2024年5月に就任した民進党の頼総統は、両岸関係について現状を維持し、対等な立場での交流や対話を求めるとしつつ、中国が主張する「一つの中国」原則と「92年コンセンサス5」の受け入れを拒否する姿勢を累次の機会に表明している。また、2025年3月には、頼総統は中国を「域外敵対勢力」であると初めて言及したほか、同年11月には、台湾の安全保障に関して「『民主主義台湾』を守らなければならず、降伏して『中国台湾』になることを拒否する争い」であるとし、防衛力強化に取り組む姿勢を示すとともに、中国が台湾に適用するとしている「一国二制度」についても「『一国二制度台湾案』は触れてはならないレッドライン」と受け入れない旨改めて言及した。
頼政権発足後も、中台当局間の対話は途絶えた状況が継続しているところ、中国は様々な分野で台湾への圧力を継続している。軍事面では、台湾周辺空域に進入する中国軍機を増加させるなど平素からの軍事活動を活発化させているほか、頼総統による台湾の主権にかかる発言などに際して、台湾周辺で軍事演習を実施している。また、2024年6月に中国政府は、「『台湾独立頑迷分子』による国家分裂行為」に対し最高刑として死刑を適用する処罰指針を発表し、蕭美琴(しょうびきん)台湾副総統をはじめとする人物の「台湾独立頑迷分子」リストへの追加を継続するほか、台湾の石油化学品など134品目について海峡両岸経済協力枠組協定(ECFA:Economic Cooperation Framework Agreement)に基づく関税優遇措置を停止し、同年9月には台湾産の農水産品34品目の関税免除措置を停止するなど、政治経済分野でも圧力を加えている。
国際社会と台湾の関係については、蔡・前総統の就任前後から、国際機関が主催する会議などにおいて、これまで参加していたものを含め、相次いで台湾代表が出席を拒否されたり、台湾に対する招待が見送られたりするなどしている6。さらに、2024年1月にナウルが台湾と断交して中国と外交関係を樹立したことにより、台湾の国交国は2016年5月の蔡政権発足当初の22か国から12か国に減少している。台湾当局はこれらを「中国による台湾の国際的空間を圧縮する行為」などとし、強い反発を示している。
台湾軍は、現在、海軍陸戦隊を含めた陸上戦力約10万6,000人を擁している。台湾軍は台湾本島と澎湖島を5個作戦区に区分しているところ、陸軍の軍団などが各作戦区の指揮・管理を担任している。このほか、有事には陸・海・空軍合わせて約166万人の予備役兵力を投入可能とみられており、2022年には、予備役や官民の戦時動員にかかわる組織を統合した全民防衛動員署が設立され、有事の際の動員体制の効率化が図られている。海上戦力については、米国から導入されたキッド級駆逐艦のほか、自主建造したステルスコルベット「沱江(だこう)」などを保有している。台湾は現在、「国艦国造」と称する艦艇自主建造計画を推進しており、量産型の沱江級コルベットを2026年までに11隻、潜水艦を2023年9月に進水した1番艦を含め最終的に8隻程度それぞれ建造する計画などが進められている。航空戦力については、F-16(A/B改修V型)戦闘機、ミラージュ2000戦闘機、経国戦闘機などを保有している。2021年11月、台湾初のF-16A/B改修V型から編成される部隊が嘉義(かぎ)基地に発足し、米国から導入する新造のF-16V戦闘機を含め、より長射程のミサイルを搭載できる戦闘機の配備が強化されている。
台湾は2024年1月から、適齢男性(18~36歳)に対する義務兵役期間を従来の4か月から1年に延長した。陸軍では2023年までに義務役兵主体の歩兵旅団を7個新編して計12個旅団体制とし、2024年1月から1年制となった義務役兵の受入れを開始した。新兵役制度では、従来の軍事訓練義務よりも訓練内容を強化するとし、具体的には、新装備の操作訓練の強化や実戦的な訓練への参加などが義務づけられた。また、同年、頼総統は、自然災害や中国の軍事的脅威を念頭に、緊急事態においても政府と社会が正常に機能する能力を構築することを目的とする「全社会防衛強靱性委員会」を設立した。この委員会は、民間人の訓練、戦略物資の備蓄・輸送供給、エネルギーを含む重要インフラの維持、医療と避難施設の整備、情報通信・輸送・金融ネットワークの安全といった分野で、政府各部門、民間部門との連携を強化し、社会全体の強靭性を向上させることを追求している。特に訓練に関し、40万人規模の「信頼できる民間力」の確保を目標にしつつ、従来の民間参加型の防空など複数の演習を「都市強靭性演習」に統合し、2025年以降、台湾各地で防空、動員、インフラ防護などの科目を演練している。
