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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

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第4章 宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域をめぐる動向・国際社会の課題

第1節 科学技術をめぐる動向

1 科学技術と安全保障

科学技術の発展は、これまでも社会や人々の生活や安全保障のあり方を変化させてきたが、近年の特徴としては、特に、民生分野に由来する技術の急速な発展と、これが安全保障にもたらす影響力の大きさがあげられる。各国は、例えば人工知能(AI)、量子技術、次世代情報通信技術など、将来の戦闘様相を一変させる、いわゆるゲーム・チェンジャーとなり得る技術の研究開発や、軍事分野での活用に力を入れている。

このような技術の活用は、これまで人間や従来のコンピュータなどにより行われてきた情報処理を、高速かつ自動で行うことを可能とするものであり、意思決定の精度やスピードにも大きな影響を及ぼすものとして注視していく必要がある。また、こうした技術に基づく高速大容量かつ安全な通信は、今後の防衛における大きなニーズでもある無人化や省人化にも大きく寄与するため、この観点からも注視が必要である。

さらに、サイバー攻撃による通信・重要インフラの妨害やAIを搭載したドローンの活用など、純粋な軍事力に限られない多様な手段により他国を混乱させる手法はすでにいくつもの実例があり、こうした技術は、軍事と非軍事の境界を曖昧にし、いわゆるグレーゾーンの事態を増加・拡大させる要因ともなっている。AI技術を応用して偽の動画を作るディープフェイクと呼ばれる技術も広がりを見せており、偽情報の流布などによる情報戦の手法が巧妙化し、選挙戦への影響など、より平時に近い段階での活動として広がりを見せていることから、安全保障面での影響に関心が高まっている。

加えて、国の経済や安全保障にとって重要となる新興技術の分野で優位を獲得し、国際的な基準をリードすることが有利であるといった認識から、第5世代移動通信システム(5G)や半導体などの分野において、技術をめぐる国家間の争いが顕在化している。また、半導体やレアメタルをはじめとした重要物資について、安全保障の観点からサプライチェーンを確保することの重要性について共通の理解が進んでいる。

このような状況において、サイバー空間、企業買収、投資を含む企業活動、学術交流、工作員などを利用した技術窃取も課題となっており、各国は、輸出管理や外国からの投資にかかる審査を強化するとともに、技術開発や生産の独立性を高めるなど、いわゆる「経済安全保障」の観点からの施策を講じている。