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<解説>韓国の軍備増強と国防予算

韓国は、朝鮮戦争を機に、軍の作戦統制権を米軍に移譲し、国防の大部分を米軍に依存しつつ、自らは北朝鮮の膨大な軍事力に備えるため、「量」を重視した陸軍中心の軍を構築してきました。しかし、2000年代以降、韓国は、「自主国防」「3軍(陸・海・空軍)均衡発展」の方針のもと、北朝鮮の脅威のみならず、「全方位の脅威」に備えた「質」とバランスを重視した陸・海・空軍を整備し、保有するようになりました。最近では、イージス艦やF-35A戦闘機などの最新装備のほか、弾道ミサイルや巡航ミサイルも保有するようになり、独自の攻撃力を持つ軍隊に変貌しました。2020年7月には「世界最大水準の弾頭重量を備えた弾道ミサイル」(玄武4)を開発したことが文大統領によって明らかにされました。

さらに、韓国軍が2020年8月に発表した「2021-2025国防中期計画」によれば、韓国軍は、新型イージス艦、潜水艦、軽空母、次期国産戦闘機といった最新兵器の獲得のほか、超小型衛星、無人機などによる朝鮮半島の準リアルタイム監視網の構築、独自の弾道弾迎撃ミサイルや北朝鮮の長射程砲を迎撃する韓国型アイアンドームの開発・獲得などを計画しています。同計画による全体の予算は5年間で計300.7兆ウォン(約28.6兆円、年平均6.1%増)となっています。また、報道によれば、原子力潜水艦や潜水艦発射弾道弾の開発計画も指摘されています。

こうした装備品開発・取得のため、韓国の国防予算は2000年以降、22年連続で増加しており、2018年には購買力平価(各国でどれだけの財やサービスを購入できるかを、各国の物価水準を考慮して評価したもの)換算で506億ドルと、わが国の防衛予算494億ドルをすでに上回っています。仮に、将来の日韓の防衛予算を、わが国の中期防衛力整備計画における当初予算の伸び率1.1%と、韓国の国防中期計画における伸び率6.1%で試算すると、2025年にその差は約1.5倍に広がります。

韓国による最近の急激な軍備増強の背景には、「だれも見くびることができない」強い軍隊を作りたい、独自に作戦を遂行できる能力を備えて戦時作戦統制権を米軍から韓国軍に早期に移管したいという文大統領の考えがあるとされています。また、北朝鮮との対話を進めるため、北朝鮮のみならず「全方位」の脅威への対応を強調しているとの指摘もあります。

文大統領は、朝鮮半島の緊張緩和は、ツー・トラック、すなわち、米朝による非核化と南北による通常兵器の緊張緩和によって実現するとして、非核化の進展により、長射程砲と短距離ミサイルなどの軍縮段階にまで進められるとしています。しかし、これまでのところ進展はなく、むしろ金正恩委員長が韓国の最新兵器の獲得、ミサイルの開発を非難する一方、核・ミサイル開発を継続し、南北双方の軍備増強が急速な勢いで続いているのが現状です。