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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

5 イエメン情勢

イエメンでは、2011年2月以降に発生した反政府デモとその後の国際的な圧力により、サーレハ大統領(当時)が退陣に同意し、2012年2月の大統領選挙を経てハーディ副大統領(当時)が新大統領に選出された。

一方、同国北部を拠点とする反政府武装勢力ホーシー派と政府との対立は激化し、ホーシー派が首都サヌアなどに侵攻したことを受け、ハーディ大統領はアラブ諸国に支援を求めた。これを受けて、2015年3月、サウジアラビアが主導する有志連合がホーシー派への空爆を開始した。これに対し、ホーシー派もサウジアラビア本土に弾道ミサイルなどによる攻撃を開始した。

ホーシー派とイエメン政府の間では、2018年12月にスウェーデンで開催された和平協議で、国内最大の港を擁するホデイダ市における停戦などが合意された。しかし、停戦に向けた具体的方策をめぐる協議は難航し、ホデイダ停戦をはじめとする合意の内容は履行されていない。ホデイダ以外の地域においても、ホーシー派はイエメン政府軍と各地で交戦を続けており、特に天然資源が豊富なマアリブなどの地域で戦闘が激化している。

その一方で、イランから武器供給を受けているとされる3ホーシー派によるサウジアラビアへの無人機・ミサイル攻撃が散発的に発生しており、サウジアラビアが主導する連合軍も、そのような攻撃を迎撃しつつ、ホーシー派への空爆を継続している。2022年1月、ホーシー派はUAEに対しても攻撃を実施したと発表し、これに対してUAEはイエメン国内のミサイル発射拠点を空爆した。

このようにホーシー派をめぐる情勢が変化する一方で、2019年11月、サウジアラビアの首都リヤドにおいて、イエメン政府とイエメン南部の独立勢力「南部移行評議会」(STC:Southern Transitional Council)がリヤド合意に署名した。その合意により、両陣営が参加する新政府が樹立されることとなり、2020年12月、その合意に基づき新内閣が発足したものの、軍部隊の移転などを含む合意内容の履行は遅延している。

2021年1月に発足したバイデン米政権は、イエメンで行われている攻撃的な作戦の支援を全面的に停止するとの方針を打ち出し、仲介努力を活発化させたものの、ホーシー派は攻勢を強める傾向にあり、イエメン全土における停戦や最終的な和平合意の締結の目途は立っていない。

3 米国防情報局(DIA)が2019年11月に発表した報告書「Iran Military Power」による。