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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

4 北方領土におけるロシア軍

旧ソ連時代の1978年以来、ロシアは、わが国固有の領土である北方領土のうち国後島、択捉島と色丹島に地上軍部隊を再配備してきた。その規模は、ピーク時に比べ大幅に縮小した状態にあると考えられるものの、現在も1個師団が国後島と択捉島に駐留しており、戦車、装甲車、各種火砲、対空ミサイルなどが配備されている。

ロシアは近年北方領土における軍事施設地区の整備を進めているほか、最新の装備を配備する傾向にある。2016年には、択捉島及び国後島への沿岸(地対艦)ミサイル配備を発表した。さらに、2018年1月には、択捉島の軍用飛行場である天寧飛行場に加え、2014年に開港した新民間空港が軍民共用となり、同年8月には同空港にSu-35戦闘機が3機配備されたと伝えられている。

地上軍の装備では、2018年までに最新型の主力戦車「T-72B3」の配備が確認されている。また、2015年以降、地上軍部隊の演習に最新型の中型偵察用無人機「オルラン-10」が使用されていることが確認されている。さらに、2020年12月、ロシア国防省系メディアは、択捉島及び国後島への地対空ミサイル・システム「S-300V4」(最大射程400km)の実戦配備を報じた。

中型偵察用無人機「オルラン-10」【ロシア国防省】

中型偵察用無人機「オルラン-10」
【ロシア国防省】

地上配備電子戦(EW)システム「Leer-3」【ロシア国防省公式Youtubeチャンネル】

地上配備電子戦(EW)システム「Leer-3」
【ロシア国防省公式Youtubeチャンネル】

最新型主力戦車「T-72B3」

最新型主力戦車「T-72B3」

【ロシア国防省】

諸元、性能

速度:最大時速65km
主要兵装:125mm滑腔砲

概説

「T-72」の近代化改修型。火力、防護力及び機動力が大きく向上しているとされる。

地対空ミサイル・システム「S-300V4」

地対空ミサイル・システム「S-300V4」

【ロシア国防省】

諸元、性能

最大射程:400km
最大高度:37km

概説

ステルス航空機対処能力を持つとされる防空ミサイル。

北方四島での軍事演習も継続して行われており、2020年9月及び2021年2月、択捉島及び国後島で対着上陸演習が実施された。これらの演習には東部軍管区の兵員1,000~1,500人と約200~300の装備・機材が参加した。

このように、ロシアは、わが国固有の領土である北方領土においてロシア軍の駐留を継続させ、事実上の占拠のもとで、昨今、その活動をより活発化させているが、こうした動向の背景として、ウクライナ危機などを受けて領土保全に対する国民意識が高揚していることや、SSBNの活動領域であるオホーツク海に接する北方領土の軍事的重要性が高まっていることなどについての指摘がある。

引き続き北方領土を含む極東におけるロシア軍の動向を注視していく必要がある。