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第IV部 共通基盤などの強化

3 新たな防衛装備・技術協力の構築

1 諸外国との防衛装備・技術協力など

装備品に関する協力は、構想から退役まで半世紀以上に及ぶ取組であることを踏まえ、防衛装備の海外移転や国際共同開発を含む、装備・技術協力の取組の強化を通じ、相手国軍隊の能力向上や相手国との中長期にわたる関係の維持・強化を図る7。特に、防衛協力・交流・訓練・演習、能力構築支援などの他の取組とも組み合わせることで、これを効果的に進める。その際、就役から相当年数が経過し、拡張性などに限界がある装備品の早期用途廃止、早期除籍などの活用による同志国への移転を検討することとしている。

参照図表IV-1-3-1(諸外国との主な防衛装備・技術協力(イメージ))、資料40(各種協定締結状況)

図表IV-1-3-1 諸外国との主な防衛装備・技術協力(イメージ)

(1)オーストラリア

オーストラリアとの間では、2014年12月、日豪防衛装備品・技術移転協定8が発効した。

また、同年11月には、科学技術者交流計画に係る取決めに署名し、技術者の相互派遣の枠組みを整理した。この枠組みに基づき、2021年よりオーストラリア国防科学技術グループへの日本側からの技術者派遣を開始した。

なお、2021年5月には「船舶の流体性能及び流体音響性能に係る日豪共同研究」及び「複数無人車両の自律化技術に係る日豪共同研究」も開始しており現在も継続中である。

2023年2月には、オーストラリアで開催されたアバロン国際航空ショーに空自C-2輸送機が参加し、わが国の技術力を発信した。

2017年10月、2019年6月に続き、2022年5月には、第3回目となる日豪防衛装備・技術協力共同運営委員会を開催し、日豪間で防衛装備・技術協力をさらに推進していくための方策などについて、さらなる検討を行うなど、日豪両国の防衛装備・技術協力の進展を図っている。

さらに、2021年11月には、日豪宇宙・サイバーシンポジウムが初めて開催され、宇宙・サイバー分野を中心とした日豪両国の産業や防衛装備技術について相互に理解を深めた。

参照III部3章1節2項1(オーストラリア)

(2)インド

インドとの防衛装備・技術協力は、日印の特別な戦略的グローバル・パートナーシップに基づく重要な協力分野と位置づけられており、2015年12月の日印首脳会談において日印防衛装備品・技術移転協定9の署名が行われ、2016年3月に発効した。

また、これまでに計6回の防衛装備・技術協力に関する事務レベル協議を開催するなど、デュアル・ユースを含む防衛装備・技術協力案件の形成に向け協議を実施している。2018年7月には「UGV10/ロボティクスのための画像による位置推定技術に係る共同研究」を開始した。

さらに、2019年2月には同国とは2回目となる「日印・官民防衛産業フォーラム」をベンガルールにおいて開催するなど、日印両国の防衛装備・技術協力に関する議論が進展している。

参照III部3章1節2項2(インド)

(3)英国

英国との間では、2013年7月、日英防衛装備品・技術移転協定11の署名・発効に至り、2014年7月に日英防衛装備・技術協力運営委員会を初開催し、定期的に協議を行っている。

2013年7月、米国以外の国とは初めてとなる化学・生物防護技術にかかる共同研究を開始し2017年7月に成功裏に完了したほか、3件の研究12を開始し、それぞれ成功裏に完了した。なお、2018年12月には「共同による新たな空対空ミサイルの実証に係る日英共同研究」、2021年7月には、新たな「化学・生物防護技術に係る日英共同研究」をそれぞれ開始した。また、2018年3月に開始した「次世代RFセンサシステムの実現可能性に係る共同研究」は、2022年2月に「次世代RFセンサシステムの技術実証に係る共同研究」に移行しており、次期戦闘機への適用も視野に現在も継続中である。

次期戦闘機の開発については、日英伊3か国は共通の機体を開発することに合意し、3か国首脳は「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP:Global Combat Air Programme)」を発表し、2023年3月には、日英伊防衛相会談を実施した。

参照III部3章1節2項3(1)(英国)

(4)フランス

フランスとの間では、2014年1月、防衛装備品協力及び輸出管理措置に関する委員会をそれぞれ設置し、2016年12月には、日仏防衛装備品・技術移転協定13が発効した。また、2018年1月の第4回日仏「2+2」においては、次世代機雷探知技術に関する協力の早期開始を確認し、同年6月、次世代機雷探知技術にかかる共同研究を開始した。

また、2022年6月、「ユーロサトリ2022」に防衛装備庁のブースを出展した。

ユーロサトリ2022におけるブースの様子

ユーロサトリ2022におけるブースの様子

参照III部3章1節2項3(2)(フランス)

