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<解説>最近の中国の組織・制度改革等について~海警法をはじめとする法整備を中心に~

中国は、近年、軍をはじめとする様々な組織・制度改革を進めてきました。その背景には、実戦的な統合作戦遂行能力の向上とともに、より実戦的な軍の建設を目的にしているとされています。中国は、今世紀中葉までに中国軍を「世界一流の軍隊」にするとの目標を掲げています。また、中央軍事委員会、ひいては軍に対する習総書記の権力の一層の掌握といった観点からも、一連の改革を推進してきたとも言われています。

中国は、こうした軍の組織・制度改革の一環として、各種法整備も実施してきました。とりわけ、2020年6月には「中華人民共和国人民武装警察法(武警法)」が、12月には「中華人民共和国国防法(国防法)」が改正され、2021年1月には「中華人民共和国海警法(海警法)」が新規に制定されました。これは、一連の改革を法的にも裏付けるものとみられます。例えば、2015年末には宇宙・サイバー・電子戦に関する任務を担当しているとみられる戦略支援部隊が設立されていますが、改正国防法では、防衛領域として領土・領海・領空だけでなく、宇宙・電磁・サイバー空間が新たに「重大安全保障領域」として追加されています。また、同法では、防衛対象として主権や領土だけではなく「発展利益」が追加され、これらが脅威を受けた場合、国防動員も可能とされており、中国軍の活動領域の拡大がみてとれます。

こうした一連の法整備において、海警法をはじめ、中国の海上法執行機関である海警をめぐる法整備については、その内容から、内外で多くの関心が集まっています。

具体的にみると、2018年、海警を中央軍事委員会の一元的な指揮を受ける武警の隷下へ編入したことを受け、改正武警法で、武警の任務に「海上権益擁護・法執行」が追加されるとともに、武警は、党中央、中央軍事委員会が集中・統一的に指導することが明記されました。

また、新たに制定された海警法では、中国の「管轄海域及びその上空」において「海上権益擁護・法執行活動を展開し、本法律を適用する」との規定がありますが、この「管轄海域」の範囲が明確に示されていません。国連海洋法条約では内水、領海、接続水域、排他的経済水域、大陸棚といった海域ごとに認められる沿岸国の権利を規定しており、仮に中国が同条約によって主権や主権的権利、管轄権を認められていない事項について海警法を執行すれば、国際法に違反することとなります。

さらに、海警機構について、「外国軍船舶及び非商業目的に使用される外国政府船舶の違反行為に対して警戒及び管制措置を講じて制止し、関連する海域から直ちに退去することを命じる権利を有する」とし、「退去を拒否するとともに重大な危害又は脅威を発生せしめたものに対して、即刻退去、強制退去、強制引き離し等の措置を講じる権利を有する」ことや、「国家の主権、主権的権利及び管轄権が海上において外国組織及び個人の違法な侵害を受ける場合」に、「武器の使用を含む一切の必要な措置を講じ」る権利について規定されています。

海警は、人民解放軍や民兵と同様中国の「武装力」の1つとして定義される武警の隷下にあり、人民解放軍との関係が注目されています。中国国防白書(2019年)によると、「武警は人民解放軍の序列には入らない」としており、武警と軍を明確に区別するとしています。また、中国外交部報道官は、今回の海警法制定について、法執行のための法的根拠を確保するものであり、中国全人代の通常の立法活動に過ぎず、海洋政策は変わっていないとも説明しています。一方で、海警法は、前述のとおり、曖昧な適用海域や武器使用権限等、国際法との整合性の観点から問題がある規定を含むほか、海警が「法執行活動」に加え「防衛作戦等の任務を遂行する」旨の規定もみられます。

中国が東シナ海や南シナ海において、一方的な現状変更の試みを継続・強化している中、海警法によって、わが国を含む関係国の正当な権益を損なうことがあってはならず、また、東シナ海や南シナ海などの海域において緊張を高めることになることは全く受け入れられません。こうしたわが国の強い懸念については、中国側に対してもしっかり伝えてきています。

こうした中、周辺国であるベトナムでは、海警法について問われた外務省報道官が「ベトナムは関係国に対して、南シナ海におけるベトナムの主権、主権的権利、管轄権を尊重し、責任を持って、また誠実に、国際法及び国連海洋法条約を履行し、緊張を高める行動を避けるよう求める。」などとコメントしています。また、フィリピン外相も海警法に関して外交的抗議を行ったことを明らかにしています。さらに、米国も国務省報道官がコメントを発表するなど、海警法に関する懸念を表明しており、2021年3月に行われた日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)においては、東シナ海及び南シナ海を含め、現状変更を試みるいかなる一方的な行動にも反対するとともに、中国による海警法に関する深刻な懸念を表明しました。

各国の中国に対する懸念を払拭するためにも、今後、具体的かつ正確な対外説明などを通じて透明性を高めていくことが強く望まれます。わが国としても、一連の法整備及びその運用を含め、中国側の組織・制度改革の動向を、しっかり見極める必要があります。

2018年1月武警部隊に対する隊旗授与式【Avalon/時事通信フォト】

2018年1月 武警部隊に対する隊旗授与式【Avalon/時事通信フォト】