第IV部　防衛力を構成する中心的な要素など

3　新たな防衛装備・技術協力の構築

1　欧州主要国との防衛装備・技術協力など

競争力のある防衛産業を擁（よう）する欧州主要国との防衛装備・技術協力は、これらの国々との安全保障・防衛協力の強化及びわが国の防衛産業基盤の維持・強化に資するものであることから、その関係の構築・深化を図っている。

（1）英国

英国との間では、2013年7月、日英防衛装備品・技術移転協定⁹の署名・発効に至り、同月、米国以外の国とは初めてとなる化学・生物防護技術にかかる共同研究を開始し、本共同研究は2017年7月に成功裏に完了した。

また、2014年11月には「共同による新たな空対空ミサイルの実現可能性に係る日英共同研究」（2018年3月完了）、2016年7月には「人員脆弱性評価に係る共同研究」（2020年7月完了）、2018年2月には「ジェットエンジンの認証プロセスに係る共同研究」（2020年2月完了）をそれぞれ開始し、成功裏に完了した。なお、2018年3月には「次世代RFセンサシステムの実現可能性に係る共同研究」、同年12月には「共同による新たな空対空ミサイルの実証に係る日英共同研究」をそれぞれ開始しており、現在も継続中である。

さらに、「将来戦闘機における英国との協力の可能性に係る日英共同スタディ」を実施するなど、日英がそれぞれ検討を進める次期戦闘機及び将来戦闘航空システム（FCAS：Future Combat Air System¹⁰）に関する情報交換を行い、将来の共同事業の可能性について、日英両政府及び企業も含めた形で意見交換を実施している。

また、日英防衛装備・技術協力運営委員会を2014年7月に初開催し、定期的に協議を行っている。

参照III部3章1節2項5（1）（英国）

（2）フランス

フランスとの間では、2014年1月、防衛装備品協力及び輸出管理措置に関する委員会をそれぞれ設置し、2016年12月には、日仏防衛装備品・技術移転協定¹¹が発効した。また、2018年1月の第4回日仏「2＋2」においては、次世代機雷探知技術に関する協力の早期開始を確認し、同年6月、次世代機雷探知技術に係る共同研究を開始した。

また、2017年6月の「パリ・エアショー2017」に海自P-1哨戒機が参加するとともに、防衛装備庁が初めてP-1哨戒機関連のブースを出展した。2019年6月の「パリ・エアショー2019」には海自P-1哨戒機及び空自C-2輸送機が参加した。

参照III部3章1節2項5（2）（フランス）

（3）ドイツ

ドイツとの間では、2017年7月、日独防衛装備品・技術移転協定¹²に署名し、発効した。また、2018年4月の「ベルリン・エアショー2018」に海自P-1哨戒機が参加するとともに、防衛装備庁がP-1哨戒機関連のブースを出展した。

参照III部3章1節2項5（3）（ドイツ）

（4）イタリア

イタリアとの間では、2019年4月、日伊防衛装備品・技術移転協定¹³が発効した。また、同年1月には、欧州で初となる「日伊・官民防衛産業フォーラム」を開催し、さらに日伊防衛装備・技術協力に関する課長級協議の枠組みを設置した。

参照III部3章1節2項5（7）（その他の欧州諸国）

2　インド太平洋地域の友好国との防衛装備・技術協力など

インド太平洋地域の友好国との間では、わが国との防衛装備・技術協力に関する関心や期待が寄せられており、関係構築を積極的に図っている。

（1）オーストラリア

オーストラリアとの間では、2014年12月、日豪防衛装備品・技術移転協定¹⁴が発効した。

また、同年10月の日豪防衛相会談においては、①F-35戦闘機プログラムに関する潜在的な協力の機会の検討、②取得改革にかかるオーストラリア装備庁との対話、③オーストラリア側からの要請を受け、オーストラリアの将来潜水艦プログラムに関する日本の協力の可能性についての検討、④オーストラリア国防科学技術機関との防衛技術交流、⑤防衛産業間対話を含む多面的な協力について検討を進めていくこととした。その後、2015年12月から、船舶の流体力学分野に係る共同研究を開始し、2019年11月に終了した。また、同年11月には、科学技術者交流計画に係る取決めに署名し、技術者の相互派遣の枠組みを整理した。