(5)ドイツ

ドイツとの間では、2017年7月、日独防衛装備品・技術移転協定14に署名し、発効した。

参照III部3章1節2項3(3)(ドイツ)

(6)イタリア

イタリアとの間では、2019年4月、日伊防衛装備品・技術移転協定15が発効した。また、同年1月には、欧州で初となる「日伊・官民防衛産業フォーラム」を開催し、さらに日伊防衛装備・技術協力に関する課長級協議の枠組みを設置した。

次期戦闘機の開発については、日英伊3か国は共通の機体を開発することに合意し、3か国首脳は「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」を発表し、2023年3月には、日英伊防衛相会談を実施した。

参照III部3章1節2項3(4)(イタリア)

(7)スウェーデン

スウェーデンとの間では、2022年12月、日スウェーデン防衛装備品・技術移転協定16に署名し、発効した。

参照III部3章1節2項6(2)(スウェーデン)

(8)ウクライナ

2022年2月のロシアによるウクライナ侵略を受けて、ウクライナ政府からの装備品等の提供要請を踏まえ、自衛隊法に基づき非殺傷の物資を防衛装備移転三原則の範囲内で提供するべく、同年3月8日に国家安全保障会議において、防衛装備移転三原則の運用指針を一部改正し、同年3月から、防弾チョッキ、鉄帽(ヘルメット)、防寒服、天幕、カメラ、衛生資材・医療用資器材、非常用糧食、双眼鏡、照明器具、個人装具、防護マスク、防護衣、小型のドローンを自衛隊機などにより輸送し、ウクライナ政府への提供を実施した。また、ウクライナ政府からの要請を踏まえ、民生車両(バン)などを追加提供した。さらに、2023年5月の日・ウクライナ首脳会談において、岸田内閣総理大臣からゼレンスキー大統領に対し、ウクライナ側の要請を踏まえ、新たに100台規模のトラックなどの自衛隊車両及び約3万食の非常用糧食を提供することを伝達した。

ウクライナへの自衛隊車両の引き渡し式

ウクライナへの自衛隊車両の引き渡し式

参照III部3章1節2項7(1)(ウクライナ)資料64(防衛装備移転三原則の運用指針)

(9)ASEAN諸国

ASEAN諸国との間では、日ASEAN防衛当局次官級会合などを通じて、人道支援・災害救援や海洋安全保障など、非伝統的安全保障分野における防衛装備・技術協力について意見交換がなされており、参加国からは、これらの課題に効果的に対処するため、わが国からの協力に期待が示されている。2016年11月の日ASEAN防衛担当大臣会合の際にわが国が表明した「ビエンチャン・ビジョン」において、ASEAN諸国との防衛装備・技術協力に関しては、①装備品・技術移転、②人材育成、③防衛産業に関するセミナーなどの開催を3つの柱として進めることとした。

具体的な取組として、インドネシアとの間では、2021年3月に東京で開催された第2回日インドネシア「2+2」において、日インドネシア防衛装備品・技術移転協定17に署名し、即日発効した。

ベトナムとの間では、2016年11月の日越防衛次官級協議において、「防衛装備・技術協力に関する定期協議の実施要領(TOR:Terms of Reference)」に署名した。また、2019年5月の日越防衛相会談の際に、具体的な分野などを示した「防衛産業間協力の促進の方向性にかかる日ベトナム防衛当局間の覚書」が署名された。その後、2021年9月の岸防衛大臣(当時)のベトナム訪問に際し、両国間で防衛装備品・技術移転協定18に署名し、発効した。

また、2022年12月に「ベトナムディフェンスエキスポ2022」に防衛装備庁のブースを出展するとともに、日越官民防衛産業フォーラムを実施した。

シンガポールとの間では、2022年6月、日星首脳会談において、防衛装備品及び技術移転に関する協定の締結に向けた交渉の開始について合意した。

フィリピンとの間では、2016年4月に日フィリピン防衛装備品・技術移転協定が発効した後、2018年3月までに、計5機の海自練習機(TC-90)をフィリピン海軍へ引き渡したほか、海自によるパイロットの操縦訓練支援やわが国企業による維持整備の支援を実施した。また、2019年9月までに陸自で不用となった多用途ヘリコプター(UH-1H)の部品などをフィリピン空軍に引き渡した。これら2件の移転は、2017年6月に施行された、不用装備品等の無償譲渡などを可能とする自衛隊法の規定を適用した事例である。(本項2参照)

加えて、2019年1月には、防衛装備・技術協力に関する事務レベルの定期協議の枠組みを設置した。

2020年8月には、フィリピン国防省と三菱電機株式会社との間で、同社製警戒管制レーダー(4基)を約1億ドルで納入する契約が成立し、2014年の防衛装備移転三原則策定以来、わが国から海外への完成装備品の移転としては初の案件となった。1基目の固定式レーダーについては、わが国国内での製造が完了し、2022年11月にフィリピンへ輸出された。今後、納入に向けて必要な作業が行われる予定である。また、空自においてフィリピン空軍の要員に対する教育支援を実施している。

