Contents

第IV部 共通基盤などの強化

2 防衛生産・技術基盤の維持・強化に向けた取組

1 これまでの取組

2014年6月に策定した「防衛生産・技術基盤戦略」を踏まえ、防衛省においては、長期契約法の策定など契約制度の改善、装備品の取得に関する組織を統合した防衛装備庁の新設など、防衛生産・技術基盤の維持・強化に資する各種施策を実施してきた。

また、防衛装備庁においては、①将来にわたって技術的優越を確保し、他国に先駆け先進的な能力の実現のための防衛技術基盤の強化の方向性(2節参照)、②プロジェクト管理を推進するための取得戦略計画の策定や契約制度の改善(4節参照)、③防衛戦略などを踏まえた防衛生産・技術基盤の抜本的強化のための取組(本項2参照)、④国際的なF-35戦闘機プログラムへの国内企業参画や、各国との共同研究・開発といった防衛装備・技術協力(3節参照)にも取り組んでいる。

2 防衛戦略などを踏まえた防衛生産・技術基盤の抜本的強化のための取組

わが国の防衛産業が、高度な装備品を生産し、高い可動率を確保できる能力を維持・強化していくために、防衛戦略などに基づき、次のとおり取り組むこととしている。

(1)「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案」

わが国の防衛産業の現状(本節1項参照)を踏まえ、防衛生産・技術基盤を抜本的に強化するために、第211回国会に「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律案」を提出した。本法案では、①サプライチェーン調査2への回答の努力義務化によるリスクの実効的な把握、②サプライチェーン強靱化、製造工程効率化、サイバーセキュリティ強化、事業承継などといった企業の取組に対する財政上の措置及び金融支援、③装備移転を円滑に実施するための基金造成と助成金の交付、④②、③の措置を講じてもなお他に手段がない場合に国が取得した製造施設等の装備品製造等事業者への管理の委託、⑤装備品等の契約における秘密の保全措置などを規定している。

(2)本法案以外の取組

防衛生産基盤を抜本的に強化するためには、前述の法律案だけではなく、次のとおり幅広い取組を行うこととしている。

ア 力強く持続可能な防衛産業の構築

防衛事業の魅力化を図る観点から、企業の利益を圧迫する要因を排除する措置を実施するための方針を徹底することとし、予算額や事業内容に応じた適切な経費率を適用するための仕組みなどを構築するとともに、防衛産業のコスト管理や品質管理に関する取組を適正に評価する新たな利益率の算定方式を導入した。

また、装備品の取得に際しては、企業の予見可能性にも配慮しつつ、国内基盤を維持・強化する観点を一層重視し、技術的、質的、時間的な向上を図ることが重要であることから、企画競争の積極的な採用や複数年にわたり一者応札の続く一般競争入札の見直し等の契約方式の改善に引き続き取り組んでいくこととしている。

さらに、新規参入促進などによる防衛産業の活性化を図るために、防衛産業向けマッチングイベントの開催の取組を通じて、スタートアップ企業を含む中小企業などの新規参入を促進している。

イ 様々なリスクへの対処

(ア)強靱なサプライチェーンの構築

法案に基づくサプライチェーン調査や把握したリスクを低減するための財政措置及び金融支援に加えて、諸外国との連携を推進し、サプライチェーンを相互補完することを目指している。

2023年1月、日米防衛相会談にて、「防衛装備品等の供給の安定化に係る取決め」の署名がなされた。本取決めは、産業資源(軍事物資や役務など)を締結国間で安定的に相互に供給し合うことを目的とした枠組みであり、防衛装備品の強靱で多様化されたサプライチェーン構築に寄与するものである。

(イ)産業保全の強化

わが国の防衛産業が国際的な取引を行うためには、サイバー攻撃の脅威増大に対応することが必要である。情報セキュリティにかかる措置の強化を目的として、防衛省の「保護すべき情報」3を取り扱う契約企業に対して適用される情報セキュリティ基準について、米国国防省が契約企業に義務付けている基準と同水準の管理策を盛り込んだ、新たな情報セキュリティ基準である「防衛産業サイバーセキュリティ基準」を整備し、2023年4月から適用を開始した。この基準の防衛産業における着実な実施にあたっては、防衛産業が講じるサイバーセキュリティ対策にかかる経費への措置や防衛セキュリティゲートウェイ(クラウド)の整備等の施策に取り組んでいくこととしている。

