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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

10 国際テロリズムの動向

1 全般

中東やアフリカなどの統治能力がぜい弱な国において、国家統治の空白地域がアル・カーイダやISILなどの国際テロ組織の活動の温床となる例が顕著にみられる。こうしたテロ組織は、国内外で戦闘員などにテロを実行させてきたほか、インターネットなどを通じて暴力的過激思想を普及させている。その結果、欧米などにおいて、暴力的過激思想に感化されて過激化し、居住国でテロを実行する「ホーム・グロウン型」テロや、国際テロ組織との正式な関係はないものの、何らかの形でテロ組織の影響を受けた個人や団体が、少人数でテロを計画及び実行する「ローン・ウルフ型」テロが発生している。さらに、極右思想を背景とした特定の宗教や人種を標的とするテロも欧米諸国で発生している。

国際テロ組織のうち、ISILは、元々の拠点であるイラク及びシリアのほか、両国外に「イスラム国」の領土として複数の「州」を設立し、こうした「州」が各地でテロを実施している。

アフガニスタンなどを拠点とするアル・カーイダは、多くの幹部が米国の作戦により殺害されるなど弱体化しているとみられる。しかしながら、アフリカや中東などで活動する関連組織に対して指示や勧告を行うなど、中枢組織としての活動は継続している。

参照図表I-3-10-2(アフリカ・中東地域の主なテロ組織)

図表I-3-10-2 アフリカ・中東地域の主なテロ組織

国際テロ対策に関しては、テロの形態の多様化やテロ組織のテロ実行能力の向上などにより、テロの脅威が拡散、深化している中で、テロ対策における国際的な協力の重要性がさらに高まっている。

2 アフリカにおける動向

アフリカは、ISILやアル・カーイダ関連組織が活発に活動し、テロによる被害が最も大きい地域とされる5。アフリカ西部においては、たとえばマリをはじめとするサヘル地域で、テロ組織の活発な活動のみならず、組織間の衝突がみられる。アフリカ南部においては、モザンビークを中心に活動する、後にISIL中央アフリカ州と称するようになる武装集団などが、2017年以降、同国の一部地域を襲撃・占拠し、2020年3月にはフランス企業が主導する天然ガス田の開発が中断されるに至った。

このようなテロ組織の活動に対し、欧州諸国などにより、対テロ作戦や訓練支援が行われている。たとえば、サヘル地域においては、2013年以降、派兵を継続してきたフランスが、2022年2月、フランス軍及びフランス主導の多国籍特殊部隊をマリ領から撤収させることや、部隊を隣国ニジェールのマリ国境地帯に配置転換させることを発表した。モザンビークにおいては、周辺国の部隊派遣により、武装集団に占拠されていた地域を2021年8月に奪還したほか、同年11月、EUの訓練ミッションの活動が開始された。

3 中東における動向

ISILは、2013年以降、情勢が不安定であったイラク及びシリアにおいて勢力を拡大し、2014年に「イスラム国」の樹立を一方的に宣言した。同年以降、米国が主導する有志連合軍は、イラク及びシリアにおいて、空爆を実施するとともに、現地勢力に対する教育・訓練などにも従事し、2019年、米国は、有志連合とともにシリア及びイラクにおけるISILの支配地域を100%解放したと宣言するに至った。2022年2月、米軍特殊部隊がシリア北西部でISIL指導者の拠点に対する急襲作戦を実施し、同指導者は死亡したが、同年3月、ISILは新指導者の就任を発表しており、ISILは、イラク及びシリアにおいて、依然活動を継続しているとみられる。

アフガニスタンにおいては、タリバーンが支配地域を拡大する中、2015年以降、ISIL「ホラサン州」が、首都カブールや東部を中心にテロ活動を継続してきた。アル・カーイダと協力関係にあるタリバーンがカブールを制圧した2021年8月、各国が自国民などの退避作戦を進める中、カブール国際空港付近で自爆テロが発生し、ISIL「ホラサン州」が犯行声明を発出した。同月末、米国は、米軍の撤収を完了したが、遠隔からの対テロ作戦の継続を表明した。一方、ロシアや中国は、テロ防止を重視して軍事演習などを実施しつつ、タリバーンにテロ組織の取り締まりを求めている。

米軍撤収後も、ISIL「ホラサン州」は、カブールなどで、活発にテロ攻撃を実施している。ミリー米統合参謀本部議長は、同年9月、アフガニスタンにおいて、今後1年から3年で、米国を攻撃する意思を有するアル・カーイダ及びISILが復活する可能性があると発言した。

参照図表I-3-10-2(アフリカ・中東地域の主なテロ組織)

5 国連安保理ISIL及びアル・カーイダ制裁委員会の報告書(2021年7月21日付)による。