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第III部 わが国防衛の三つの柱(防衛の目標を達成するための手段)

2 国連平和維持活動などへの取組

国連PKOは、世界各地の紛争地域の平和と安定を図る手段として、伝統的な停戦監視などの任務に加え、近年では、文民の保護(POC:Protection of Civilian)、政治プロセスの促進、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR:Disarmament, Demobilization and Reintegration)、治安部門改革(SSR:Security Sector Reform)、法の支配、選挙、人権などの分野における支援などを任務とするようになっている。現在、12の国連PKOが設立されている(2021年3月末現在)。

また、紛争や大規模災害による被災民などに対して、人道的な観点や被災国内の安定化などの観点から、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:Office of the United Nations High Commissioner for Refugees)などの国際機関や各国政府、非政府組織(NGO:Non-Governmental Organization)などにより、救援や復旧活動が行われている。

これまで、わが国は、25年以上にわたって、カンボジア、ゴラン高原、東ティモール、ネパール、南スーダンなど、様々な地域において国際平和協力業務などを実施しており、その実績は内外から高い評価を得ている。

現在、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS:United Nations Mission in the Republic of South Sudan)に引き続き司令部要員を派遣しているほか、平和安全法制の施行により、国際連携平和安全活動への参加が可能となり、2019年4月には多国籍部隊・監視団(MFO:Multinational Force and Observers)への司令部要員の派遣を開始した。

今後も国際平和協力活動については、これまでに蓄積した経験を活かし、人材育成などに取り組みつつ、現地ミッション司令部要員などの派遣やわが国が得意とする分野における能力構築支援などの活動を通じ積極的に貢献していくこととしている。

1 多国籍部隊・監視団(MFO Multinational Force and Observers)への派遣
(1)MFOへの派遣の意義など

1981年8月、MFOは、「エジプト・アラブ共和国とイスラエル国との間の平和条約の議定書」により、平和条約に定められた国際連合の部隊及び監視団の任務及び責任を代替する機関として設立された。MFOは、1982年の活動開始以来、エジプトとイスラエルとの間の対話や信頼醸成の促進を支援することにより、わが国の「平和と繁栄の土台」である中東の平和と安定に貢献してきた。

このような中、MFOからわが国に対し、要員の派遣について要請があり、わが国としても、国際平和のための努力に対し人的な協力を積極的に果たしていくため、2019年4月、シナイ半島国際平和協力業務の実施について閣議決定し、初めての国際連携平和安全活動としてMFOへの司令部要員2名の派遣を開始した。

MFOにおいて活動する陸自隊員(2020年6月)

MFOにおいて活動する陸自隊員(2020年6月)

参照1章5節3項(その他の取組・活動など)

(2)司令部要員などの活動

司令部要員2名は、シナイ半島南部シャルム・エル・シェイクの南キャンプに所在するMFO司令部において、エジプト及びイスラエルの政府その他の関係機関とMFOとの連絡調整に従事する連絡調整部の副部長及び部員として勤務している。

また、MFOに派遣された司令部要員2名が円滑かつ効果的に活動を行えるよう、派遣先国において関係機関との連絡・調整などを行うため、カイロに連絡調整要員1名を派遣している。

この活動を通じ、中東の平和と安定へのわが国の一層積極的な関与の姿勢を示すことになるほか、米国などの他の要員派遣国との連携の促進にもつながり、人材育成の新たな機会となることも期待される。

参照図表III-3-5-2(MFO活動の概要及び関連地図)
図表III-3-5-3(MFO組織図)

図表III-3-5-2 MFO活動の概要及び関連地図

図表III-3-5-3 MFO組織図

2 国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS United Nations Mission in the Republic of South Sudan)
(1)UNMISSへの派遣の意義など

2011年7月、南スーダン独立に伴い、平和と安全の定着や南スーダンの発展のための環境構築の支援などを目的として、UNMISSが設立された。わが国は、国連からのUNMISSに対する協力、特に陸自施設部隊の派遣要請を受け、同年11月に司令部要員2名(兵站幕僚及び情報幕僚)の派遣、同年12月には自衛隊の施設部隊、現地支援調整所(当時)及び司令部要員1名(施設幕僚)などの派遣、2014年10月には司令部要員1名(航空運用幕僚)の派遣をそれぞれ閣議決定した。

