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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

第5節 ロシア

1 全般

これまで「強い国家」や「影響力ある大国」を掲げ、ロシアの復活を追求してきたプーチン大統領は、2018年に再選を果たした。同大統領は同年5月の就任演説において、ロシアが強く、積極的で、かつ影響力を有する国際社会の一員であり、国家の安全と防衛力は確実に保障されていると述べたほか、生活の質、幸福、安全、健康が重要事項であると言及し、ロシアは歴史的に何度も不死鳥のごとく復活してきたとして、今後の躍進を確信している旨表明した。

同年3月、大統領選挙前に行われた年次教書演説で、プーチン大統領は「今日のロシアは強力な対外的経済力と防衛力を持つ主要な大国の一つである」と述べたほか、戦略核戦力をはじめとする装備の近代化や米国内外におけるミサイル防衛システム配備への対抗手段としての新型兵器開発について強調した。そのうえで、ロシアの軍事力が世界の戦略的な均衡の維持につながっているとの認識を示し、国際安全保障及び文明の持続的発展の新たなシステム構築に向けて交渉する用意がある旨表明している。

米国との間で戦略核戦力の削減目標を規定した新戦略兵器削減条約(新START)は、期限切れ間近の2021年1月末、プーチン大統領と新たに大統領に就任したバイデン米大統領との初の電話会談において5年間の延長が合意された。

その一方、プーチン大統領は、国防省および軍需企業の幹部との会議(2020年11月)において、核の三本柱は依然としてロシアの軍事的安全やグローバルな安全保障に関する最重要の保証でもある旨発言し、ロシアは今後も戦略的核兵器の近代化に取り組む姿勢を明確にしている。

国防省および軍需企業の幹部との会議(2020年11月)において演説するプーチン大統領(2020年11月)【ロシア大統領府】

国防省および軍需企業の幹部との会議(2020年11月)において演説する
プーチン大統領(2020年11月)【ロシア大統領府】

2014年のウクライナ危機以降、ロシアは主要7か国首脳会議(G7サミット)の参加資格停止や経済制裁など、対外的に厳しい状況におかれているが、経済面では、輸入代替が進むなど制裁への抗たん性を高めているほか、外交面では、上海協力機構(SCO)や新興国5か国(BRICS)など欧米諸国が参加しない多国間外交の場やG20などで存在感を示している。軍事分野においては、シリアへの軍事介入やリビア内紛への関与を通じて中東・北アフリカ地域への影響力を拡大させているほか、シリアやスーダンにロシア海軍の拠点を確保するなど、遠隔地への軍の展開能力を高めつつある。また、武器輸出分野においても、NATO加盟国であるトルコや東南アジア諸国に対して最新兵器の売り込みを図るなど、輸出先の拡大を図っている。

内政面では、2020年8月に起きた反体制派指導者ナヴァリヌィ氏の毒殺未遂事件及びその後のロシア当局による同氏の身柄拘束をめぐり、ロシア全土に大規模な抗議活動が広がった。抗議参加者の要求は、同氏の釈放のみならず、一部ではプーチン大統領の退陣にも及んだ。また、ドイツ政府が、ナヴァリヌィ氏を治療したドイツの病院の報告に基づき、同氏の体調不良が軍用神経剤「ノビチョク」系毒物によるものだったと発表したことから、各国・各機関などから厳しい非難が相次いだ。ウクライナ危機以降の対露制裁が解除されないまま、現政権に対するロシア国内外からの批判はさらに強まる傾向にある。また、ロシアと欧米諸国とのさらなる関係悪化につながる可能性が指摘されている。