第2期トランプ政権は、自由で開かれたインド太平洋へのコミットメントを示したNSSにおいて、「第一列島線」における侵略を阻止できる軍隊を構築するとしたほか、同盟・パートナー諸国に対し、米軍が港湾およびその他の施設により自由にアクセスできるようにすること、自国の国防費を増やすこと、侵略を抑止する能力への投資をすることなどを促すべく取り組むとしている。
また、NDSでは、インド太平洋において対立ではなく力を通じて中国を抑止することを掲げている。戦争省は、戦略的安定の確保、衝突回避および緊張緩和に重点を置き、より幅広い形式で中国軍のカウンターパートとの対話を行うとする一方、「第一列島線」に沿って強固な拒否的防衛を構築・維持し、地域の同盟国・パートナーに対して集団防衛への貢献拡大を促し支援するとともに、米国本土からの直接攻撃を含む、壊滅的な打撃と作戦を実施する能力を保持するとした。
また、2026会計年度国防授権法は、前年度に引き続き対中抑止などを重視した内容となっており、インド太平洋地域における米軍の抑止・防衛態勢強化を目的とする太平洋抑止イニシアチブの延長や、極超音速・AI・自律型システム・サイバーなどの中国抑止に必要な革新技術への投資の増加など、インド太平洋における米軍の態勢や能力強化に関する取組が含まれている。
わが国との関係においては、2025年10月のトランプ米大統領訪日の際の日米首脳会談において、両首脳は、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくべく、幅広い安全保障協力を進めていくことで一致したうえで、日本が防衛力を大幅に強化していることを承知しており、日米は「最も強固な同盟国」であると言及があった。加えて、2026年1月の日米防衛相会談においても、南西地域における日米の共同プレゼンス拡大への一層の取組、防衛装備・技術協力における一層の連携について、確認・一致した。
一方、中国は、これらの米国の姿勢に対し、「中国の軍事的脅威や、陣営間の対抗を煽ることをやめるべき」などと反発しており、米国がインド太平洋地域での関与を強化するとともに、日米豪印などの取組が強固な同盟関係に成長することを警戒しているとみられる。また、中国は経済成長などを背景に急速に軍事力を強化させており、インド太平洋地域における米中の軍事的なパワーバランスは変化している。米国は、中距離核戦力全廃条約(INF(Intermediate-Range Nuclear Forces)条約)や新戦略兵器削減条約(新START(Strategic Arms Reduction Treaty))の枠組みの外にあった中国が、地上発射型のミサイルの戦力を一方的に強化してきていることに関し、軍備管理交渉に中国を含めるべきであると主張し、中国のミサイル戦力強化に一定の歯止めをかけたい意向を示してきたが、中国は、自身の核戦力を国家安全保障上必要な最低水準で維持しており、中国の核戦力は全く米露と同じ規模にないなどとして、交渉参加を一貫して拒否3している。
米中の軍事的なパワーバランスの変化は、インド太平洋地域の平和と安定に影響を与えうることから、南シナ海や台湾をはじめとする同地域の米中の軍事的な動向について一層注視していく必要がある。
南シナ海をめぐる問題について、米国は、海上交通路の航行の自由の阻害、米軍の活動に対する制約、地域全体の安全保障環境の悪化などの観点から懸念を有しており、中国に対し国際的な規範の遵守を求めるとともに、中国の一方的かつ高圧的な行動を累次にわたり批判している。一方、中国は、米国が南シナ海の平和と安定に対する最大の脅威であると反発を示し、対立を深めている。
中国は1950年代以降、南シナ海における力の空白を突いて進出を進め、西沙諸島の軍事化などを推し進めるとともに、2014年以降、南沙諸島において大規模かつ急速な埋立てを実施してきた。2016年の比中仲裁判断において、中国の埋立てなどの活動の違法性が認定された後も、この判断に従う意思のないことを明確にして、同地域の軍事拠点化を進めている。
参照2節2項6(5)(南シナ海における動向)、7節(東南アジア)
米国は、従来、南シナ海をめぐる問題について中国の行動を批判し、また、「航行の自由作戦」などを実施してきた。第2期トランプ政権においても、NSSで経済や安全保障の側面における南シナ海の重要性を提示し、この海域がいかなる国による恣意的な閉鎖の影響も受けないよう、必要な抑止力を強化するとともに、強力な措置を講じなければならないとしている。
米国は、比中仲裁判断後もなお発生している比中間の衝突を受け、中国に対して国際法の義務を遵守することを改めて求める声明を発表している。2022年1月には、米国務省が、南シナ海における中国の海洋権益主張を国際法に照らして検討した報告書を公表し、南シナ海の大部分に及ぶ中国の主張は不法であり、海洋における法の支配を深刻に損なうと指摘している。また、2023年2月には米国とフィリピンの国防相会談において、米軍のローテーション展開を可能とする「防衛協力強化に関する協定(EDCA:Enhanced Defense Cooperation Agreement)」に基づくフィリピン国内の協力拠点を、従来の5か所から、新たに4か所を追加することに合意したほか、2024年4月以降、米国はフィリピンに地上発射型中距離ミサイルシステム「タイフォン」の展開を継続するなど、南シナ海沿岸国との連携をさらに強化する姿勢をみせている。
