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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

9 エチオピア情勢

2018年に現職のアビィ氏が首相に就任後、ティグライ族中心で構成され、民族中心主義をとるかつての与党勢力・ティグライ人民解放戦線(TPLF:Tigray Peoples Liberation Front)は、民族融和を掲げるアビィ首相と対立していた。

アビィ氏は首相就任後、エリトリアとの国境紛争を解決し、20年にわたる戦争状態を終結させたが、その際にエリトリア側への帰属を受諾した地域はティグライ族の本拠地であるティグライ州に属していたことから、TPLFの反発が強まった。また、2020年6月、新型コロナウイルス感染症対策のために連邦議会会期が延長され、首相任期も延長されたことにTPLFが反発し、ティグライ州は独自に州議会選挙を断行するなど、双方の対立が深まっていた。

同年11月、アビィ首相はTPLFが連邦政府軍基地を攻撃したとしてTPLFに対する軍事行動を実施し、同月、連邦政府軍がティグライ州の州都・メケレを掌握した。一方、TPLFはその後も州内外でゲリラ戦を展開して対抗し、2021年6月にメケレを奪還した後、同年7月以降は隣接州に侵攻するなど、攻勢を強めた。TPLFは同年10月末に首都アディスアベバとメケレをつなぐ幹線道路沿いの要衝を制圧し、これに対して連邦政府は同年11月上旬にエチオピア全土への非常事態宣言を発出した。

一時はTPLFが首都から約200kmの地点にまで迫ったが、同年11月下旬に連邦政府軍が攻勢に転じた後、同年12月にTPLFはティグライ州まで撤退した。

衝突長期化に伴い、戦闘が行われているエチオピア北部の人道状況悪化への懸念から、アフリカ連合などによる調停が試みられる中、2022年3月には双方が人道的停戦に合意する進展がみられた。