世界第1位の経済大国である米国と、第2位の中国との関係については、中国の国力の伸長によるパワーバランスの変化、貿易問題、南シナ海をめぐる問題、台湾問題、香港問題、ウイグル・チベットをめぐる中国の人権問題といった種々の懸案などにより、近年、両国の政治・経済・軍事にわたる競争が一層顕在化してきている。特に、第1期トランプ政権以降、米中両国において相互に牽制する動きがより表面化していたが、その後も両国の戦略的競争が不可逆的な動きとなっていることに強い関心が集まっている。
2025年12月、第2期トランプ政権は国家安全保障戦略(NSS:National Security Strategy)を公表した。中国に関しては、これまでの中国を「ルールに基づく国際秩序」に参入させていく試みなどは誤りであったと位置づけるとともに、米国の経済的自立を取り戻すため、相互性と公平性を優先し米中経済関係を再調整すべきとの言及がなされている。
2026年1月に公表された国家防衛戦略(NDS:National Defense Strategy)では、中国は世界第2位の国力を有する国家であり、軍備拡張は速度・規模・質のいずれも歴史的であるとの認識を示したうえで、中国も他のいかなる勢力も米国や同盟国に対して優位な立場とならないようにするため、「第一列島線」に沿った強固な拒否的防衛を構築・維持しつつ、同盟国・パートナーと連携して集団防衛の実効性を高め、抑止を成立させ、米国がインド太平洋における軍事力の優位な均衡を維持するとの考えを示した。
また、2023年1月には、米連邦議会下院において超党派による「米国と中国共産党間の戦略的競争に関する特別委員会」を設立し、2025年1月には、当初2024年末までとした同委員会の設置期間を2026年末まで延長する決議案が可決されるなど、中国への厳しい姿勢は超党派での共通の方針となってきている。
一方、中国は、こうした米国の姿勢について、米中関係の安定的発展を望むとする一方、自らの主権、安全、発展の利益は断固として守ると強調し、米国は中国の軍事的脅威や陣営間の対抗を煽っているとして反発している。また、中国は、自国の「核心的利益と重大な関心事項」について妥協しない姿勢を示しており、特に、「核心的利益の中の核心」と位置づける台湾問題に関しては、米国の関与を強く警戒している。2022年8月にペロシ米下院議長(当時)が訪台した際には、台湾周辺で大規模な軍事演習を実施するとともに、米中間の各種協議を見合わせる対抗措置を発表するなど、米国に対し強硬な姿勢を示した。また、2025年12月に米国が過去最大規模とされる台湾への武器売却を決定したところ、その後同月に中国は台湾周辺で大規模な軍事演習を実施するなどの反発を示した。
2022年8月のペロシ下院議長が訪台したことや2023年2月に米国本土上空で中国の偵察気球が探知され、米軍がこれを撃墜したことも背景に、軍当局間を含む米中間の交流は低調化したが、その後交流再開に向けた取組がみられる。2023年11月に、バイデン大統領(当時)は習近平(しゅうきんぺい)国家主席と約1年ぶりの首脳会談を実施し、偵察気球撃墜を受けて中国側が見合わせていたとみられる軍当局間のハイレベル対話や、ペロシ下院議長訪台に際し中国が対抗措置として見合わせた軍当局間協議の再開などに合意した。
第2期トランプ政権下においては、同政権発足直後から、フェンタニルなどの流入を理由とした対中追加関税や貿易不均衡の是正のための相互関税を中国などに課し、中国も対米追加関税やレアアース関連品目の輸出管理強化などの対抗措置を行うなどの応酬がみられた。こうしたなか、2025年6月に同政権発足後初となる米中首脳会談を電話会談形式で実施し、主に貿易問題について協議したほか、習主席は台湾問題についての従来の立場などを伝達した。その後も、中国による新たなレアアース関連品目の輸出管理強化の発表など米中双方の応酬が続いたところ、同年10月には韓国での首脳会談やマレーシアでの経済協議を受け、米国の追加関税の引き下げや、中国の一部のレアアース輸出管理強化措置の1年間停止などに合意した。また、本年5月にはトランプ大統領が米大統領として約8年半ぶりに訪中し、習近平国家主席と米中首脳会談を実施した。米中両首脳は、米中関係、経済・貿易問題、中東情勢などについて意見交換を実施するとともに、米側からは本年9月に習主席夫妻をホワイトハウスに招待する旨の発言があり、中国側も招待に応じて習主席が今秋訪米する旨発表するなど、一定の緊張緩和が図られており、今後の動向が注目される。
