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第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ

防衛白書トップ > 第III部 防衛目標を実現するための3つのアプローチ > 第1章 わが国自身の防衛体制 > 第7節 国民の生命・身体・財産の保護に向けた取組 > 1 大規模災害などへの対応(新型コロナウイルス感染症への対応を含む。)

第7節 国民の生命・身体・財産の保護に向けた取組

1 大規模災害などへの対応(新型コロナウイルス感染症への対応を含む。)

1 基本的考え方

地震や台風などの大規模災害、新型コロナウイルス感染症といった感染症危機などは、国民の生命・身体・財産に対する深刻な脅威であり、わが国として、国の総力をあげて全力で対応していく必要がある。

大規模災害などに際しては、警察、消防、海上保安庁、地方公共団体などの関係機関と緊密に連携し、効果的に人命救助、応急復旧、生活支援などを行うこととしている。

大規模な災害が発生した際には、発災当初においては被害状況が不明であることから、防衛省・自衛隊は、いかなる被害や活動にも対応できる態勢で対応する。また、人命救助を最優先で行いつつ、生活支援などについては、地方公共団体、関係省庁などの関係者と役割分担、対応方針、活動期間及び民間企業の活用などの調整を行うこととしている。さらに、特に地方公共団体に対する支援については、被災直後の地方公共団体は混乱していることを前提に、過去の災害派遣における教訓を踏まえ、当初は「提案型」の支援を行い、じ後は地方公共団体のニーズに基づく活動に移行する。その際、自衛隊の支援を真に必要としている方々が、支援に関する情報により簡単にアクセスすることができるよう、情報発信を強化している。

また、自衛隊は、災害派遣を迅速に行うため、全国の駐屯地などに「FAST-FORCE(ファスト・フォース)」と呼ばれる部隊を待機させている。

人命救助にあたる隊員

人命救助にあたる隊員

養鶏場における殺処分などの支援にあたる隊員

養鶏場における殺処分などの支援にあたる隊員

参照II部6章4項(災害派遣など)、図表III-1-7-1(要請から派遣、撤収までの流れ及び政府の対応)

図表III-1-7-1 要請から派遣、撤収までの流れ及び政府の対応

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2 防衛省・自衛隊の対応
(1)自然災害などへの対応

ア 2022年台風第14号及び台風第15号にかかる災害派遣

2022年9月19日、宮崎県知事から陸自に対し、台風第14号の影響による土砂災害により安否不明となった住民の捜索救助にかかる災害派遣要請及び給水支援にかかる災害派遣要請があり、人命救助活動、給水支援活動及び陸空自航空機による情報収集活動を実施した。

同年9月26日、静岡県知事から陸自に対し、台風第15号の影響による土砂災害に伴う災害廃棄物撤去や給水支援などにかかる災害派遣要請があり、災害廃棄物の撤去支援活動、給水支援活動及び孤立集落の住民の避難支援を実施した。

イ 2022年12月大雪にかかる災害派遣

2022年12月20日、新潟県知事から陸自に対し、大雪により多数の車両の滞留が発生した国道8号及び国道17号の一部区間における除雪支援などにかかる災害派遣要請があり、除雪支援、滞留車両の救出、食料・水の配布及び燃料補給を実施した。

ウ 新型コロナウイルス感染者に対する市中感染対策にかかる災害派遣

世界的大流行(パンデミック)となった新型コロナウイルス感染症は、わが国を含む国際社会の安全保障上の重大な脅威であり、その感染拡大防止に向け、防衛省・自衛隊は、2020年以降、総力を挙げて様々な活動を行った。

2022年4月から2023年3月末までの間、各知事からの要請を受け離島で発生した新型コロナウイルス感染症患者の輸送を4都県で約20名実施した。

エ 鳥インフルエンザ発生にかかる災害派遣

2022年4月から2023年3月末までの間に鳥インフルエンザが発生した13道県(北海道、青森県、茨城県、群馬県、千葉県、新潟県、愛知県、鳥取県、岡山県、広島県、福岡県、宮崎県、鹿児島県)において、自衛隊は各知事からの災害派遣要請を受け、鳥インフルエンザの発生鶏舎及び感染の疑いが高い発生鶏舎周辺における殺処分を実施した。これらに対する派遣の規模は、人員延べ約33,000名に上った。

