Contents

第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

防衛白書トップ > 第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 > 第2章 諸外国の防衛政策など > 第3節 米国と中国の関係など > 1 米国と中国との関係(全般)

第3節 米国と中国の関係など

1 米国と中国との関係(全般)

世界第1位の経済大国である米国(2020年GDP約20兆9,328億米ドル1)と第2位の中国(2020年GDP約14兆7,228億米ドル2)との関係については、中国の国力の伸長によるパワーバランスの変化、貿易問題、南シナ海をめぐる問題、台湾問題、香港問題、ウイグル・チベットをめぐる中国の人権問題といった種々の懸案などにより、近年、両国の政治・経済・軍事にわたる競争が一層顕在化してきている。特に、トランプ政権以降、米中両国において相互に牽制する動きがより一層表面化していることに強い関心が集まっている。2021年1月、米政府は、2018年2月に大統領承認を受けた「インド太平洋のための米国の戦略的枠組み」について、秘密指定を解除して一部公開した。同文書は、トランプ政権期の3年間に国家安全保障戦略を実施するための包括的な戦略的指針として機能してきたものであり、中国が新たな反自由主義の勢力範囲を確立することを防ぎつつ、米国の戦略的優越を維持していくことを国家安全保障上の課題として掲げている。また、このための取組を検討するにあたり、中国が、米国とその同盟国やパートナーとの関係の解体を目論み、また関係の喪失によってもたらされる力の空白や機会を利用するとの考えを示している。こうした点も踏まえて導かれた中国に対する取組として、中国によって世界市場が歪められ、米国の競争力が損なわれることを阻止すること、米国産業のイノベーション上の対中優位性を維持すること、中国が米国やその同盟国とパートナーに対して軍事力を行使することを阻止し、紛争の各種様相における中国の活動を打ち破るための能力や構想を向上させることなどが挙げられている。特に、軍事面においては、いわゆる「第一列島線」内において、中国による空域及び海域での持続的な優位性を拒否する能力や、台湾を含めたいわゆる「第一列島線」に位置する諸国家などを防衛する能力の保有を目指すこととしている。貿易問題について、トランプ政権は、中国による長年の不公正な貿易慣行を理由に、同年6月以降、段階的な輸入関税引上げなどを通じて中国に対する厳しい対応を行ってきた。これに対し、中国側も、対抗措置として段階的な輸入関税の引上げなどを行ってきていたが、米中両国は2020年1月、中国による対米輸入拡大を柱とする第一段階の合意に至り、両国は追加関税の一部引下げも行った。

機微技術や重要技術をめぐって、米国は、中国に対する警戒感を強めている。米国は、国家安全保障戦略において経済安全保障を国家安全保障と位置づけ、機微技術や重要技術の保護・育成に力を入れている。例えば、同年3月、5Gに関し、米国の安全保障にリスクを与える通信機材やサービスを、政府補助金を使用して購入することを禁止するとともに、これらを米国のネットワークから排除することを目的とする法律が成立し、また、同年5月、米商務省は、中国のファーウェイへの規制を強化する方針を発表した。さらに同月、米国防省は、同年3月にホワイトハウスが発表した「5Gの安全を確保するための米国家戦略」を踏まえ、「国防省5G戦略」を発表した。同戦略では、5Gが極めて重要な戦略的技術であり、長期的な経済的及び軍事的優位の獲得を左右するものであるとしたうえで、技術開発や5Gの脆弱性緩和に努めるとともに、同盟国などとの連携を図るとしている。一方、中国は、2019年の国防白書において、米国が軍事技術及び軍事体制の刷新を行い、絶対的な軍事優勢を得ることを追求していると指摘しつつ、軍事領域における人工知能など、先端科学技術の応用が加速し、国際軍事競争の構造に歴史的な変化が生じているとしている。また、2020年10月に開催された中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議(五中全会)において、科学技術の自立を国が発展する上での戦略的支柱と捉え、科学技術の革新の体制・メカニズムを整備しなければならないとしている。

また、米国は、米国の企業秘密の窃取、人権侵害への関与、さらには南シナ海における軍事化などの行動などを理由として、特定の中国人に対するビザ制限や、米国からの輸出を規制するエンティティ・リストに中国企業を追加するなどの措置を実施した。それに対し中国も、米国と同様のエンティティ・リスト制度を新設するとともに、国家の安全と利益にかかわる技術などの輸出を管理する輸出管理法を成立させた。さらに、2021年1月には、外国の法律などの不当な域外適用から中国企業などを保護することを目的とした規則を新たに成立させた。

さらに、2020年7月、米国は知的財産権の窃取に関与しているなどの理由から、在ヒューストン中国総領事館を閉鎖したが、中国はそれに対抗する形で、在成都米国総領事館を閉鎖し、米中間の現在の局面は、中国側が望んだものではなく、責任は完全に米側にあるなどと表明した。

米中の技術分野における競争は、バイデン政権発足後、米国防省高官が、技術的競争の問題が米中関係において一層重要性を増していることは明らかである旨発言していることを踏まえれば、今後一層激しさを増す可能性がある。

中国は自国の「核心的利益と重大な関心事項」については妥協しない姿勢を示している一方、米国は自国の安全保障のために妥協しない姿勢を示しており、今後、様々な分野において、米中の戦略的競争が一層顕在化していくとみられる。

1 IMF公表数値(2021年4月時点)による。

2 同上