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令和3年版防衛白書の刊行に寄せて

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2020年は、新型コロナウイルス感染症により、世界全体がこれまで経験したことのない困難に直面しただけでなく、様々な安全保障上の課題や不安定要因がより顕在化・先鋭化し、これまで国際社会の平和と繁栄を支えてきた普遍的価値に基づく国際秩序が大きな試練に晒される一年になりました。

わが国周辺に目を向けますと、中国は東シナ海や南シナ海において、一方的な現状変更の試みを続けています。わが国固有の領土である尖閣諸島周辺においては、中国海警船がほぼ毎日接続水域において確認されるとともに、わが国領海への侵入を繰り返しています。さらに、領海に侵入した中国海警船が日本漁船へ接近する動きを見せる事案も発生するなど、状況はますます深刻化しています。こうした中、中国は本年2月、あいまいな適用海域や武器使用権限等、国際法との整合性の観点から問題がある規定が含まれる海警法を施行しました。この海警法により、わが国を含む関係国の正当な権益を損なうことがあってはならず、東シナ海や南シナ海などの海域において緊張を高めることになることは断じて受け入れられません。

また、北朝鮮は、極めて速いスピードで弾道ミサイル開発を継続的に進めてきています。2021年に入ってからも新型の弾道ミサイルを発射するなど、核・ミサイル開発を含むその軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっています。

インド太平洋地域は世界の活力の中核であると同時に、このように安全保障面では様々な課題を抱えており、グローバルなパワーバランスの変化の最中にあって、その重要性は増すばかりです。こうした安全保障環境上の課題に対抗していくためには、わが国自身の防衛力を強化し、自らが果たしうる役割を拡大していくことはもちろんのこと、わが国と基本的価値を共有する国々との緊密な連携が不可欠です。

特に、わが国唯一の同盟国である米国との連携は最も重要です。私は、米国の新政権の発足後も、防衛相会談や日米「2+2」などの機会を通じ、日米間の緊密な連携を図ってまいりました。また、バイデン大統領就任後初めての対面での外国首脳との会談として日米首脳会談が行われたことは、米国も日米同盟を非常に重要視していることの現れであると考えています。日米同盟は地域の平和と安全、そして繁栄の礎であり、揺るぎない日米同盟の絆をさらに確固たるものとするべく、同盟の抑止力・対処力の一層の強化に努めてまいります。

また、わが国は、法の支配に基づく自由で開かれた秩序を実現することにより、地域全体、ひいては世界の平和と繁栄を確保していくという考えのもと、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを推進しています。防衛省・自衛隊としても、同盟国である米国だけではなく、オーストラリア、インド、英仏独をはじめとする欧州諸国、カナダ、ニュージーランドなど、わが国が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを共有する国々と積極的に協働し、地域と国際社会の平和と安定により一層貢献してまいります。

わが国は平和国家としての歩みを一歩一歩重ねる中で、自由や民主主義、法の支配、基本的人権の尊重といった普遍的価値の旗を堂々と翻す国となりました。我々は、志を同じくする仲間と手を携え、インド太平洋地域における普遍的価値の旗手として、自由を愛し、民主主義を信望し、人権が守られないことに深く憤り、強権をもって秩序を変えようとする者があれば断固としてこれに反対していかなければなりません。国民の心の奥底まで根付いたこうした価値観まで含めて、日本という国を守っていく、そういう決意でもって、自衛隊員は日々厳しい任務に就いています。

防衛省・自衛隊は、いつ如何なるときも、国の防衛の最前線で真摯に任務に励み、国民の命と平和な暮らし、わが国の領土・領海・領空を守り抜くとの責務を果敢に全うするとともに、地域と国際社会の平和と安定、そして繁栄を確固たるものとすべく全力をあげてまいります。

この白書が、激変する安全保障環境の中にあっても、防衛省・自衛隊にわが国を守り抜く揺るぎない意思と能力があるということを、国民のみなさまにしっかりとご説明するとともに、防衛省・自衛隊の活動や取組についてより一層のご理解を賜るための一助となることを願っております。