南スーダンは6つの国と国境を接し、アフリカ大陸を東西南北に結ぶ、極めて重要な位置にある。南スーダンの平和と安定は、南スーダン一国のみならず、周辺諸国の平和と安定、ひいてはアフリカ全体の平和と安定につながるものであり、かつ国際社会で対応すべき重要な課題である。防衛省・自衛隊は、これまでの国連PKOにおいて実績を積み重ね、国連も高い期待を寄せているインフラ整備面での人的な協力を行うことで、同国の平和と安定に貢献してきた。

UNMISSにおいて業務調整する陸自隊員(2020年11月)

UNMISSにおいて業務調整する陸自隊員(2020年11月)

参照I部2章10節9項(南スーダン情勢)

(2)派遣施設隊の活動

派遣施設隊は、2012年3月にジュバの国連施設内での施設活動を開始して以降、順次活動を拡大し第2次要員への交代以後は300名を超える規模を維持し、安全を確保しながら道路の補修や避難民向けの施設構築を行うなど、意義のある活動を行ってきた。

わが国として、自衛隊が担当するジュバにおける施設活動について一定の区切りをつけることができたことなどを総合的に勘案した結果、2017年3月、同年5月末をもって自衛隊の施設部隊による活動を終了することを決定した。要員は撤収作業に従事した後、南スーダンから順次撤収し、UNMISSにおける施設部隊による業務を終結した。活動終了時点において、派遣施設隊による道路補修は延べ約260km、用地造成は延べ約50万m2になるなど、これまでのわが国PKO活動の中で、最大規模の実績となった。

なお、国連から、道路の維持補修などに活用するため派遣施設隊が保有する重機、車両、居住関連コンテナなどの物品の譲渡要請があったことから、わが国によるUNMISSへの協力をさらに効果的なものにするため、これらの物品を無償でUNMISSに譲渡した。また、この譲渡に先立ち、UNMISSの要請を受け、日本隊撤収後もUNMISSがこれらの重機などを用いて円滑に活動を行えるよう、UNMISS職員に対し重機などの操作や整備に関する教育を行った。

派遣施設隊のこうした献身的な活動は、国連及び南スーダンから感謝され、高い評価を受けた。

(3)司令部要員などの活動

UNMISS司令部に対する要員派遣は継続しており、現在、陸上自衛官4名(兵站幕僚、情報幕僚、施設幕僚、航空運用幕僚)がUNMISS司令部において活動を実施している。兵站幕僚はUNMISSの活動に必要な物資の調達・輸送、情報幕僚は治安情勢にかかる情報の収集・整理、施設幕僚はUNMISS全体の施設業務にかかる企画・立案、航空運用幕僚はUNMISSが運航する航空機の飛行計画の作成などといった業務を行っている。

さらに、司令部要員の活動を支援するため連絡調整要員1名を在南スーダン連絡調整事務所に派遣している。連絡調整要員は、わが国のUNMISSに対する協力を円滑かつ効率的に行うことを目的として、南スーダン政府などと南スーダン国際平和協力隊との間の連絡調整にあたっている。

このように、わが国は引き続き、UNMISSの活動に貢献していくこととしている。

参照1章5節3項(その他の取組・活動など)
図表III-3-5-4(UNMISSの組織)

図表III-3-5-4 UNMISSの組織

3 国連事務局への防衛省職員の派遣

防衛省・自衛隊は、国連の国際平和に向けた努力に積極的に寄与し、また、派遣された職員の経験をわが国のPKO活動への取組に活用することを目的に、国連事務局へ職員を派遣している。2021年3月現在、1名の自衛官(担当級)が国連平和活動局において国連PKOの方針や計画の作成などに関する業務を行っているほか、1名の自衛官及び1名の事務官(ともに担当級)が国連活動支援局において国連三角パートナーシップ・プロジェクト(UNTPP:UN TPP United Nations Triangular Partnership Project)3に関する業務を行っている。

また、2002年12月以降、現在派遣中の職員を含め、これまでに国連平和活動局に延べ7名(課長級1名、担当級6名)の自衛官を、国連活動支援局に延べ4名(いずれも担当級)の自衛官及び事務官を派遣した。

参照資料47(国際機関への防衛省職員の派遣実績)

4 PKO訓練センターへの講師などの派遣

防衛省・自衛隊は、アフリカ諸国などの平和維持活動における自助努力を支援するため、PKO要員の教育訓練を行うアフリカなどに所在するPKO訓練センターなどに自衛官を講師などとして派遣しており、これらPKO訓練センターの機能強化を通じ、アフリカなどの平和と安定に寄与している。