加えて、米国は、南シナ海における軍事的な取組を強化してきている。中国などによる行き過ぎた海洋権益の主張に対抗するため、「航行の自由作戦」を継続的に実施するとともに、2020年7月、2014年以降初めて2個空母打撃群による合同演習を実施し、その後も、同様の演習を複数回にわたり実施している。さらに、わが国や英国、オーストラリア、オランダ、カナダ、シンガポール、インドネシア、フィリピンといったパートナー国との共同訓練も実施している。これに対し、中国は、地域の平和や安定につながらないなどと米国を批判している。
今後、南シナ海において、法の支配に基づく自由で開かれた秩序の形成が重要である中、軍事的な緊張が高まる可能性があり、FOIPを米国とともに推進するわが国としても、高い関心を持って注視していく必要がある。
中国は、台湾は中国の一部であり、台湾問題は内政問題であるとの原則を堅持しており、「一つの中国」の原則が、中台間の議論の前提であり、基礎であるとしている。また、中国は、外国勢力による中国統一への干渉や台湾独立を狙う動きに強く反対する立場から、両岸問題において武力行使を放棄していないことをたびたび表明している。2005年3月に制定された反国家分裂法では、「平和的統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式やそのほか必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる」とし、武力行使の不放棄が明文化されている。また、2022年10月、習総書記は、第20回党大会における報告の中で、両岸関係について、「最大の誠意をもって、最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現」するとしつつも、「台湾問題を解決して祖国の完全統一を実現することは、中華民族の偉大な復興を実現する上での必然的要請」であり、「決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとるという選択肢を残す」との立場を改めて表明した。
一方、米国は、NSSにおいて、台湾が「第二列島線」への直接的なアクセスを提供し、北東アジアと東南アジアを二つの明確な戦域に分断する位置にある旨などを指摘しつつ、台湾をめぐる紛争を抑止すること、理想的には軍事的優位性の維持により抑止することが優先事項であり、米国は台湾海峡における一方的な現状変更を支持しないとしている。また、日米首脳会談などで「台湾海峡の平和と安定」の重要性が言及されているほか、台湾の国際機関への意味ある参加を支持する姿勢を示している。
加えて、米国は、台湾関係法に基づき台湾への武器売却を決定してきており、2025年12月には、155mm自走りゅう弾砲「M109A7」、高機動ロケット砲システム「M142(HIMARS:High Mobility Artillery Rocket System)」、地対地弾道ミサイル「ATACMS(Army Tactical Missile System)」、無人機など総額約111億ドル規模の武器売却を決定した。これは第2期トランプ政権での2度目となる売却であり、1度の台湾向け武器売却としては金額で過去最大規模とされている。また、こうした武器売却に加え、米台では軍事訓練協力が行われているとされるほか4、米国は艦艇や航空機による台湾海峡通過を定期的に実施している。
さらに、米国は、政府のみならず、議会も台湾に対する支援を一層強化する方針を示してきている。2022年には、ペロシ米下院議長をはじめ、米国の議員らがたびたび台湾を訪れ、蔡英文(さいえいぶん)総統(当時)などと会見し、米台関係の強化などについて意見交換を行ったとされる。2025年においても、米連邦議員が訪台し頼清徳(らいせいとく)総統などと面会している。国防授権法でも台湾支援を強化する姿勢が示されており、2026会計年度国防授権法では、台湾の自衛力維持を目的として前会計年度に新設された、台湾への防衛物品や役務の提供を可能にする台湾安全保障協力イニシアチブに対し最大10億ドル拠出(前会計年度の3億ドルからの増額)することや、無人システムにかかる協力、米国沿岸警備隊と台湾海巡署との協力促進が盛り込まれた。
こうした米台接近に対し、中国は、米台双方の要人往来などに際し台湾周辺で軍事演習を実施するなど、台湾周辺での軍事活動をさらに活発化させている。
米国が軍事面において引き続き台湾を支援する姿勢を維持するなか、台湾問題を「核心的利益の中の核心」と位置づける中国が、米国の姿勢に妥協する可能性は低いと考えられる。台湾をめぐる情勢の安定は、国際社会の安定にとって重要であり、わが国としても一層緊張感を持って注視していく必要がある。