通航確保のための多国間の取組を主導している。

参照10節2項2(アフリカ諸国とその他の国との関係)

3 ドイツ

ドイツは、冷戦終結以降、兵力の大幅な削減を進める一方で、国外への連邦軍派遣を徐々に拡大するとともに、NATOやEU、国連などの多国間機構の枠組みにおいて、紛争予防や危機管理を含む多様な任務を遂行する能力の向上を主眼とした国防改革を進めてきた。

しかし、ロシアによるウクライナ侵略を受け、ドイツは「時代の転換点(Zeitenwende)」という認識のもと、安全保障政策を大きく変化させることとなった。具体的には、ウクライナへの武器供与、ロシアに対する厳しい経済制裁、NATOの能力目標を達成するための国防費増額と安全保障関連分野への投資強化、NATOにおける貢献の強化、1,000億ユーロの連邦軍特別基金の設立などである。

2023年6月、ドイツ政府は、安全保障を外交と軍事の分野だけでなく、すべての政策分野の一部ととらえる初の包括的な国家安全保障戦略を公表した。ロシアを欧州・大西洋地域における最も重要な脅威と評価し、中国については、グローバルな課題を解決するパートナーである一方、体制上のライバルや競争者の側面が増大していると指摘した。国防費については、複数年の平均値として対GDP比2%に設定することを政府の方針として明記した。

さらに、同年11月には、国防省がこの戦略に基づく「国防政策方針2023」を公表した。ドイツが欧州における抑止と集団防衛の屋台骨にならなければならないとの認識を示し、ドイツ連邦軍の中核的任務を国家防衛と集団防衛に回帰させるとした。特に、NATO東部の同盟国の防衛に対して、これまで以上に大きな貢献をする責任を強調し、リトアニアに1個旅団を常駐させることとした。リトアニアへの旅団常駐に関しては、2024年9月にその法的根拠となる防衛協定が署名され、2025年4月に旅団が発足した。この旅団については、2027年までに約5,000人規模での完全運用達成が目指されている。

2025年3月には、国防費の増額を厳格な財政規律規定の適用対象から除外するための基本法改正が行われ、同年6月には2029年度までに国防費を対GDP比で3.5%とすることが決定された。さらに、同年5月、メルツ首相は所信表明演説でドイツ軍を欧州最強の通常戦力とするため、防衛力の強化を加速させる旨言及した。同年12月には、連邦議会は、既存の志願制の兵役制度の改革を行う新たな兵役法4を可決しており、ドイツ政府は、2035年までに、現役兵力を26万人以上、予備役を20万人に増強する目標を掲げている。

インド太平洋に関しても、ドイツ政府は2020年に「インド太平洋ガイドライン」を策定し、この地域における安全保障政策面での関与を強化すると表明した。近年、ドイツは、インド太平洋地域に継続的にアセットを派遣し、プレゼンスの強化を図ると同時に、わが国などの共通の価値観を持つパートナー国との連携を重視している。

2024年には、フリゲート「バーデン・ヴュルテンベルク」および補給艦「フランクフルト・アム・マイン」がインド太平洋地域に派遣された。ドイツ軍の発表によれば、2隻は同年6月から8月にかけて、米海軍主催多国間共同訓練「リムパック24」に初参加し、多国間協力と相互運用性を強化した。

また、ドイツは2021年以降、北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対する警戒監視活動を実施しており、2024年8月から9月までの間、前述の2隻が警戒監視活動を実施した。

4 カナダ

カナダ国防省は2024年4月、国防政策文書を発表し、気候変動、ロシア・中国のような独裁・破壊的国家の台頭、新興かつ破壊的技術の普及という3つの相互に関連するトレンドにより、世界的な不確定の時代にあるとの認識を示した。こうした安全保障環境の認識のもと、北極圏および北米地域におけるカナダの主権確保を国防政策の基本に据え、即応的で抗たん性のある、適切なカナダ軍の実現のため、人的基盤・装備品の更新・調達改革、軍関連インフラの再構築や、デジタル化推進、防衛産業基盤整備を行うとした。また、2025年3月に発足したカーニー政権は、同年6月に国防投資の増額・加速化計画を発表し、防衛分野における投資を約90億ドル増額し、2025年度中に国防費の対GDP2%を達成する予定とした。このほか、カナダは2024年12月、「北極外交政策」を発表した。この政策では、気候変動による北極の資源・航路へのアクセス増加や、ロシアによる軍事プレゼンスの強化と中国などによる関心の高まりといった北極圏を取り巻く安全保障環境の変化を踏まえ、具体的な施策として、北極担当大使の任命や、アラスカ、グリーンランドにおける領事館の新設などをあげている。また、2007年から北極地域における軍事演習「ナヌーク作戦」を実施しているほか、米国、フィンランドとの間で砕氷船の設計・建造能力の強化を目的とした産業協力などを進めている。

カナダは、伝統的に米国を最も重要な同盟国とみなし、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD:North American Aerospace Defense Command)を通じて北米地域の防空・宇宙防衛・海洋警戒監視を米国と共同で実施している。創設国の一員として、NATOとの関係も重視しており、NATO主導の作戦に積極的に参加している。国連の活動も伝統的に支持している。

インド太平洋地域への関わりについて、2022年11月、カナダは今後10年の包括的指針として初めてとなるインド太平洋戦略を発表した。この戦略において、中国を「ますます問題を引き起こすグローバルパワー(increasingly disruptive global power)」と言及し、国際秩序を自国の価値観・利益により寛容な環境へ作り替えようと試みているとして、中国がカナダの国益や地域パートナーの利益を損なう行動に出る場合、挑戦するとした。一方、気候変動などの世界的な問題の解決では、中国と協力する考えを示しており、カーニー首相は2026年1月に訪中し、中国との「新たな戦略的パートナーシップ」を発表した。

また、前述のインド太平洋戦略では、戦略目標の一つとして、地域の平和・抗たん性・安全の推進を掲げ、同盟国やわが国を含めたパートナー国との安全保障関係を強化するとし、2018年4月から実施している北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対する警戒監視活動5を継続する考えを示しており、2026年3月下旬から4月上旬までの間、空軍哨戒機「CP-140」による警戒監視活動を実施した。さらに、この戦略では、派遣するフリゲートの増加などによるインド太平洋地域への海軍のプレゼンスを強化するとしている。なお、2018年以降、カナダ海軍の艦艇が国際法に従って、台湾海峡の通過6を行ってきている。

3 フランス軍事省によれば、兵役期間は10か月であり、18歳から25歳の男女が募集対象となる。フランス本土および海外領土に配属されるが、国外作戦や紛争地域への派遣は想定されていないとされている。

4 ドイツ連邦政府によれば、兵役期間は最低6か月であり、18歳のすべての男女に入隊の意思などを問う質問票を送付し、回答を求めるとされている。なお、男性には回答の義務があるが、女性は任意である。

5 2019年6月から対北朝鮮制裁履行活動に従事する「ネオン作戦」の枠組みのもとで同活動に従事している。なお、2023年10月には、この作戦に従事していたカナダ軍哨戒機が、東シナ海の上空で中国軍機による異常接近などを受ける事案が発生したとされる。

6 カナダの世界平和へのコミットメントを示すことを目的とした世界の安全のための海上作戦である「プロジェクション作戦」の一環として、同活動に従事している。