同年2月には、オーストラリアで開催されたアバロン国際航空ショーに空自C-2輸送機が参加し、わが国の技術力を発信した。

また、同年6月には、第2回目となる日豪防衛装備・技術協力共同運営委員会を開催し、日豪間で防衛装備・技術協力をさらに推進していくための方策などについて、さらなる検討を行うなど、日豪両国の防衛装備・技術協力の進展を図っている。

参照III部3章1節2項1（オーストラリア）

（2）インド

インドとの防衛装備・技術協力は、日印の特別な戦略的グローバル・パートナーシップに基づく重要な協力分野と位置づけられており、2015年12月の日印首脳会談において日印防衛装備品・技術移転協定¹⁵の署名が行われ、2016年3月に発効した。

また、これまでに計5回の防衛装備・技術協力に関する事務レベル協議を開催するなど、デュアル・ユースを含む防衛装備・技術協力案件の形成に向け協議を実施している。2017年9月の日印防衛相会談での研究協力に向けた協議開始の合意を踏まえ、2018年7月には「UGV¹⁶／ロボティクスのための画像による位置推定技術に係る共同研究」を開始した。

さらに、2019年2月には同国とは2回目となる「日印・官民防衛産業フォーラム」をベンガルールにおいて開催するなど、日印両国の防衛装備・技術協力に関する議論が進展している。このほか、日本国内においても、インドへの海外移転に関する官民の知識向上のため、民間ビジネスの分野での先行事例やインドとの防衛装備・技術協力の現状を学ぶ機会として、第1回目の「防衛装備移転に関するインドウェビナー」を2020年12月に開催した。

防衛装備移転に関するインドウェビナー（2020年12月）に参加する職員

参照III部3章1節2項2（インド）

（3）ASEAN諸国

ASEAN諸国との間では、日ASEAN防衛当局次官級会合などを通じて、人道支援・災害救援や海洋安全保障など、非伝統的安全保障分野における防衛装備・技術協力について意見交換がなされており、参加国からは、これらの課題に効果的に対処するため、わが国からの協力に期待が示されている。2016年11月の日ASEAN防衛担当大臣会合の際にわが国が表明した「ビエンチャン・ビジョン」において、ASEAN諸国との防衛装備・技術協力に関しては、①装備品・技術移転、②人材育成、③防衛産業に関するセミナーなどの開催を3つの柱として進めることとしている。

具体的な取組として、フィリピンとの間では、同年9月の日比首脳会談において、フィリピン海軍への海自TC-90練習機の移転などについて正式に合意され、2017年3月には、2機のTC-90を、2018年3月には、残り3機のTC-90をフィリピン海軍へ引き渡した。さらに、2016年11月から2018年3月まで、フィリピン海軍パイロットに対する操縦訓練を海自徳島航空基地で行い、2017年4月以降、フィリピンにわが国の整備企業の要員を派遣し、維持整備の支援を実施している。

また、2018年6月の日比防衛相会談において、陸自で不用となった多用途ヘリコプターUH-1Hの部品などをフィリピン空軍に無償譲渡することを確認し、同年11月、移転にかかる防衛当局間の取決めに署名のうえ、2019年3月、一部部品などの引き渡しを開始、同年9月に完了した。これら2件の移転は、2017年6月に施行された、不用装備品等の無償譲渡等を可能とする自衛隊法の規定を適用した事例である。（本項3参照）

加えて、2019年1月には、防衛装備・技術協力に関する事務レベルの定期協議の枠組みを設置した。2020年8月には、フィリピン国防省と三菱電機株式会社との間で、同社製警戒管制レーダー（4基）を約1億ドルで納入する契約が成立し、2014年の防衛装備移転三原則の策定以来、わが国から海外への完成装備品の移転としては初の案件となった。