また、米中軍当局間の交流については、2025年9月に第2期トランプ政権発足後初となる米中国防相会談をテレビ会談形式で実施した。その後、同年10月にはマレーシアでの米中国防相会談において、ヘグセス戦争長官は南シナ海、台湾周辺を含むインド太平洋地域での中国の活動に懸念を示すとともに、今後も米国の利益を守っていく旨伝達したほか、双方は、衝突回避などのため軍同士のチャネル確立の必要性について一致した。このほか、防衛政策調整対話(DPCT:Defense Policy Coordination Talks)、軍事海洋協議協定(MMCA:Military Maritime Consultative Agreement)会議などが実施されている。米中軍当局間の交流について、米戦争省は、リスク軽減と危機管理のため、中国との間で開かれた意思疎通を維持することに引き続きコミットするとしている1。
一方で、米中の競争が顕著に表れている分野の一つである機微技術や重要技術をめぐって、米国は、中国に対する警戒感を一層強めている。中国は、2022年10月の第20回党大会における習近平総書記の報告において、「機械化・情報化・智能化(インテリジェント化)の融合発展を堅持」する旨を表明するなど、先端技術を用いた軍の「智能化」を推進している。こうしたことを踏まえ、米国やその同盟国などから機微技術や重要技術が流出することにより、中国の軍事力が高まり、その結果、米国の安全保障が脅かされるとの認識のもと、バイデン政権(当時)は、機微技術や重要技術の保護・育成に力を入れた。第2期トランプ政権においても、2025年3月、中国共産党による軍事転用可能な高性能コンピューティング能力や量子技術の取得を制限し、極超音速兵器の開発を阻止するなどのために、中国などにおける事業体を米国からの輸出規制の対象とするエンティティ・リスト2へ追加した。一方、米国のイノベーションを阻害しているなどとして、同年5月にはバイデン前政権が策定したAI向け半導体の輸出管理を強化する規則を撤廃した。同年9月にはエンティティ・リストなどに記載された事業体の子会社などにも輸出規制の適用を拡大する措置も打ち出したが、同年10月末に実施された米中首脳会談を踏まえ、11月10日から1年間、措置の停止を決定している。中国は、こうした米国の取組について、中国企業に悪意ある封鎖を行っているなどとして批判し、米国をはじめとする諸外国の規制強化に対しては、2020年以降、対抗措置となる法令などを相次いで施行している。
また、装備品や先端技術製品に不可欠なレアアースを含む重要鉱物をめぐっても米国は中国に対する警戒感を示している。中国は、第2期トランプ政権の対中関税措置などに対し、レアアース関連品目の輸出管理強化を対抗措置として打ち出しており、レアアースなど重要鉱物の安定的確保が課題となっている。こうしたなか、米国は、わが国や豪州、タイ、マレーシアなどとの間で重要鉱物に関する協力文書に署名しているほか、G7で「重要鉱物行動計画」の採択に参加するなど、重要鉱物サプライチェーンの再構築に向けた対外協力を積極的に展開し、また、同年12月に発表したNSSにおいて、経済安全保障の具体策として重要鉱物へのアクセス拡大が不可欠と位置づけた。
米中の技術や重要鉱物分野における競争は、米中双方が新たな規制を打ち出す相互の応酬が続き、また、米国は二国間および多国間での協力強化に動くなど、その影響が国際的な広がりを見せており、今後一層激しさを増す可能性がある。