浜田防衛大臣の第20回IISSアジア安全保障会議への出席及び各国国防大臣との会談等について(概要)

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1.防衛大臣スピーチ

2023年6月3日(土)14:45~16:00
第4セッション「アジアの進展する海洋安全保障秩序」

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チップマン所長、ご来賓の皆様、前回日本の防衛大臣を務めて以来、14年ぶりに再びこのシャングリラ会合でスピーチをさせていただく機会を頂戴し、大変有難く存じます。本会合開催のために尽力されたIISSの皆様とシンガポール政府に改めて敬意を表します。また、スウェーデンのヨンソン大臣そしてフィジーのティコドゥアンドゥアン大臣と共に登壇でき、大変光栄です。

今、国際社会は「対立・不和」と「協力・調和」の岐路にあります。前回、2009年に登壇させていただいた際には、非国家主体による脅威が国際社会にとって差し迫った課題でした。しかし今日は、再び国家間の競争と対立が喫緊の課題として顕在化しています。インド太平洋地域においても、力や威圧による一方的な現状変更の試みが、特に海洋において進展しています。

今日においても、私が前回のスピーチの中で申し上げた通り、「かつてこの地域でも経験したような衝突が起こることのないよう努力していく必要」があります。インド太平洋地域において、衝突を未然に防ぎ、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守るためには、力や威圧による一方的な現状変更を思いとどまらせる努力に加え、意思疎通の強化によって誤解や誤算を回避しつつ、対話による信頼醸成の促進を目指す努力も不可欠です。

本日は、日本が今、平和を希求し、実現するために、果たそうとしている責任についてお話ししたいと思います。

人類は多くの犠牲を払い、平和を希求し、長きにわたる懸命な努力の上に、法の支配に基づく国際秩序を築き上げてきました。ロシアによるウクライナ侵略は国際法の違反であり、先人が築き上げた法の支配に基づく国際秩序を根幹から揺るがす暴挙です。

この侵略を容認または黙認すれば、他の地域においても力による一方的な現状変更が認められる、または見逃されるとの誤ったメッセージを与えてしまいます。国際的な原則や共通の価値を守るために、国際社会は今こそ団結することを求められているのです。

ロシアによるウクライナ侵略は様々な教訓を我々に示しています。中でも改めて心に刻むべき教訓は、衝突を未然に防ぐことの重要性です。ロシアによるウクライナ侵略は、既に開始から一年以上が経過しました。それでも日々、我々はウクライナにおける悲惨な状況を目の当たりにしています。この現実を受け止めねばなりません。

力による一方的な現状変更がひとたび引き起こされ、侵略が生じれば、長引く戦闘の中で、享受できたはずの繁栄、地球規模課題への国際的な協力の機会、何より、次世代を担うはずの人命を失うことになります。戦後、復興を成し遂げるためにも、多くの時間と労力が必要とされることは、この地域が乗り越えてきた苦難の歴史からも明らかです。この過ちを繰り返さないために、我々が結束し、インド太平洋地域における衝突を未然に防ぐ努力を重ねることが肝要です。

もう一つ我々が学ぶべき教訓は、海における法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性についてです。ロシアによる黒海封鎖やオデーサ港等への攻撃により、エネルギー・食糧危機が引き起こされ、世界的にも甚大な影響が生じたのは「海の道」が世界を支える動脈であるからです。人々の安全で豊かな暮らしを守るためには、「海の道」が自由で開かれ安定していなければなりません。

インド太平洋地域においても、特に平和と繁栄の動脈である海洋で、法の支配に基づく既存の国際秩序が様々な挑戦に晒されており、力や威圧による一方的な現状変更が起こるのではないかという懸念と不信が蔓延しています。

例えば、弾道ミサイルの発射を含む威圧的な軍事活動の常態化や外国公船による度重なる領海侵入等によって「自由で開かれ安定した海洋」が阻害されています。

特に東シナ海や南シナ海では既存の国際秩序とは相いれない独自の主張に基づく力や威圧による一方的な現状変更やその試みが進展しています。また、経済的な威圧や、透明性・公平性を欠いた開発金融を通じた影響力の行使は、「海の道」に接する沿岸諸国でも広がりを見せています。さらに、海中でも、例えば海底ケーブルに関して、人的ミスや意図的な損壊等のリスクが顕在化しています。

