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第I部 わが国を取り巻く安全保障環境

3 対外関係など

1 全般

中国は、特に海洋において利害が対立する問題をめぐり、既存の国際秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力を背景とした現状変更の試みやその既成事実化など高圧的とも言える対応を推し進めつつ、自らの一方的主張を妥協なく実現しようとする姿勢を継続的に示している。また、国家戦略として「一帯一路」構想を推進しているが、近年一部の「一帯一路」構想の協力国において、財政状況の悪化などからプロジェクト見直しの動きもみられている。さらに、安全保障や金融を含む分野における中国主導の多国間メカニズムの構築など、独自の国際秩序形成への動きや、他国の政治家の取り込みなどを通じて他国の政策決定に影響力を及ぼそうとする動きなども指摘されている26

同時に、中国は、持続的な経済発展を維持し、総合国力を向上させるためには、平和で安定した国際環境が必要であるとの認識に基づき、「人類運命共同体」の構築を提唱しつつ、「相互尊重、公平正義、協力、ウィン・ウィンの新型国際関係」の建設推進について言及している。軍事面においては、諸外国との間で軍事交流を積極的に展開している。近年では、米国やロシアをはじめとする大国や東南アジアを含む周辺諸国に加えて、アフリカや中南米諸国などとの軍事交流も活発に行っている。中国が軍事交流を推進する目的としては、関係強化を通じて中国に対する懸念の払拭に努めつつ、自国に有利な安全保障環境の構築や国際社会における影響力の強化、海外兵器市場の開拓、資源の安定的な確保や海外拠点の確保などがあるものと考えられる。

また、中国で発生した新型コロナウイルス感染症について、中国の初動対応や情報提供の遅れを問う声もある。こうした中、中国は、いわゆる「マスク外交」や「ワクチン外交」といった同感染症対策に関する支援を梃子に、戦略的に自らに有利な国際秩序・地域秩序の形成や影響力の拡大を図りつつ、自国の政治・経済上の利益の増進を図っているとの見方もある。

2 ロシアとの関係

1989年にいわゆる中ソ対立に終止符が打たれて以来、中露双方は継続して両国関係重視の姿勢を見せている。90年代半ばに両国間で「戦略的パートナーシップ」を確立して以来、同パートナーシップの深化が強調されており、2001年には、中露善隣友好協力条約が締結された。2004年には、長年の懸案であった中露国境画定問題も解決されるに至った。両国は、世界の多極化と国際新秩序の構築を推進するとの認識を共有し、関係を一層深めている。

軍事面では、中国は90年代以降、ロシアから戦闘機や駆逐艦、潜水艦など近代的な武器を購入しており、中国にとってロシアは最大の武器供給国である27。近年、中露間の武器取引額は一時期に比べ低い水準で推移しているものの、中国は引き続きロシアが保有する先進装備の輸入や共同開発に強い関心を示しているとみられる。例えば、中国はロシアから最新型の第4世代戦闘機とされるSu-35戦闘機やS-400対空ミサイルシステムを導入している。なお、ロシアがS-400対空ミサイルシステムを輸出したのは、中国が初めてであるとされる。その上でロシアは、中国によるリバースエンジニアリングへの警戒により、また、陸上で国境を接する中国に対して自国に脅威が及ぶような特定の高性能武器は供与しないといった方針により、対中輸出兵器の性能を差別化している例もあるとの指摘がある。また、中国の技術力向上により、武器輸出における中国との競合を懸念しつつあるとの指摘もある。

中露間の軍事交流としては、定期的な軍高官などの往来に加え、共同訓練などを実施している。例えば中国軍は、2018年にはロシア軍による演習として冷戦後最大規模とされる「ヴォストーク2018」演習に、2019年には「ツェントル2019」演習、2020年には「カフカス2020」演習に参加した。また、中露両国は、海軍による大規模な共同演習「海上協力」を、2012年以降実施しており、2016年には初めて南シナ海で、2017年には初めてバルト海及びオホーツク海で実施した。2016年及び2017年には、共同ミサイル防衛コンピュータ演習「航空宇宙安全」も実施した。また、中国は、中露二国間もしくは中露を含む上海協力機構(SCO:Shanghai Cooperation Organization。2001年6月に設立。)加盟国間で、対テロ合同演習「平和の使命」を実施している。中国としては、これらの交流を通じて、ロシア製兵器の運用方法や実戦経験を有するロシア軍の作戦教義などを学習することも見込んでいるものと考えられる。

