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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

6 リビア情勢

リビアでは、2011年にカダフィ政権が崩壊した後、2012年7月に制憲議会選挙が実施され、イスラム主義派が主体となる制憲議会が発足した。そして、2014年6月、制憲議会に代わる新たな議会を設置するための代表議会選挙が実施されたが、世俗派が多数派となったため、代表議会への権限移譲をめぐりイスラム主義派と世俗派の間の対立が激化した。その結果、首都トリポリを拠点とするイスラム主義派の制憲議会と、東部トブルクを拠点とする世俗派の代表議会の2つの議会が並立する東西分裂状態に陥った。2015年12月に国連の仲介によりリビア政治合意が実現し、その合意に基づく統一政府「国民合意政府」(GNA:Government of National Accord)が発足したものの、新政府内でイスラム主義派が主導権を握ったことに世俗派が反発し、GNAへの参加を拒否したため、東西の分裂状態が継続している。また、東部と西部をそれぞれ支援する民兵が散発的な軍事衝突を繰り返しているほか、2018年9月には、同国西部で活動する民兵同士が衝突し、非常事態宣言が出された。さらに2019年4月には、東部側最大の勢力であるハフタル総司令官の部隊「リビア国民軍」(LNA:Libya National Army)が首都トリポリ郊外に進軍、西部側GNA傘下の民兵と衝突し、空爆の応酬にまで発展した。

東西の両勢力が関係国から無人機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)などの軍事支援を受けていたことも、戦況が激化する要因となったとの指摘もあり、両勢力の闘いは「ドローン戦争」とも形容された6。また、ロシアの民間軍事会社の傭兵がリビアに派遣され、LNAを支援しているとの指摘があるほか、トルコはGNAの要請に基づき、トルコ軍部隊及び同国が支援するシリア人戦闘員をリビアに派遣している。

こうした中、2020年1月、リビアに関する国際会議がベルリンで開催された。その会議には、米英仏を含む欧米諸国やトルコのほか、LNAを支援しているとされるUAE及びエジプトなどの関係国が参加し、停戦に向けた協力強化、リビアへの軍事介入停止、武器禁輸の徹底などで合意した。

しかし、以降も戦闘は継続し、トルコの支援強化を受けたGNA側の部隊が反攻を強めた。その結果、2020年6月、GNAはトリポリ全域の支配を取り戻したと発表した。その後、戦線が膠着状態となる中、同年8月、東西両勢力は個別に即時停戦を呼びかけ、同年10月、GNA側とLNA側の代表との間で恒久的停戦合意が署名された。さらに翌月には東西両勢力間で国連主導の政治対話が始まり、2021年3月には暫定国民統一政府が承認され、国内の統治及び治安の確立に向けて具体的な成果が得られるかが注目される。

さらに、こうした不安定な情勢を利用してISILやアルカイダなどのテロ組織が進出し、各地で民兵と衝突している。特にISILについては、南部の砂漠地帯を中心に、複数の小規模なグループに分かれて潜伏しているとみられており、首都トリポリなどにおいて自爆テロや襲撃事件を行うなど、今後もテロが発生する可能性がある。

6 国連安保理決議第1973号に基づくリビア専門家パネル最終報告書(2019年12月9日付)による。