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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

8 アフガニスタン情勢

アフガニスタンでは、2014年12月にISAFが撤収し、アフガニスタン治安部隊(ANDSF:Afghan National Defense and Security Forces)への教育訓練や助言などを主任務とするNATO主導の「確固たる支援任務(RSM:Resolute Support Mission)」が開始された頃から、タリバーンが攻勢を激化させた。一方、ANDSFは兵站、士気、航空能力、部隊指揮官の能力などの面で課題を抱えており、こうした中でタリバーンは国内における支配地域を拡大させてきた。さらに、2015年以降、ISIL「ホラサン州」は、首都カブールや東部を中心にテロ活動を継続している。その結果、各地でタリバーンやISILが関与したとみられる自爆テロや襲撃が相次いでおり、全土において不安定な治安情勢が継続している。2018年10月に発表された米国のアフガニスタン復興特別査察官の報告書によると、アフガニスタン政府の支配あるいは影響が及んでいる地域は国内の約55.5%であり、調査が開始された2015年12月以降、最も少なくなっている。

2018年秋以降、米国はハリルザード和平担当特別代表を任命し、タリバーンとの和平協議を実施してきた。その協議は2019年9月から3か月間停止するなど曲折もみられたが、2020年2月、米国とタリバーンとの間で、駐アフガニスタン米軍の条件付き段階的撤収及びアフガニスタン人同士の交渉開始などを含む合意が署名され、同年3月、米国は、米軍の撤収を開始したと発表した。また、同月、国連安全保障理事会はその合意を支持する決議を全会一致で採択した。その合意に基づき、信頼醸成措置としてアフガニスタン政府とタリバーンの間で囚人・捕虜の相互解放が実現され、同年9月、アフガニスタン政府とタリバーンによる和平交渉がカタールで開始された。しかし、タリバーンは、依然としてアフガニスタン治安部隊への攻撃を継続しており、一部地域で暴力行為が激化している。米国は、2021年1月までに駐留米軍を2,500人に縮小し、同年4月、バイデン米大統領は、同年9月11日までに駐留米軍を撤収させると発表した。

こうした状況の中、2019年9月のアフガニスタン大統領選挙で再選されたガニ大統領は、2020年3月、大統領就任式を行ったが、同選挙に不正があったと訴えるアブドッラー前行政長官が独自に大統領就任式を挙行し、政治的な混乱を招いた。しかし、同年5月、両者の間で包摂的な政府を樹立するための合意がなされ、アブドッラー氏がタリバーンとの和平交渉で主導的な役割を担うことになった。

今後の米国とタリバーンの合意やアフガニスタン和平交渉の進捗状況が注目される。