フィリピン空軍による自衛隊レーダー視察の状況

タイとの間では、2017年11月、防衛装備品・技術移転協定の早期締結を含め今後の二国間の防衛装備・技術協力を促進していくことで一致した。

ベトナムとの間では、2016年11月の日越防衛次官級協議において、「防衛装備・技術協力に関する定期協議の実施要領（TOR：Terms of Reference）」に署名した。また、2019年5月の日越防衛相会談の際に、具体的な分野などを示した「防衛産業間協力の促進の方向性にかかる日ベトナム防衛当局間の覚書」に署名するとともに、2020年10月の日越首脳会談では、防衛装備品・技術移転協定について、実質合意した。

このほか、日本国内においても、「防衛装備移転に関するベトナムウェビナー」を2021年3月に開催し、ベトナムとの民間ビジネスの分野での先行事例やベトナムとの防衛装備・技術協力の現状を学ぶことで、ベトナムへの海外移転に関する官民の知識向上を図った。この取組は、2020年12月にインドを対象として開催したウェビナーから数えて、2回目の開催となるものである。

マレーシアとの間では、2018年4月、日マレーシア防衛装備品・技術移転協定¹⁷に署名し、発効した。

インドネシアとの間では、2021年3月に東京で開催された第2回日インドネシア「2＋2」において、日インドネシア防衛装備品・技術移転協定¹⁸に署名し、即日発効した。

このような取組を通じて、人道支援・災害救援や海洋安全保障分野での協力を推進していくこととしている。

参照III部3章1節2項3（東南アジア（ASEAN）諸国）

（4）中東

アラブ首長国連邦との間では、2019年11月、空自C-2輸送機が「ドバイ・エアショー2019」に参加して地上及び飛行展示を実施し、ムハンマド皇太子をはじめとする政府高官が視察した。

ヨルダンとの間では、アブドッラー国王からの要請を受け、2019年8月、ヨルダン王立戦車博物館での展示用として、陸自の退役済み61式戦車1両をヨルダン側に無償で貸し付けた。これに対し、アブドッラー国王より、ヨルダンで開発された装甲車を陸自に贈呈したいとの申し出があり、同月、受領した。同年10月、防衛省において、前述の貸し付け・贈呈にかかる式典を開催し、防衛大臣及びヨルダン駐日特命全権大使によるスピーチ及び覚書の署名・交換が行われた。また、同年11月には、ヨルダン王立戦車博物館において、駐ヨルダン特命全権大使及び同博物館長による貸し付けた陸自61式戦車の除幕及び説明パネルの設置が実施された。

イスラエルとの間では、2019年9月、わが国とイスラエル防衛当局間で提供される、防衛装備・技術に関する秘密情報を適切に保護するため、「防衛装備・技術に関する秘密情報保護の覚書¹⁹」の署名が行われた。

3　開発途上国装備協力規定の新設

わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、わが国と安全保障・防衛上の協力・友好関係にある国が適切な能力を備え、安全保障環境の改善に向けて国際社会全体として協力して取り組む基盤を整えることが重要である。

この点、経済規模や財政事情により独力では十分な装備品を調達できない友好国の中には、以前から、不用となった自衛隊の装備品を活用したいとのニーズがあった。しかし、自衛隊の装備品を含む国の財産を他国に譲渡又は貸し付ける場合には、財政法第9条第1項²⁰の規定により、適正な対価を得なければならないこととされているため、無償又は時価よりも低い対価での譲渡は、法律に基づく場合を除き認められていなかった。

こうした中、友好国のニーズに応えていくため、自衛隊で不用となった装備品を、開発途上地域の政府に対し無償又は時価よりも低い対価で譲渡できるよう、財政法第9条第1項の特例規定を自衛隊法に新設し、2017年6月から施行されている。

なお、この規定により無償又は時価よりも低い対価で譲渡できるようになった場合においても、いかなる場合にいかなる政府に対して装備品の譲渡などを行うかについては、防衛装備移転三原則などを踏まえ、個別具体的に判断されることとなる。また、譲渡した装備品のわが国の事前の同意を得ない目的外使用や第三者移転を防ぐため、相手国政府との間では国際約束を締結する必要がある²¹。

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