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第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

防衛白書トップ > 第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段) > 第1章 わが国自身の防衛体制 > 第4節 大規模災害などへの対応(新型コロナウイルス感染症への対応を含む。) > 1 大規模災害などへの対応(新型コロナウイルス感染症への対応を含む。)

第4節 大規模災害などへの対応(新型コロナウイルス感染症への対応を含む。)

1 大規模災害などへの対応(新型コロナウイルス感染症への対応を含む。)

自衛隊は、自然災害をはじめとする災害の発生時には、地方公共団体などと連携・協力し、被災者や遭難した船舶・航空機の捜索・救助、水防、医療、防疫、給水、人員や物資の輸送などの様々な活動を行っている。

1 基本的な考え方

防衛大綱における、防衛力の果たすべき役割のうち、「④大規模災害等への対応」の考え方は、次のとおりである。

大規模災害などの発生に際しては、所要の部隊を迅速に輸送・展開し、初動対応に万全を期すとともに、必要に応じ、対処態勢を長期間にわたり持続することとしている。また、被災住民や被災した地方公共団体のニーズに丁寧に対応するとともに、関係機関、地方公共団体、民間部門と適切に連携・協力し、人命救助、応急復旧、給水・入浴支援などを行うこととしている。

人命救助にあたる隊員

人命救助にあたる隊員

行方不明者の捜索にあたる隊員

行方不明者の捜索にあたる隊員

この際、発災当初においては被害状況が不明であることから、自衛隊はいかなる被害や活動にも対応できる態勢で対応し、人命救助活動を最優先で行いつつ、生活支援などについては、現地対策本部などの場において、自治体・関係省庁などの関係者と役割分担、対応方針、活動期間、民間企業の活用などの調整を行うこととしており、2020年8月には環境省と共同で災害廃棄物の撤去などにかかる連携対応マニュアルを策定している。

さらに、「平成30年7月豪雨に係る初動対応検証レポート」(2018年11月)を踏まえ、防衛省・自衛隊としては、大規模な災害が発生した際には、地方公共団体が混乱している場合もあることを前提に、より多くの被災者を救助・支援するため、自治体からの要請を待つのみではなく、積極的に支援ニーズを把握しつつ、活動内容について「提案型」の支援を自発的に行うこととしている。実際の活動においては、状況の推移に応じて変化するニーズを的確に捉えつつ柔軟な支援を行うこととしている。その際、自衛隊の支援を真に必要としている方々が、支援に関する情報により簡単にアクセスすることができるよう、情報発信を強化している。

また、自衛隊は、災害派遣を迅速に行うための初動対処態勢を整えている。

なお、一例として、震度5強以上の地震が発生した場合は、航空機による情報収集を実施している。

参照図表III-1-4-1(要請から派遣、撤収までの流れ及び政府の対応)

図表III-1-4-1 要請から派遣、撤収までの流れ及び政府の対応

動画アイコンQRコード資料:防衛省・自衛隊(災害対策)公式ツイッター
URL:https://twitter.com/modjapan_saigai(別ウィンドウ)

2 防衛省・自衛隊の対応
(1)自然災害などへの対応

ア 静岡県熱海市における令和3年7月1日からの大雨にかかる災害派遣

2021年7月1日以降に降り続いた大雨の影響で、同月3日午前、静岡県熱海市内の住宅地域で土石流が発生したことから、同日、陸自第34普通科連隊長(板妻)は静岡県知事から災害派遣要請を受理し、人命救助活動、被害情報収集、連絡員の派遣などを実施した。これらの活動は同月31日に同知事から災害派遣撤収要請を受理するまでの約1ヵ月にわたり継続され、その間、活動人員延べ約27,000人(うち、被災現場における活動人員は延べ約11,000人)が投入された。

具体的な活動は、まず、人命救助活動などに関し、陸自第34普通科連隊(板妻)、第32普通科連隊(大宮)、第1戦車大隊(駒門)、空自中部航空警戒管制団(入間)、第3術科学校(芦屋)などの部隊が現場付近の捜索救助にあたった。また、陸自第34普通科連隊、第1施設大隊(朝霞)などにより、国道135号線及び活動地域付近の道路上に堆積した土砂などを除去し、道路啓開を実施した(道路啓開の累計:約1,020m)。