一方、中国は、台湾に対する武力行使を放棄しない意思を示し続けており、航空・海上封鎖、限定的な武力行使、航空・ミサイル作戦、台湾への侵攻といった軍事的選択肢を発動する可能性があり、その際、米国の潜在的な介入の抑止または遅延を企図することが指摘されている。報道によれば、2021年12月、台湾国防部が立法院に提出した非公表の報告書では、中国の台湾侵攻プロセスは次のとおりとされている。中国は初期段階において、演習の名目で軍を中国沿岸に集結させるとともに、「認知戦」を行使して台湾民衆のパニックを引き起こした後、海軍艦艇を西太平洋に集結させて外国軍の介入を阻止する。続いて、「演習から戦争への転換」という戦略のもとで、ロケット軍および空軍による弾道ミサイルおよび巡航ミサイルの発射が行われ、台湾の重要軍事施設を攻撃すると同時に、戦略支援部隊(当時)が台湾軍の重要システムなどへのサイバー攻撃を実行する。最終的には、海上・航空優勢の獲得後、強襲揚陸艦や輸送ヘリなどによる着上陸作戦を実施し、外国軍の介入の前に台湾制圧を達成する。
また、2025年3月に台湾国防部が発表した「4年ごとの国防総検討(QDR:Quadrennial Defense Review)」では、台湾海峡における作戦の形態が変化しているとして、具体的には、中国軍の侵攻兆候の明確な判断が困難になり、平時から戦時への転換が早くかつ曖昧になっていること、中国の長距離精密攻撃能力の発展により前方・後方の別が曖昧になっていること、紛争発生後、中国は「伝統的戦力、ハイブリッド戦力、非正規戦力」による多領域における攻撃を台湾に実施することなどを指摘している。
このような中国の動向に対し、台湾は、「防衛固守・重層抑止」と呼ばれる戦闘機、艦艇などの主要装備品と非対称戦力を組み合わせ、中国軍を可能な限り遠方で制約することを企図しつつ、本土防衛の強化、米国を含む国際パートナーとの連携などによる多層的な防衛態勢を構築し、中国軍による侵攻の阻止・失敗を追求する防衛戦略を打ち出している。この戦略について、2023年の台湾国防報告書では「縦深防衛」の項目を新たに追加しており、その記述内容などは主に次のとおりである。
また、2025年の台湾国防報告書では、「防衛固守・重層抑止」の戦略を維持しつつ、「常態的な危機管理、戦闘準備・展開、統合対上陸、沿岸・海岸における戦闘、縦深防御、持久作戦」を具体的な作戦段階として明記し、敵を逐次弱体化させ要地奪取を阻止する構想を示すとともに、軍民連携による社会全体の強靭性を強化して社会機能と政府運営の継続性を維持していくことや、米国などを念頭に友好国との安全保障関係および共同行動を強化していくことを強調した。
台湾は、「防衛固守・重層抑止」を完遂するために、国産の非対称戦力や長射程兵器の開発生産を拡充するとともに、米国からの武器の導入を進めている。台湾は現在、海空戦力や長射程ミサイルなどの自主開発を強化しており、海空戦力などの拡充に向けた自主開発装備の取得のため、2022年から2026年までの5年間で約2,400億台湾ドルの特別予算を編成している。これに加え、台湾は、米国からのF-16V戦闘機の調達のため、2020年から2026年までの7年間で約2,500億台湾ドルの特別予算を編成しているほか、米国から、主力戦車「M1A2Tエイブラムス」、高機動ロケット砲システム「M142(HIMARS)」、地対艦ミサイルシステム「RGM-84L-4(ハープーン)」、長距離空対地ミサイル「AGM-84H(SLAM-ER:Standoff Land Attack Missile Expanded Response)」、無人機の「スイッチブレード」や「アルティウス」、地対空ミサイルシステム「NASAMS(National Advanced Surface-to-Air Missile System)」などを取得することを決定している。
加えて、2025年10月、頼総統は、「多層防御、高度感知、効果的迎撃」という防空システム「台湾の盾」を構築する旨初めて言及した。これについて、台湾国防部長は、既存の防空システムを統合し効果的な多層防空体制を実現するとしている。