こうした動向に加え、最近、中露関係の深化が窺われる動きも確認されている。2019年7月には「初の共同空中戦略巡航」と称して、中露両国は日本海で合流した爆撃機を東シナ海に向けて飛行させた。また、同年9月には、両国間で新たな軍事及び軍事技術協力に関する一連の文書への署名が行われている28。2020年においても同様の傾向は継続しており、同年12月、ショイグ露国防相と魏鳳和国防部長がオンライン会談を実施し、中露両国は、弾道ミサイルや宇宙ロケットの発射計画や実際の発射について相互に通告する政府間協定の10年間延長に合意した。また同月、両国の爆撃機が、日本海から東シナ海、さらには太平洋にかけての長距離にわたる共同飛行を実施し、両国は、中露の新時代における包括的パートナーシップ関係の深化・発展を目的として実施されたものと発表した。

3 北朝鮮との関係

中国は、1961年の「中朝友好協力相互援助条約」のもとで北朝鮮との緊密な関係を維持してきた。北朝鮮が金正恩(キム・ジョンウン)体制に移行してからは、中朝の主要指導者の相互往来の頻度が低下してきているとされていたが、習近平国家主席は2019年6月、中国国家主席として14年ぶりに北朝鮮を訪問し、同主席と金正恩委員長との間で5回目となる首脳会談を行っている。また、2020年10月、習近平国家主席は金正恩委員長に朝鮮労働党創立75周年の祝電を送った。習主席は北朝鮮に対して、地域の平和と安定、発展と繁栄を実現する上で新しく積極的に寄与する用意があると表明し、コロナ禍においても緊密な関係を維持していく考えを示した。

中国は朝鮮半島問題に関して「3つの堅持」(①朝鮮半島の非核化実現、②朝鮮半島の平和と安定の維持、③対話と協議を通じた問題解決)と呼ばれる基本原則を掲げているとされ、非核化のみならず従来の安定維持や対話も同等に重要との立場を採っていると考えられる。こうした状況のもと、中国は北朝鮮に対する制裁を強化する累次の国連安保理決議に賛成してきた一方、2019年12月には、ロシアとともに国連安保理の制裁を一部解除する提案などを含む決議案を国連安保理で配布するなどの動きも見せている。

なお、国連安保理決議で禁止されている、洋上での船舶間の物資の積替え(いわゆる「瀬取り」)に関し、中国側は終始自身の国際義務を真剣に履行しているとしているが、中国籍船舶の関与が指摘されている。

4 その他の諸国との関係
(1)東南アジア諸国との関係

東南アジア諸国との関係では、引き続き首脳クラスなどの往来が活発である。また、ASEAN+1(中国)やASEAN+3(日本、中国及び韓国)、EAS(East Asia Summit)、ASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)といった多国間枠組みにも中国は積極的に関与している。さらに、中国は「一帯一路」構想のもと、インフラ整備支援などを通じて各国との二国間関係の発展を図ってきている。

軍事面では、2018年10月に中国とASEANの実動演習「海上連演2018」が初めて実施されるなど、信頼醸成に向けた動きも見られる。また、2019年7月、カンボジアとの間でリアム海軍基地の一部を独占的に利用可能とする密約が結ばれた旨報じられた。これについて、カンボジア側は、外国軍の基地設置は憲法違反であるとし、事実関係を否定している。

フィリピンとの間においては2016年7月、南シナ海をめぐる中国との紛争に関し、国連海洋法条約(UNCLOS:United Nations Convention on the Law of the Sea)に基づく仲裁判断が下され、フィリピンの申立て内容がほぼ認められる結果となった。その後、フィリピンは仲裁判断への言及を控えているとされていたが、2019年9月にはフィリピン大統領府報道官が「仲裁判断は現在においても両国間の協議の議題である」旨述べており、2020年9月、ドゥテルテ大統領は国連総会において、「仲裁判断は今や国際法の一部であり、これについて妥協したり、価値を減じたり、あるいは無視することは許されない」旨指摘している。また、2019年4月には、フィリピンは、同国が実効支配する南沙諸島ティトゥ島近くで大量の中国漁船が確認されたことについて、中国政府へ抗議声明を発表した29。また、フィリピン政府は、2020年2月、フィリピン艦艇が中国艦艇からレーダー照射を受けたとして同年4月に抗議をした旨発表した。