また、防衛調達への参入検討をさらに促進するとともに、わが国の情報保全にかかる信頼性を高め国際取引を行いやすくすることを目的として、防衛産業保全に関する規則などを一元的にまとめた「防衛産業保全マニュアル」を策定することとしている。

動画アイコンQRコード資料:防衛産業サイバーセキュリティ基準の整備について
URL:https://www.mod.go.jp/atla/cybersecurity.html

(ウ)機微技術・知的財産管理の強化

防衛省が担当している技術の重要度や優位性などを踏まえた技術的機微性評価を適正かつ迅速に実施するなど、技術流出防止に取り組んでいる。機微性が高い技術については、技術の流出を防ぐため、関係省庁とも連携のうえ、技術のブラックボックス化などのリバースエンジニアリング4対策の検討を推進することとしている。

知的財産にかかるより適切な契約条項などを適用することにより、研究開発などで生じた知的財産を適切に把握し、官民間の帰属の明確化や海外への重要技術の流出防止を推進することとしている。また、技術の特性などを踏まえた知的財産のオープン化、クローズ化にかかる選択肢及び判断材料を提示し、それぞれの選択肢に応じた適切な管理を推進することとしている。

このほか、政府一体で取り組んでいる経済安全保障施策の一つである特許出願の非公開制度では、技術流出防止の観点から内閣官房、内閣府その他の関係省庁と連携していくこととしている。

ウ 防衛産業の販路拡大など

(ア)防衛装備移転の推進

防衛装備移転を外交・防衛政策の戦略的な手段として活用することは、防衛産業の強靱化にも資する。

こうした観点から、安全保障上意義が大きい防衛装備移転や国際共同開発を幅広い分野で円滑に行うために防衛装備移転三原則や運用指針などの制度の見直しについて検討する。また、基金を創設し、安全保障上の観点から適切なものとするために、装備移転にかかる仕様及び性能の調整を行うために必要な資金の交付を行うことなどにより、政府が主導し、官民の一層の連携のもとに装備品の適切な海外移転を推進することとしている。

(イ)輸入装備品の維持整備などへのわが国防衛産業のさらなる参画

FMS(Foreign Military Sales)(有償援助)で調達する装備品を含む輸入調達品については、国内企業による維持整備の追求や、能力の高い装備品について、米国などとの国際共同研究・開発をより一層推進していくこととしている。その一環として、2022年10月、国内企業の日米共通装備品のサプライチェーン及びアジア太平洋地域における米軍の維持整備事業への参画を図るため、在日米軍及び米国防衛産業とのマッチングの機会となる展示会(インダストリーデー)を開催した。

インダストリーデーの様子

インダストリーデーの様子

参照4節6項(FMS調達の合理化に向けた取組の推進)

3 産業界との協力・連携

装備品の生産・運用・維持整備に必要不可欠の基盤であるわが国の技術基盤・産業基盤の維持・強化のため、防衛省と産業界の連携は不可欠である。

こうした観点から、2019年10月から、河野防衛大臣(当時)や防衛装備庁長官と日本経済団体連合会(経団連)幹部との間で意見交換を開始し、実務者レベルで防衛産業や防衛装備政策の課題や改善策などについて議論を行っている。また、防衛生産・技術基盤の強化を図るため、2022年2月から防衛産業(主要プライム企業)との意見交換を行い、同年4月以降、計2回、防衛大臣と主要プライム企業の社長などが一堂に会した。加えて、防衛装備庁長官と各企業防衛部門の長との間での意見交換を計4回、官民実務者レベルでの意見交換会を計5回実施し、双方が認識している問題や課題を共有するなど、官民の協力・連携の強化を進めていくこととしている。

2 2022年度末までに主要装備品69品目についてのサプライチェーン調査を実施した。

3 防衛省において「注意」並びに「部内限り」に該当する情報及びこの情報を利用して作成される情報又はそれらを類推させる情報であって企業に保護を求める情報として防衛省が指定したもの。

4 他者の装備品などを分解し構造や技術を分析することで有用な技術情報を取得する手法