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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

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第3節 米国と中国の関係など

1 米国と中国との関係(全般)

世界第1位の経済大国である米国(2021年GDP約22兆9,975億米ドル1)と第2位の中国(2021年GDP約17兆4,580億米ドル2)との関係については、中国の国力の伸長によるパワーバランスの変化、貿易問題、南シナ海をめぐる問題、台湾問題、香港問題、ウイグル・チベットをめぐる中国の人権問題といった種々の懸案などにより、近年、両国の政治・経済・軍事にわたる競争が一層顕在化してきている。特に、トランプ政権以降、米中両国において相互に牽制する動きがより一層表面化していたが、バイデン政権においても両国の戦略的競争が不可逆的な動きとなっていることに強い関心が集まっている。

2021年1月、米政府は、2018年2月に大統領承認を受けた「インド太平洋のための米国の戦略的枠組み」について、秘密指定を解除して一部公開した。同文書は、トランプ政権期の3年間に国家安全保障戦略を実施するための包括的な戦略的指針として機能してきたものであり、中国が、米国とその同盟国やパートナーとの関係の解体を目論み、また関係の喪失によってもたらされる力の空白や機会を利用するとの考えを示している。中国に対する取組として、軍事面においては、いわゆる「第一列島線」内において、中国による空域及び海域での持続的な優位性を拒否する能力や、台湾を含めたいわゆる「第一列島線」に位置する諸国家などを防衛する能力の保有を目指すこととしている。

2021年3月、米政府は、国家安全保障戦略暫定指針(以下「暫定指針」という。)を公表した。この文書は、バイデン政権のビジョンを表明するために発出され、国家安全保障戦略の策定に向けた指針を示したものである。この文書においては、世界の力学が変化し、中国やロシアなどの権威主義国家との対立やパンデミック、気候変動、核拡散、技術革命といった地球規模の課題が加速する中、米国の優位性を維持するためには、同盟国との協力や、国際社会と協力し国際組織の中でリーダーシップを発揮することが必要であるとしている。また、中国を「安定し開かれた国際システムに深刻な挑戦を呈し得る経済、外交、軍事、技術力を有する唯一の国」であるとし、中国が米国の強みを牽制し、世界中の米国の利益と同盟国を守るための取組を阻止することに多額の投資をしてきたとの考えを示している。こうした点も踏まえて導かれた中国に対する取組として、同盟国やパートナーとの比類のないネットワークを強化し、賢明な国防投資により中国の侵略を阻止することや、米国の先端・新興技術を弱体化させ、戦略的優位性と国家競争力を阻害しようとする不公正で違法な貿易慣行、サイバー窃取、強圧的な経済慣行に立ち向かうことを国家安全保障上の優先事項としている。特に、軍事面においては、中国などの課題に対して戦力の適切な構成、能力及び規模を評価し、最先端の技術及び能力への投資のための資源を捻出するため、不要な旧式のプラットフォームや兵器システムから重点を移行するとしている。

2022年2月以降のロシアによるウクライナ侵略をめぐっては、サリバン米大統領補佐官と楊潔篪(よう・けつち)中国政治局委員が同年3月14日にイタリアのローマで長時間にわたる会談を実施し、米国は中国がロシアに対して協力することへのリスクを強調した。これに対して中国は、ウクライナに対して緊急の人道支援を行っていることや、仲裁と対話の促進に尽力しており、中国独自の努力を続けていくことなどを強調した。

貿易問題については、2018年以降、米中両国は双方段階的な輸入関税引き上げによる対抗措置を行ってきたが、2020年1月、中国による対米輸出拡大を柱とする第一段階の合意に至り、両国は追加関税の一部引き下げも行った。2021年10月に、米通商代表部のタイ代表と中国の劉鶴(りゅう・かく)副首相がオンラインでの会合を開催し、第一段階の合意の履行状況を検証することや、未解決となっている問題について協議することで一致した。

機微技術や重要技術をめぐって、米国は、中国に対する警戒感を強めている。米国は、暫定指針において経済安全保障を国家安全保障と位置づけ、機微技術や重要技術の保護・育成に力を入れている。機微技術や重要技術が流出することにより、中国の軍事力が高まり、その結果、米国の安全保障が脅かされるとの認識のもと、2018年に、米国は軍民両用のデュアルユース品目などに対する規制の根拠法となる輸出管理改革法を制定し、新たな規制対象分野を追加するなど、新たな輸出管理方針を打ち出すことにより、新興技術などの規制対象を拡大した。さらに、米国の企業秘密の窃取、人権侵害への関与、南シナ海の軍事化といった行動などを理由として、特定の中国人に対するビザ制限や、米国からの輸出を規制するエンティティ・リストにファーウェイ社などの中国企業を追加するといった措置を実施するなど、重要技術などの管理を強化している。また、2021年6月には米国からの投資が中国の軍産複合体企業を支援しないようにすることを目的とした大統領令を発令した。この中で、中国軍産複合体企業リストを公表し、このリストに掲載される企業について米国での株式の取引及び保有を禁止している。このように、米国は自国や同盟国などの重要技術や機微技術が中国の軍事力強化に転用されることを防ぐための取組をより一層強化している。

一方、中国は、2019年の国防白書において、米国が軍事技術及び軍事体制の刷新を行い、絶対的な軍事優勢を得ることを追求していると指摘しつつ、軍事領域における人工知能など、先端科学技術の応用が加速し、国際軍事競争の構造に歴史的な変化が生じているとしている。また、2020年10月に開催された中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議(五中全会)において、科学技術の自立を国が発展する上での戦略的支柱と捉え、科学技術の革新の体制・メカニズムを整備しなければならないとしている。米国をはじめとする諸外国の規制強化に対しては、2020年以降、対抗措置となる法令などを相次いで施行している。同年9月、米国のエンティティ・リストに対抗し、中国は、信頼できないとする取引先のエンティティ・リストを施行し、また同年12月には、国家の安全と利益にかかわる技術などの輸出を管理するため輸出管理法を施行した。

さらに2021年1月には外国の法律などの不当な域外適用から中国企業などを保護することを目的とした規則を成立させた。これに加え、同年6月には反外国制裁法を施行し、前米国商務長官を含む米国の個人及び組織に対する制裁措置を実施した旨を発表したほか、同法を香港にも適用するための審議を継続している。

米中の技術分野における競争は、米中双方が新たな規制を打ち出す相互の応酬が続き、その影響が国際的な広がりを見せており、今後一層激しさを増す可能性がある。

中国は自国の「核心的利益と重大な関心事項」については妥協しない姿勢を示している一方、米国も自国の安全保障のために妥協しない姿勢を示しており、今後、様々な分野において、米中の戦略的競争が一層顕在化していくとみられる。

1 IMF公表数値(2022年4月時点)による。

2 同上