フィリピン空軍の要員に対する教育の様子

フィリピン空軍の要員に対する教育の様子

タイとの間では、2017年11月、防衛装備品・技術移転協定の早期締結を含め今後の二国間の防衛装備・技術協力を促進していくことで一致していたところ、2022年5月、岸田内閣総理大臣のタイ訪問の際に署名し、発効した。19

マレーシアとの間では、2018年4月、日マレーシア防衛装備品・技術移転協定20に署名し、発効した。

参照III部3章1節2項8(東南アジア(ASEAN)諸国)

動画アイコンQRコード資料:警戒管制レーダーの移転に伴う教育支援
URL:https://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/area/2023/20230428_phl-j.html

(10)中東諸国

アラブ首長国連邦(UAE)との間では、2023年5月、中東の国との間では初めてとなる、防衛装備品・技術移転協定21に署名した。

イスラエルとの間では、2019年9月、わが国とイスラエル防衛当局間で提供される、防衛装備・技術に関する秘密情報を適切に保護するため、「防衛装備・技術に関する秘密情報保護の覚書」22に署名した。

ヨルダンとの間では、2019年に陸自の退役済み61式戦車1両を無償で貸し付けるとともに、ヨルダン側からヨルダンで開発された装甲車が陸自へ贈呈された。こうしたやり取りを受け、防衛省において、式典を開催し、覚書の署名・交換が行われたほか、ヨルダン王立戦車博物館において、貸し付けた陸自61式戦車の除幕及び説明パネルの設置が実施された。

参照III部3章1節2項12(中東諸国)

2 開発途上国装備協力規定の新設

わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、わが国と安全保障・防衛上の協力・友好関係にある国が適切な能力を備え、安全保障環境の改善に向けて国際社会全体として協力して取り組む基盤を整えることが重要である。

この点、経済規模や財政事情により独力では十分な装備品を調達できない友好国の中には、以前から、不用となった自衛隊の装備品を活用したいとのニーズがあった。

こうした中、友好国のニーズに応えていくため、自衛隊で不用となった装備品を、開発途上地域の政府に対し無償又は時価よりも低い対価で譲渡できるよう、財政法第9条第1項23の特例規定を自衛隊法に新設し、2017年6月から施行されている。

なお、この規定により無償又は時価よりも低い対価で譲渡できるようになった場合においても、いかなる場合にいかなる政府に対して装備品の譲渡などを行うかについては、防衛装備移転三原則などを踏まえ、個別具体的に判断されることとなる。また、譲渡した装備品のわが国の事前の同意を得ない目的外使用や第三者移転を防ぐため、相手国政府との間では国際約束を締結する必要がある。

7 2023年5月現在、わが国は、防衛装備品・技術移転協定を、米国、英国、オーストラリア、インド、フィリピン、フランス、ドイツ、マレーシア、イタリア、インドネシア、ベトナム、タイ、スウェーデン及びアラブ首長国連邦(UAE)と締結している。(参照 資料40各種協定締結状況

8 正式名称:防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定

9 正式名称:防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とインド共和国政府との間の協定

10 UGV(Unmanned Ground Vehicle)とは、陸上無人車両のことを指す。

11 正式名称:防衛装備品及び他の関連物品の共同研究、共同開発及び共同生産を実施するために必要な武器及び武器技術の移転に関する日本国政府とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国政府との間の協定

12 「共同による新たな空対空ミサイルの実現可能性に係る日英共同研究」(2014年11月開始、2018年3月完了)、「人員脆弱性評価に係る共同研究」(2016年7月開始、2020年7月完了)、「ジェットエンジンの認証プロセスに係る共同研究」(2018年2月開始、2020年2月完了)

13 正式名称:防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とフランス共和国政府との間の協定

14 正式名称:防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とドイツ連邦共和国政府との間の協定

15 正式名称:防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とイタリア共和国政府との間の協定

16 正式名称:防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とスウェーデン王国政府との間の協定

17 正式名称:防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とインドネシア共和国政府との間の協定

18 正式名称:防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とベトナム社会主義共和国政府との間の協定

19 正式名称:防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とタイ王国政府との間の協定

20 正式名称:防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とマレーシア政府との間の協定

21 正式名称:防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とアラブ首長国連邦政府との間の協定

22 正式名称:防衛省とイスラエル国防省との間の防衛装備・技術に関する秘密情報保護の覚書

23 財政法(昭和22年法律第34号)第9条第1項:国の財産は、法律に基づく場合を除くほか、これを交換しその他支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。