Contents

第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

3 中東和平をめぐる情勢

中東和平については、1993年にイスラエルとパレスチナの間で締結されたオスロ合意に基づき自治が開始されたが、和平プロセスは停滞している。パレスチナ自治区においては、ヨルダン川西岸地区を統治する穏健派のファタハと、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが対立し、分裂状態となっている。

こうした中で、2017年、トランプ米政権(当時)が、米国はエルサレムをイスラエルの首都と認めると発表し、2018年には駐イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転したことを受けて、ガザ地区を中心に緊張が高まった。2020年には、同政権が新たな中東和平案を発表したものの、パレスチナ側はその案に示されたエルサレムの帰属やイスラエルとパレスチナの境界線などに反対し、交渉を拒否した。

一方で、同政権は、イスラエルとアラブ諸国間の和平合意の実現に向けて積極的な働きかけを行い、2020年8月以降、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダン及びモロッコがイスラエルと相次いで国交正常化に合意するに至った。アラブ諸国とイスラエルの国交樹立は、エジプト(1979年)及びヨルダン(1994年)以来であった。

2021年には、イスラエルはUAE及びバーレーンと、相互に大使館を開設した。同年11月には、米国も加えた4か国で、紅海において、洋上臨検チームの相互運用性の向上を目指した初の軍事演習を実施した。さらに、モロッコとの間では、同年11月に、防衛協力拡大に向けた覚書に署名した。このように、イスラエルと国交正常化したアラブ諸国との間では、安全保障面での協力が拡大しつつある。

一方で、パレスチナにおいては、2021年5月及び7月に、15年以上ぶりとなる立法評議会及び大統領選挙が予定されていたものの、同年4月末に両選挙の延期が発表されており、ファタハとハマスの対立は継続している。

イスラエルとパレスチナ武装勢力の間では、2021年5月にガザ地区からイスラエルに向けロケット弾などが断続的に発射され、これに反撃するイスラエル国防軍との間で攻撃の応酬に発展した。同月内に停戦が実現したものの、両者の緊張状態は継続している。

このように中東和平をめぐる情勢が変化する中、米国の関与のあり方も含めた中東和平プロセスの今後の動向が注目される。

2021年5月、ガザ地区からイスラエルへ飛来するロケット弾【EPA時事】

2021年5月、ガザ地区からイスラエルへ飛来するロケット弾【EPA時事】