参照資料47(国際機関への防衛省職員の派遣実績)

5 国連三角パートナーシップ・プロジェクト(UN TPP United Nations Triangular Partnership Project)への支援

わが国は、これまでPKOの円滑化に欠かせない施設や輸送の分野で確かな信頼を得てきた。今後とも、PKOの早期展開を支援し、質の高い活動を実現するため、2014年9月のPKOサミットにおいて、わが国は積極的な支援を表明し、本プロジェクトによって具体化された。

本プロジェクトは、わが国が拠出した資金を基に、国連活動支援局が重機の調達や工兵要員への訓練を実施するものとして始動した。2015年9月の試行訓練以来、ナイロビ(ケニア)にある国際平和支援訓練センターに自衛官を教官として派遣しており、2018年6月から10月には同訓練センターにおいて、被教育者の重機の操作練度に応じて効率的かつ多くの隊員を訓練することとし、これに自衛官を派遣し、アフリカ各国軍の要員に対して施設器材の操作訓練を実施した。

2019年8月から11月にかけて、ウガンダ軍の工兵要員に対し、2回の重機の操作及び整備の訓練を実施したが、これはウガンダ軍早期展開能力センターにおいて実施された初めての訓練であった。プロジェクトの開始から2021年3月までに、延べ164名の陸上自衛官をアフリカに派遣し、9回の訓練を、アフリカの8か国277名の要員に対して実施してきている。

また、PKO要員の30%以上がアジアから派遣されていることを踏まえ、工兵要員に対する重機の操作訓練を実施する本プロジェクトを初めてアジア及び同周辺地域で行うこととした。2018年の試行訓練以来、ハノイにあるベトナム軍駐屯地に陸上自衛官を教官として派遣しており、2019年10月から12月には同駐屯地において、ベトナム軍の工兵に対し、施設器材の操作訓練を実施した。また、2020年2月から3月にかけて、アジア各国軍の要員に対し、施設器材操作の教官養成訓練を実施した。プロジェクトの開始から2021年3月までに、延べ66名の陸上自衛官をベトナムに派遣し、アジア及び同周辺地域の9か国56名の要員に対して、計3回の訓練を実施した。

また、国連PKOにおいて、派遣要員の安全確保のための衛生能力強化が課題となっていることを踏まえ、国連が本プロジェクトでの支援の枠組みを衛生分野にも拡大することとなった。これを受けて、PKOの活動地域で衛生科隊員又は医療従事者が専門的な治療を行う前に、応急処置を実施できる要員の育成を目的とした国連野外衛生救護補助員コース(UNFMAC:UN Field Medical Assistant Course)が2019年10月に実施され、陸上自衛官を教官として派遣した。同コースではウガンダにある国連エンテベ地域支援センターにおいて、陸上自衛官2名を含む教官8名が、要員29名を対象に教育を実施した。

6 国連PKO工兵部隊マニュアルの改訂

防衛省・自衛隊は、国際平和協力活動において、より主導的な役割を果たすため、2013年以降、国連が進める国連PKO部隊マニュアル4の策定を支援することを目的に、工兵(施設)に関する分科会の議長国を務め、国連PKO工兵部隊マニュアルの完成に寄与した。

国連より、同マニュアルを改訂するにあたり、再度議長国就任の依頼を受けた。防衛省・自衛隊にとって、これまでのPKOミッションなどへの派遣を通じて蓄積した経験・能力を活かした貢献を実施できる有意義な機会であり、工兵部隊マニュアルの改訂を担う議長国に再度就任することとした。マニュアル改訂作業のために、2018年12月、東京において第1回の専門家会合が開かれて以降、これまで計4回の専門家会合を経て改訂作業を終了し、2019年7月、改訂した工兵部隊マニュアルを国連に提出した。

防衛省・自衛隊としては、同マニュアルの普及に向け支援していくこととしている。

3 国連、国連PKOの要員派遣国及び技術や装備を有する第三国間の協力により、国連PKOの要員派遣国の要員の能力向上を支援するパートナーシップ

4 国連は、PKO派遣部隊に求められる能力の明確化と参加国の理解促進を目的として、職種ごとに、その目的、能力、任務などを規定するマニュアルを作成しており、PKO工兵部隊マニュアルはその1つである。国連PKOマニュアルは、工兵以外に、憲兵、航空、海上、河川、通信、特殊部隊、輸送、兵站及び司令部支援の計10個の分野が存在している。