ベトナムとの間では、2017年7月及び2018年3月、外国企業がベトナム政府の許可を得て南シナ海で実施していた石油掘削を、中国の圧力を受け、ベトナム政府が中止させたと報じられている。また、2019年7月以降は、ベトナムの排他的経済水域内における石油・天然ガス掘削活動をめぐり、中国及びベトナム双方の政府船舶などが対峙する事態が見られたが、同年10月に採掘リグ(「HAKURYU-5」)が撤収した後、双方が対峙する事態は解消された。また、ベトナム政府は、2020年4月、西沙諸島においてベトナム漁船と中国海警船が衝突し、ベトナム漁船が沈没し、中国側に抗議をしたと発表した。

インドネシアとの間では、従来からインドネシアの排他的経済水域内における中国漁船の操業がたびたび問題となっており、インドネシア側は違法操業と判断される外国漁船への断固とした対応を行ってきた。最近では2019年12月から2020年1月にかけて、インドネシアのナツナ諸島周辺海域において中国漁船が違法操業したことに対し、インドネシア政府は強く抗議し、中国が主張する「九段線」を認めないと改めて表明した。

なお、中国とASEANは「南シナ海行動規範(COC:Code of Conduct of Parties in the South China Sea)」の策定に向けた協議を続けており、2018年11月、李総理が3年以内の交渉妥結を望む旨表明している。2019年7月、中国は、中国・ASEAN外相会議において、COCの「単一の交渉草案」の一読が完了したことを発表した。

(2)中央アジア諸国との関係

中国西部の新疆ウイグル自治区は、中央アジア地域と隣接していることから、中国にとって中央アジア諸国の政治的安定やイスラム過激派によるテロなどの治安情勢は大きな関心事項であり、国境管理の強化、SCOやアフガニスタン情勢安定化などへの関与はこのような関心の表れとみられる。また、資源の供給源や調達手段の多様化などを図るため、中央アジアに強い関心を有しており、中国・中央アジア間に石油や天然ガスのパイプラインを建設するなど、中央アジア諸国とエネルギー分野での協力を進めている。

(3)南アジア諸国との関係

中国は、パキスタンと従来から特に密接な関係を有し、首脳級の訪問が活発であるほか、共同訓練、武器輸出や武器技術移転を含む軍事分野での協力も進展しているとみられている。海上輸送路の重要性が増す中、パキスタンがインド洋に面しているという地政学上の特性もあり、中国にとってパキスタンの重要性は高まっていると考えられる。海軍種間の共同捜索・救難訓練や対テロ訓練をはじめ、各種の共同訓練が両国間で行われている。中国が建設を支援している中パ経済回廊は、グワダル港から新疆ウイグル自治区カシュガルまでの地域における電力施設や輸送インフラなどの開発計画として「一帯一路」構想の旗艦プロジェクトと位置づけられている。パキスタンの財務状況の悪化に伴い、同プロジェクトは遅れや撤回が見られるなど難しい局面に差し掛かっているとの指摘もあるが、同プロジェクトの進展は、パキスタンにおける中国の影響力をますます高めるものと考えられる。

中国は、インドとの間でカシミールやアルナーチャル・プラデシュなどの国境未画定地域を抱えている。また、ブータンとの間では、互いにドクラム高原の領有権を主張しており、同高原において、ブータンとインドが密接な関係にあることから、2017年6月から8月にかけて中印両軍が対峙する事案も発生した。一方、近年中国は、パキスタンとのバランスに配慮しつつも、インドとの関係改善にも努めているとされ、インドとの関係を戦略的パートナーシップの関係にあるとして積極的な首脳往来を行っている。また、2018年12月には、ドクラム対峙後中断されていた中印「携手」対テロ共同訓練が再開された。インドとの関係進展の背景には、中印両国における経済成長の重視や米印関係の強化の動きへの対応があるものと考えられる。そのような中、2020年5月に、インドのラダック州の中印国境付近で、中印両軍の衝突が発生した。同年6月15日の衝突では45年ぶりに死者が発生するなど両国間の緊張が高まった。同年9月に中印外相がモスクワで会談し、中印国境問題について、対話を継続することで合意した。