この厳しい安全保障環境に対処すべく、我が国は昨年12月、「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、そして「防衛力整備計画」を新たに策定しました。これらの戦略文書の下、衝突を未然に防ぎ、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持してまいります。シャングリラ会合がIISSによって防衛外交の重要な舞台と位置づけられているように、各国の国防当局による外交的努力は国際社会の平和と安定にとって重要な要素となっています。日本の防衛省としても、日本政府全体の外交努力に貢献するよう、各国の防衛当局との間で、平和に向けて防衛面での外交的な努力を積極的に推進するとともに、自身の防衛力の抜本的強化を図ります。

いかなる状況にあっても、まずは外交努力が追求されるべきです。防衛省としても同盟国・同志国等との連携を強化するとともに、地域の安定に課題を呈している国々も含め意思疎通や信頼醸成を図ります。

まず、有事の可能性も念頭に置きながら、同盟国・同志国等との協力・連携を強化し、地域の結束力の向上を目指します。日米同盟としての抑止力と対処力の更なる強化を図ることは勿論のこと、我が国は今後も地域の特性や各国の事情を考慮しつつ、様々な分野における二国間・多国間の協力と交流を拡充します。

特に、同志国の安全保障上の能力の向上についても積極的に支援します。「自由で開かれたインド太平洋」の柱である海洋安全保障等を推進すべく新設した「政府安全保障能力強化支援」、そして従来の能力構築支援や防衛装備移転等を活用しこれに努めます。

同盟国・同志国等と築き上げる結束力は、力や威圧による一方的な現状変更の試みを抑止し、地域の安定に課題を呈している国々に対して平和的解決の追求を促すことにつながると考えています。

また、地域の安定に課題を呈している国々とも意思疎通を強化することで、誤解や誤算を回避し、対話による信頼醸成を図ります。

懸念と不信に満ちた不安定な安全保障環境において、不測の事態を回避するには、絶えず意思疎通を図ることが不可欠です。こうした考えの下、我が国は中国との間で「建設的かつ安定的な関係」の構築を目指し、「日中防衛当局間の海空連絡メカニズム」を運用してきました。また、本年5月には「日中防衛当局間ホットライン」の運用も開始しました。

加えて、信頼醸成を図り、地域諸国が一丸となって衝突を未然に防ぐ努力も重要です。特に、ASEANが主導する東アジア首脳会議やアジア地域フォーラム、ADMMプラス等に加え、20回目という節目を迎える本会合等、この地域に存在する多層的な協力枠組みがもたらす対話の機会を今後も重視してまいります。

こうした取り組みは、文字通り平和を志向するものであり、全ての国を対象に包摂性を持ってこれを進めてまいります。

言うまでもなく、我が国自身の防衛力の抜本的強化も進めていかねばなりません。この取組は、同盟国そして同志国等と築き上げる地域の抑止力を高め、法の支配に基づく既存の国際秩序に対する挑戦を思いとどまらせることを意図しています。我が国の防衛力の抜本的強化は、国際法の範囲内で、専守防衛の下で行うものであり、他国に脅威を与えるような軍事力を持つことを目指していません。

我が国と同盟国・同志国等による地域の抑止力の向上は、力に屈する必要のない強固な立場を各国にもたらし、対話によって利益や意見の相違を解決する外交的取組の地歩を固めることにも繋がるでしょう。

私のメッセージは簡潔で明白です。我々は対立や紛争を求めておりません。平和を心から希求する国家として、自国と地域の抑止力を向上させ、対話による利益と意見の相違の解決を促すことで、かつてこの地域でも経験したような衝突を未然に防ぎ、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持しようとしています。

この歴史の大きな分かれ道で、立ちすくんでいてはなりません。2023年が、「協力・調和」の世界へと向かうターニング・ポイントであったと言われるような時代を創り、後の世代に手渡していこうではありませんか。

ご静聴いただき、ありがとうございました。

2.各国国防大臣との会談等

6月3日、シンガポールを訪問中の浜田防衛大臣はオースティン米国国防長官及びイ・ジョンソプ韓国国防部長官と日米韓防衛相会談を実施しました。北朝鮮情勢等について意見交換し、日米韓3か国の協力の深化の重要性を確認するとともに、北朝鮮のミサイル警戒情報のリアルタイム共有の初期的な運用を数か月中に開始するための更なる進展を誓約しました。また、3か国による対潜戦訓練やミサイル防衛訓練の定例化を含む防衛協力を促進させるための方策について議論しました。