被害情報収集に関しては、陸自東部方面航空隊(立川)がUH-1ヘリコプターにより、被災現場の情報収集及び映像伝送を実施するとともに、陸自陸上総隊(朝霞)、第1師団(練馬)、空自航空総隊(横田)の全天候型ドローンも活用して、被災現場の情報収集及び映像伝送を実施した。

また、静岡県庁、熱海市役所及び伊豆山現地本部に対し、部隊から連絡員を派遣し、関係自治体などとの緊密な連携を図った。

イ 令和3年8月からの大雨にかかる災害派遣

2021年8月13日未明に長崎県雲仙市において土砂崩れが発生したことから、同日、陸自第16普通科連隊長(大村)は長崎県知事から人命救助にかかる災害派遣要請を受理し、以後、同月19日に撤収要請を受理するまでの間、陸自第16普通科連隊(大村)などが人命救助活動を実施した。この際、空自第8航空団(築城)及び第3術科学校(芦屋)は、救助犬による捜索活動を実施した。

同月14日には佐賀県の六角川において氾濫が発生したことから、陸自西部方面混成団長(久留米)は佐賀県知事から人命救助活動にかかる災害派遣要請を受理し、以後、同月18日に撤収要請を受理するまでの間、陸自西部方面特科連隊(久留米・玖珠)、海自佐世保水中処分隊(佐世保)及び空自芦屋救難隊(芦屋)などがボートや航空機などを運用して人命救助活動を実施した。

ウ 新型コロナウイルス感染者に対する市中感染対策にかかる災害派遣

世界的大流行(パンデミック)となった新型コロナウイルス感染症は、わが国を含む国際社会の安全保障上の重大な脅威とされる。その感染拡大防止に向け、防衛省・自衛隊は、総力を挙げて様々な活動を行った。

自衛隊は、2020年度に引き続き都道府県知事などからの要請を受け、新型コロナウイルス感染症の市中感染拡大防止のため、2021年4月から2022年3月末までの間に災害派遣などを実施した。その内訳としては、自治体職員に対する感染防止の教育支援を延べ7自治体で約60名1に、医療支援を延べ2自治体で、離島で発生した患者輸送を延べ17自治体で約20名に実施した。

エ 鳥インフルエンザ発生にかかる災害派遣

2021年4月から2022年3月末までの間に鳥インフルエンザが発生した秋田県、兵庫県及び愛媛県において、自衛隊は各県知事からの災害派遣要請を受け、養鶏場内において鶏の殺処分などの支援を実施した。

これらに対する派遣の規模は、人員延べ約2,200名に上った。

オ 豚熱(CSF:Classical Swine Fever)にかかる災害派遣

2021年4月から2022年3月末までの間に豚熱(CSF)の発生が確認された群馬県、三重県、栃木県及び宮城県において、速やかに豚の殺処分などの防疫措置を行う必要が生じたため、自衛隊は、各県知事からの災害派遣要請を受け、豚の殺処分などの支援を実施した。これらに対する派遣の規模は、人員延べ約4,400名に上った。

カ 山林火災にかかる災害派遣

2021年4月から2022年3月末までに発生した山林火災のうち、自治体により消火活動を実施するも鎮火に至らなかったものについて、自衛隊は茨城県、群馬県、福島県、熊本県及び大分県において、各県知事からの災害派遣要請を受け、空中消火活動などを実施した。本派遣の規模は人員延べ約860名、車両延べ約50両、航空機延べ約30機に上った。

さらに、2021年度には、24件の消火支援を実施しており、そのうち、16件が自衛隊の施設近傍の火災への対応であった。

参照資料17(災害派遣の実績(過去5年間))

(2)救急患者の輸送など

自衛隊は、医療施設が不足している離島などの救急患者を航空機で緊急輸送(急患輸送)している。2021年度の災害派遣総数383件のうち、315件が急患輸送であり、南西諸島(沖縄県及び鹿児島県)や小笠原諸島(東京都)、長崎県の離島などへの派遣が大半を占めている。

