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<解説>ナゴルノ・カラバフをめぐる軍事衝突

2020年9月27日早朝、コーカサス地域にあるアゼルバイジャンとその領内のアルメニア系住民居住地域「ナゴルノ・カラバフ」(下欄参照)との境界一帯の複数の地点で軍事衝突が発生し、その後44日間にわたり、アゼルバイジャン・アルメニア両国の間で、民間人を含む多数の死傷者(約7,000人)を伴う紛争に発展しました。

戦闘では、当初こそアゼルバイジャン側の機動部隊に多くの被害が出たものの、戦局はアゼルバイジャン側に優位に進み、ナゴルノ・カラバフの南部や、これまでアルメニアが占拠していた領土の多くを掌握しました。その理由のひとつとして、無人機(UAV)の活用が指摘されています。アゼルバイジャン軍はイスラエル製及びトルコ製のUAVを極めて効果的に運用し、これが戦果に大きく貢献したとみられています。

アゼルバイジャン軍は、保有する旧ソ連製の輸送機を囮役として大量にアルメニアの防空網に進入させ、飽和攻撃を仕掛けると同時に、イスラエル製自爆型UAV「ハロップ」を投入し、アルメニアの主要な防空アセットであるロシア製地対空ミサイル・システムS-300陣地を破壊したとされています。このようにしてアルメニアの防空網を制圧したうえで、トルコ製攻撃型UAV「バイラクタルTB2」を投入し、敵の地上戦力を破壊したとみられています。アゼルバイジャン国防省が、無人機からの空撮映像をソーシャル・メディアに投稿したことから、その様子は世界中で広く知られることとなりました。

今般のナゴルノ・カラバフでの軍事衝突は、局地戦とはいえ、正規軍同士の戦闘においてUAVが本格運用された初めての例であり、アルメニアに対するUAV使用におけるアゼルバイジャンの成功は、トルコ製やイスラエル製UAVに対する明らかな宣伝となりました。事実、ロシアと紛争状態にあるウクライナは、2020年11月、トルコから「バイラクタルTB2」の追加購入を決定しています。

今回の戦闘でアゼルバイジャン軍が使用したような攻撃型UAVは、イスラエルやトルコのほかに、中国やイランも製造・輸出しており、使用側に人命リスクがなく、巡航ミサイルなどの攻撃兵器に比べ安価であることから、急速に普及しています。近い将来、あらゆる戦闘において、これらのUAVが使用されることが予想され、各国は様々な無人機を駆使した新たな戦闘様相への対処が求められています。

アゼルバイジャン側に対し砲撃するナゴルノ・カラバフ軍兵士(2020年9月)【AFP=時事】

アゼルバイジャン側に対し砲撃するナゴルノ・カラバフ軍兵士(2020年9月)
【AFP=時事】

トルコ製UAV「バイラクタル TB2」【BAYKAR】

トルコ製UAV「バイラクタル TB2」
【BAYKAR】

ナゴルノ・カラバフとは:

アゼルバイジャン領内のアルメニア系住民居住地域で、アルメニア語では「アルツァフ」と呼称される。ソ連時代末期の1988年、アゼルバイジャン領内の自治州であったナゴルノ・カラバフが、アルメニアへの編入を求める運動を展開。アルメニアとアゼルバイジャンとの間の対立が激化し、紛争に発展。1991年、アルメニア系住民が「ナゴルノ・カラバフ共和国」独立を宣言。アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフほぼ全域及び周辺地域の支配を失い、1994年に停戦合意。これまで、米国、フランス、ロシアが共同議長を務める欧州安全保障協力機構(OSCE)ミンスク・グループの仲介によって解決に向けた直接対話が行われる一方、散発的に大規模な軍事衝突が発生していた。2020年9月27日以降の軍事衝突については、同年11月にロシアによる仲介により停戦合意に至った。停戦合意により、アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフの一部及び周辺地域の支配を回復したものの、ナゴルノ・カラバフの法的地位については未解決となっている。

ナゴルノ・カラバフをめぐる軍事衝突