6月3日、浜田防衛大臣はロイド・オースティン米国防長官およびリチャード・マールズ豪国防大臣と第12回日米豪防衛相会談を行いました。日米豪の3大臣は、3か国の戦略の方向性が軌を一にしていることを強調し、3か国の防衛協力を更に進展させるとともに、インドや欧州諸国、ASEAN諸国、太平洋島嶼国といった地域のパートナーとの協力についても引き続き強化していくことを確認しました。

6月3日、浜田防衛大臣は李尚福中国国防部長と会談を行い、尖閣諸島周辺海域を含む東シナ海情勢等について、改めて強い懸念を伝達し、同時に、懸念があるからこそ率直な意思疎通が必要である旨述べました。両大臣は今後も、対話を継続していくことで一致しました。

6月3日、浜田防衛大臣はロイド・オースティン米国防長官、リチャード・マールズ豪国防大臣およびカリート・ガルベス比国防大臣代行と、初めての日米豪比防衛相会談を行いました。
四大臣は、会談において、地域における共通の課題や四か国の協力の拡大について議論したほか、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、ともに取り組むことを確認しました。防衛省・自衛隊は、今後とも、同盟国・同志国等との連携を強化していく考えです。

6月3日、浜田防衛大臣はウン・シンガポール国防大臣とともに、日シンガポール防衛装備品・技術移転協定の署名式に立ち会いました。防衛省・自衛隊は、これを契機としてシンガポールとの防衛交流を今まで以上に推進するとともに、具体的な移転案件の協議を加速していきます。

6月4日、浜田防衛大臣はリチャード・マールズ豪国防大臣と防衛相会談を行いました。両大臣は防衛科学技術に関する日豪包括取決めへの署名を行い、様々な分野で科学技術協力を推進していくことを確認しました。また、両大臣は、日豪間で戦略的認識を共有し、日豪間の防衛協力関係の強化をより一層加速していくことでも一致しました。

6月4日、浜田防衛大臣は、レズニコフ・ウクライナ国防大臣と防衛相会談を行いました。浜田防衛大臣から、今般、100台規模の自衛隊車両等のほか、ウクライナ兵を自衛隊中央病院に受け入れることを決定した旨伝達し、レズニコフ大臣からは深い謝意が表されました。
防衛省・自衛隊として、引き続き可能な限りウクライナを支援していくとともに、国際社会と結束し、断固たる決意で対応していきます。

6月4日、浜田防衛大臣は、シャングリラ会合(SLD23)において、イ・ジョンソプ韓国国防部長官と会談を行い、日韓・日韓米防衛協力推進の重要性で一致するとともに、日韓防衛当局間でも一層緊密に意思疎通していくことを確認しました。

6月4日、浜田防衛大臣は、シャングリラ会合(SLD23)において、リトル・ニュージーランド国防大臣と太平洋島嶼国地域における海洋安全保障、人道支援・災害救援および気候変動における防衛協力に関する意図表明文書に署名しました。
両大臣は、意図表明文書が署名に至ったことを歓迎しました。その上で、意図表明文書の下、太平洋島嶼国地域における防衛協力を一層推進していくことで一致しました。

3.各国国防次官等との会談等

6月2日、岡防衛審議官は、シャングリラ会合においてアンドリュー・ブリッジマン・ニュージーランド国防次官と会談を行いました。
両者は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現のため、太平洋島嶼国地域における両国の連携を強化していくことで一致しました。また、日ニュージーランド防衛協力を更に発展させるため、防衛当局間で一層緊密に意志疎通を行っていくことで一致しました。

6月2日、岡防衛審議官は、第20回シャングリラ会合において、グレッグ・モリアティ豪国防次官と会談を行いました。両者は、日豪が戦略的認識を共有していることを確認し、日豪間の防衛協力関係をより一層加速していくことで一致しました。

6月2日、岡防衛審議官は、第20回シャングリラ会合において、トムクス・リトアニア国防副大臣と会談を行いました。両国は情勢認識や戦略的利益の点で多くの共通点があることを両者で確認し、二国間の防衛協力・交流を強化することで一致しました。

4.記者会見