オ 山林火災にかかる災害派遣

2022年4月から2023年3月末までの間に発生した山林火災のうち、自治体により消火活動を実施するも鎮火に至らなかったものについて、自衛隊は4県(青森県、福島県、栃木県、宮崎県)において、各県知事からの災害派遣要請を受け、空中消火活動などを実施した。これらに対する派遣の規模は人員延べ約1,300名、車両延べ約140両、航空機延べ約50機に上った。

参照資料21(災害派遣の実績(過去5年間))

(2)救急患者の輸送

自衛隊は、医療施設が不足している離島などの救急患者を航空機で緊急輸送(急患輸送)している。2022年度の災害派遣総数381件のうち、317件が急患輸送であり、南西諸島(沖縄県及び鹿児島県)や小笠原諸島(東京都)、長崎県の離島などへの派遣が大半を占めている。

(3)海難事故への対応

2022年4月23日、第1管区海上保安本部から空自に対し、北海道知床沖における遊覧船事故による要救助者の捜索について災害派遣要請があり、同日受理した。同月23日から6月1日にかけて、陸海空自の航空機や艦艇による捜索救助活動を実施した。

(4)原子力災害への対応

防衛省・自衛隊では、原子力災害に対処するため、「自衛隊原子力災害対処計画」を策定している。また、国、地方公共団体及び原子力事業者が合同で実施する原子力総合防災訓練に参加し、地方公共団体の避難計画の実効性の確認や原子力災害緊急事態における関係機関との連携強化を図っている。

(5)各種対処計画の策定

防衛省・自衛隊は、各種の災害に際し迅速に部隊を輸送・展開して初動対応に万全を期すとともに、中央防災会議で検討されている大規模地震に対応するため、防衛省防災業務計画に基づき、自衛隊のとるべき行動の基本的事項を定め、もって、迅速かつ組織的に災害派遣を実施することを目的とし、各種の大規模地震対処計画を策定している。

なお、内閣府から発表された日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定及び日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進基本計画を踏まえて、2022年度に「自衛隊日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対処計画」を策定している。

(6)地方公共団体などとの連携

災害派遣活動を円滑に行うためには、平素から地方公共団体などと連携を強化することが重要である。このため、①自衛隊地方協力本部への国民保護・災害対策連絡調整官(事務官)の設置、②自衛官の出向(東京都の防災担当部局)及び事務官による相互交流(陸自中部方面隊と兵庫県の間)、③地方公共団体からの要請に応じ、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦などを行っている。

2023年3月末現在、全国46都道府県・455市区町村に640人の退職自衛官が、地方公共団体の防災担当部門などに在籍している。このような人的協力は、防衛省・自衛隊と地方公共団体との連携を強化するうえで極めて効果的であり、各種災害対応においてその有効性が確認された。特に、陸自各方面総監部は地方公共団体の危機管理監などとの交流の場を設定し、情報共有・意見交換を行い、地方公共団体との連携強化を図っている。

また、災害の発生に際しては、各種調整を円滑にするため、部隊などから地方公共団体に対し、迅速な連絡員の派遣を行っている。

(7)防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策に基づく措置

2020年12月、防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策1が閣議決定された。本対策において、防衛省としては、防災のための重要インフラなどの機能維持・強化の観点から、自衛隊の飛行場施設などの資機材等対策、自衛隊のインフラ基盤強化対策及び自衛隊施設の建物などの強化対策について、重点的かつ集中的に取り組んでいる。

3 災害派遣に伴う各種訓練への影響など

近年、大規模かつ長期間の災害派遣活動が増えており、災害派遣活動中に、当初予定していた訓練を行うことができず、訓練計画に支障を来すこともあった。

今後は、初動における人命救助活動などに全力で対応するとともに、各種の緊急支援などについては、地方公共団体・関係省庁などの関係者と役割分担、対応方針、活動期間、民間企業の活用などの調整を行い、適宜態勢を移行し、適切な態勢・規模で活動することとしている。

1 気候変動の影響による気象災害の激甚化・頻発化、南海トラフ地震等大規模地震の切迫、高度成長期以降に集中的に整備されたインフラの老朽化を踏まえ、防災・減災、国土強靱化の取組の加速化・深化を図る必要があり、また、国土強靱化の施策を効率的に進めるためにはデジタル技術の活用などが不可欠である。このため、「激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」「予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策の加速」「国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進」の各分野について、更なる加速化・深化を図ることとし、令和7(2025)年度までの5か年に追加的に必要となる事業規模等を定め、重点的・集中的に対策を講ずることとしている。