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<解説>北朝鮮の弾道ミサイル能力

北朝鮮は、既にわが国を射程に収めるノドンやスカッドERといった弾道ミサイルを数百発保有しており、これらの弾道ミサイルに核兵器を搭載してわが国を攻撃する能力を既に保有しているとみられます。こうした軍事動向は、わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損なうものとなっています。

さらに、北朝鮮は、従来からの弾道ミサイル能力に加え、ここ数年間で、弾道ミサイル技術や運用能力を極めて速いスピードで向上させています。

2019年5月以降、発射が繰り返されている3種類の新型の短距離弾道ミサイルは、固体燃料の使用、低空での飛翔、変則的な飛翔軌道など、発射の兆候把握や早期探知、迎撃を困難にさせる技術を導入しているとみられます。これらの新型短距離弾道ミサイルは、射程にかんがみれば、もっぱら韓国を標的としたものであると考えられますが、このような技術がより射程の長いミサイルに応用されていく可能性は十分にありえます。さらに、2021年3月に発射された弾道ミサイルについても、北朝鮮は変則的な軌道特性を有すると主張しています。

また、2019年10月に北朝鮮は、新型の「北極星3」型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射しました。SLBMの開発は、発射の兆候把握をより困難にし、奇襲的な攻撃能力を向上させうるものです。その後、SLBMの発射はありませんが、2020年10月及び2021年1月の軍事パレードにおいて、本体に「北極星4」や「北極星5」の記載がある新型のSLBMの可能性があるものが登場しており、また、SLBMを搭載可能とみられる新型の潜水艦開発を行っているとの指摘もあり、北朝鮮は引き続きこの分野の開発も継続しているとみられます。

このように、北朝鮮は、従来のノドンやスカッドERに加え、迎撃がより困難な弾道ミサイルを開発してきました。さらに、2021年1月の朝鮮労働党第8回大会で金正恩委員長が、多弾頭技術、「極超音速滑空飛行弾頭」、原子力潜水艦、固体燃料推進のICBMなど、迎撃を一層困難にしうる技術の開発や研究の推進に言及しました。こうした弾道ミサイル能力向上の取組が継続すれば、地域の安全保障環境の不安定化を招く懸念があります。

わが国として北朝鮮の核保有を認めることは決してなく、北朝鮮の全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な廃棄の実現に向け、引き続き国際社会全体が国連安保理決議の完全な履行を進めていくことが重要です。

2021年1月の軍事パレードに登場した新型SLBMの可能性があるもの【EPA=時事】

2021年1月の軍事パレードに登場した新型SLBMの可能性があるもの【EPA=時事】