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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

4 シリア情勢

2011年3月から続くシリア国内の暴力的な衝突は、シリア政府軍、反体制派、イスラム過激派勢力及びクルド人勢力による4つ巴の衝突となっている。しかしながら、ロシアの支援を受ける政府軍が、反体制派の最大の拠点であったアレッポのほか、首都ダマスカス郊外、シリア・ヨルダン国境付近などを奪還し、全体的に政府軍が優位な状況となっている。

こうした中で現在も反体制派の拠点となっているイドリブをめぐっては、2018年9月、シリア政府軍を支援するロシアと、反体制派を支援するトルコとの間で、イドリブ周辺における非武装地帯の設置、その地帯からの重火器の撤去と過激派組織の退去などが合意された。しかし、合意後も、シリア政府軍とロシア軍が空爆や地上作戦を拡大したり、トルコ軍とシリア政府軍の間で交戦が拡大したりするなどした。こうした中、2020年3月、トルコとロシアは、イドリブにおける停戦で合意したが、その後もイドリブでは戦闘が断続的に発生しており、完全な停戦には至っていない。

一方で、和平に向けた協議については、現在まであまり進展はみられていない。2017年1月以降、カザフスタンのアスタナ(現ヌルスルタン)において、ロシア、トルコ及びイランが主導する和平協議が続けられている。また、2018年1月にロシアのソチで新憲法の制定に向けた憲法委員会の設立が合意された後、2021年10月に第6回会合が開催されたが、これまで政治プロセスの実質的な進展はみられていない。

また、シリア国内におけるクルド人をめぐる関係国・勢力間の対立は継続している。トルコ軍は、シリアへ展開し続けており、2019年10月、シリア北部のトルコ国境地帯から米軍部隊が撤収した後、トルコがテロ組織と認識しているクルド人勢力やISILに対する軍事作戦を開始し、シリア北東部地域の一部を掌握した。その一方で、米国は、シリア北東部への部隊駐留を継続し、対ISIL作戦の中核を担ってきたクルド人勢力に対する支援を継続している。

このように依然として情勢が不安定な中、米国はISILを掃討するため、米軍部隊の一部を引き続き駐留させている。シリア国内の米軍拠点に対しては、親イラン勢力によるとみられる攻撃が、散発的に実施されている。

シリア情勢をめぐる各勢力間の関係は複雑なものとなっており、和平協議も停滞する中、シリアの安定に向けて国際社会によるさらなる取組が求められる。