また、台湾は、中国軍の侵攻を想定した大規模軍事演習「漢光」を毎年実施しており、一連の演習を通じ台湾軍の防衛戦略を検証しているものと考えられている。近年の「漢光」では、対着上陸や迎撃などの演目のほか、対サイバー戦、海軍と海巡署の共同訓練といった対グレーゾーン戦略を意識した訓練が行われている。2025年の「漢光41号」では、従来5日間程度であった演習期間を10日間に拡大し、対着上陸、防空、インフラ防護などの演練のほか、演習本体に即応戦闘準備や戦略的コミュニケーション、情報防護などのグレーゾーン対処7を追加した。このほか、「縦深防御・持久戦」の作戦段階を初めて組み込み、市街地を含む内陸地形を活用した戦闘の演練や前述の民間参加型「都市強靭性演習」を「漢光41号」と連携して実施するなど、演習を通じた防衛戦略の検証を行ったとみられる。
このほか、台湾は、中国のグレーゾーンでの軍事活動を通じた統一の追求にも警戒感を強めている。例えば、2023年の台湾国防報告書は、2022年以降、中国の台湾に対する軍事行動が頻繁かつ多様化していると指摘しつつ、具体的には、中国軍アセットの台湾海峡「中間線」越えや、台湾周辺での航行・飛行禁止区域の設定、実戦的な軍事演習などの例をあげ、中国は、台湾への威嚇を強め民心をかく乱し、統一の推進や統一にかかる交渉強要を企図している旨指摘している。

中国軍が公表した台湾周辺での演習区域(2025年12月)【時事】
加えて、2025年の台湾国防報告書は、直近2年の台湾周辺における中国の軍事演習は、台湾の対外接続航路の封鎖・コントロールが主軸であったと指摘している。封鎖は中国が台湾に統一を強要する手段のひとつとの指摘があるところ8、中国が台湾周辺海域で実施した演習では封鎖も演練しており、2024年5月の演習では中国海警局(海警)の演習に連動する形での活動が初めて発表され、これ以降、台湾周辺での軍事演習の際に、海警が台湾周辺で臨検・拿捕の演練や法執行パトロールを実施したことが発表されている。こうしたことを踏まえると、台湾封鎖作戦においては、米国など第三国による軍事介入の回避を念頭に、海警船を前面に展開させグレーゾーンでの封鎖を行う可能性があるほか、さらには台湾侵攻への速やかな移行やそれに伴う米軍の介入阻止なども企図している可能性がある。
2026年5月末現在、台湾の2026年度の国防費は公表されていないが、2025年度の台湾の国防費(防衛当局予算)は約4,739億台湾ドルである一方、2025年度の中国の公表国防費は約1兆7,846億6,500万元であり、台湾中央銀行が発表した為替レートで米ドル換算して比較した場合、台湾の約17倍となっている。なお、中国の実際の国防支出は公表国防費よりも大きいことが指摘されており、中台国防費の実際の差はさらに大きい可能性がある。
こうしたなか、頼政権は2025年8月、2026年度国防予算について、防衛当局予算、特別予算、基金を含めた総額約9,495億台湾ドル、対GDP比3.32%とする予算案を閣議決定した。この予算案においては、国防関連の多額の特別予算を盛り込むとともに、NATOの基準を参考に、退役軍人への退職給付と海洋委員会海巡署の支出を初めて国防予算として計上している。頼総統は2030年までに国防予算を対GDP比5%にする目標を掲げている。
米戦争省が2025年12月に公表した「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告(2025年)」によれば、中国軍の対台湾侵攻戦力を次のように評価している。
これらに加え、同報告書は、情報支援部隊、サイバー空間部隊、軍事宇宙部隊が情報戦、サイバー・電子・宇宙領域における作戦などを実施するほか、聯勤保障部隊が統合的な後方支援任務を担う旨指摘している。
中台の軍事力の一般的な特徴については次のように考えられる。
軍事能力の比較は、兵力、装備の性能や量だけではなく、想定される軍事作戦の目的や様相、運用態勢、要員の練度、後方支援体制など様々な要素から判断されるべきものであるが、中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化している。
中国は、台湾周辺における威圧的な軍事活動を活発化させており、国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定については、インド太平洋地域のみならず、国際社会全体において急速に懸念が高まっている。
力または威圧による一方的な現状変更の試みはインド太平洋のみならず、世界共通の課題との認識のもと、わが国としては、同盟国たる米国や同志国、国際社会と連携しつつ、関連動向を一層の緊張感を持って注視していく。
参照図表I-3-3-1(台湾軍の配置)、図表I-3-3-2(台湾の防衛当局予算の推移)、図表I-3-3-3(中台軍事力の比較)、図表I-3-3-4(中台の近代的戦闘機の推移)