また、他機関の航空機では航続距離が短いなどの理由で対応できない、本土から遠く離れた海域で航行している船舶からの急患輸送や転覆などの緊急を要する船舶での災害の場合については、海上保安庁からの要請に基づき海難救助を実施しているほか、状況に応じ、機動衛生ユニットを用いて重症患者を空自C-130H輸送機にて搬送する長距離患者搬送も行っている。

(3)原子力災害への対応

防衛省・自衛隊では、原子力災害に対処するため、「自衛隊原子力災害対処計画」を策定している。また、国、地方公共団体及び原子力事業者が合同で実施する原子力総合防災訓練に参加し、地方公共団体の避難計画の実効性の確認や原子力災害緊急事態における関係機関との連携強化を図っている。

(4)各種対処計画の策定

防衛省・自衛隊は、各種の災害に際し十分な規模の部隊を迅速に輸送・展開して初動対応に万全を期すとともに、要員のローテーション態勢を整備することで、長期間にわたる対処を可能としている。その際、東日本大震災などの教訓を十分に踏まえることとしている。

また、防衛省・自衛隊は、中央防災会議で検討されている大規模地震に対応するため、防衛省防災業務計画に基づき、各種の大規模地震対処計画を策定している。

特に、2021年度、内閣府から日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定が発表されたことから、防衛省はこれに基づき、これまでの検討をさらに深化させていく。

(5)地方公共団体などとの連携

災害派遣活動を円滑に行うためには、平素から地方公共団体などと連携を強化することが重要である。このため、①自衛隊地方協力本部への国民保護・災害対策連絡調整官(事務官)の設置、②自衛官の出向(東京都の防災担当部局)及び事務官による相互交流(陸自中部方面隊と兵庫県の間)、③地方公共団体からの要請に応じ、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦などを行っている。

2022年3月末現在、全国45都道府県・426市区町村に601人の退職自衛官が、地方公共団体の防災担当部門などに在籍している。このような人的協力は、防衛省・自衛隊と地方公共団体との連携を強化するうえで極めて効果的であり、東日本大震災などにおいてその有効性が確認された。特に、陸自各方面隊は地方公共団体の危機管理監などとの交流の場を設定し、情報共有・意見交換を行い、地方公共団体との連携強化を図っている。

また、災害の発生に際しては、各種調整を円滑にするため、部隊などから地方公共団体に対し、迅速かつ効果的な連絡員の派遣を行っている。

(6)防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策に基づく措置

2020年12月、防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策2が閣議決定された。本対策において、防衛省としては、防災のための重要インフラなどの機能維持・強化の観点から、自衛隊の飛行場施設などの資機材等対策、自衛隊のインフラ基盤強化対策及び自衛隊施設の建物などの強化対策について、重点的かつ集中的に取り組んでいる。

3 災害派遣に伴う各種訓練への影響など

近年、大規模かつ長期間の災害派遣活動が増えており、災害派遣活動中に、当初予定していた訓練を行うことができず、訓練計画に支障を来すこともあった。

今後は、初動における人命救助活動などに全力で対応するとともに、各種の緊急支援などについては、地方公共団体・関係省庁などの関係者と役割分担、対応方針、活動期間、民間企業の活用などの調整を行い、適宜態勢を移行し、適切な態勢・規模で活動することとしている。

1 一般命令、官庁間協力による教育支援を含む。

2 平成30年7月豪雨、平成30年台風第21号、平成30年北海道胆振東部地震をはじめとする近年の自然災害により、ブラックアウトの発生、空港ターミナルの閉鎖など、国民の生活・経済に欠かせない重要なインフラがその機能を喪失し、国民の生活や経済活動に大きな影響を及ぼす事態が発生したことなどを踏まえ、防災のための重要インフラなどの機能維持及び国民経済・生活を支える重要インフラなどの機能維持の観点から、各府省庁が3年間で集中的に実施すべきハード・ソフト対策について定めている。