近年中国は、スリランカとの関係構築も進めている。2015年1月の選挙において勝利したシリセーナ大統領は、就任当初、中国資金によるコロンボ港湾都市事業を差し止めたが、2016年1月にはその再開を表明し、その後、中国との新規開発事業も進展をみせている。2017年7月には、中国の融資で建設されているハンバントタ港の中国企業への権益貸与が合意された。これらの動きに対しては、いわゆる「債務の罠」であるとの指摘もある。また、中国は、バングラデシュとの間でも、海軍基地のあるチッタゴンにおける港湾開発や、武器輸出などを通じて関係を深めている。

(4)欧州諸国との関係

近年、中国にとってEU(European Union)諸国は、特に経済面において重要なパートナーとなっている。

欧州諸国は、情報通信技術、航空機用エンジン・電子機器、潜水艦の大気非依存型推進システムなどにおいて中国やロシアよりも進んだ軍事技術を保有している。EU諸国は1989年の天安門事件以来、対中武器禁輸措置を継続してきているが、中国は同措置の解除を求めている30。仮にEUによる対中武器禁輸措置が解除された場合、優れた軍事技術が中国に移転されるのみならず、中国からさらに第三国などへ移転される可能性があるなど、インド太平洋地域をはじめとする地域の安全保障環境を大きく変化させる可能性がある。

また、中国は空母「遼寧」の元となった未完成のクズネツォフ級空母「ワリャーグ」をウクライナから購入しているように、武器調達の面でウクライナとの関係が深く、今後のウクライナとの関係も注目される。

近年の中国による台頭は、北大西洋条約機構(NATO:North Atlantic Treaty Organization)においても注目されている。2019年12月のNATO首脳会議において採択された「ロンドン宣言」は、中国の台頭が「機会と挑戦の両方」をもたらすとし、同盟として対処する必要性に言及している。また、ストルテンベルグNATO事務総長は同首脳会議後、中国による多数の中距離ミサイル配備に触れた上で、将来の軍備管理に中国を含めることができるかの検討をしている旨述べている。

対中武器禁輸措置に関するEU内の議論や将来の軍備管理に関連するNATOの対中政策を含め、中国と欧州諸国との関係については、引き続き注目する必要がある。

(5)中東・アフリカ諸国、太平洋島嶼国及び中南米諸国との関係

中国は従来から、経済面において中東・アフリカ諸国との関係強化に努めており、近年では、軍事面における関係も強化している。首脳クラスのみならず軍高官の往来も活発であるほか、武器輸出や部隊間の交流なども積極的に行われている。また、中国はアフリカにおける国連PKOへ要員を積極的に派遣している。このような動きの背景には、資源の安定供給を確保するねらいのほか、将来的には海外拠点の確保も念頭においているとの見方がある。2016年12月にはサントメ・プリンシペが、2018年5月にはブルキナファソが、それぞれ台湾と断交し、中国と国交を回復した。

中国はオーストラリアにとって最大の貿易相手国であるが、オーストラリアが中国の新型コロナウイルス感染症発生源をめぐる独立調査の必要性を提起したのを契機に中国がオーストラリア産牛肉などの輸入を相次いで制限するなど経済面でも摩擦が生じている。また、中国は、太平洋島嶼国との関係も強化しており、積極的かつ継続的な経済援助を行っているほか、軍病院船を派遣して医療サービスの提供などを行っている。さらに、パプアニューギニアについては、資源開発などを進めているほか、軍事協力に関する協定を締結している。バヌアツやフィジー、トンガとの間でも、軍事的な関係強化の動きがみられる。このように中国が太平洋島嶼国との関係を強化しつつある中、オーストラリアなどの各国からは、中国によるこれらの動きに対する懸念の表明もみられる。2019年9月には、ソロモン諸島及びキリバスが台湾と断交し、中国と国交を樹立した。

中南米諸国との関係では、2015年以降は、中国とラテンアメリカカリブ諸国共同体(CELAC:Comunidad de Estados Latinoamericanos y Caribeños)の閣僚級会議を開催するなど、一層の関係強化に努めている。軍事面においては、軍高官による訪問や武器売却に加え、医療サービス、対テロなどの分野での関係強化がみられるほか、アルゼンチンにおいては宇宙観測施設を運用している。2017年6月にはパナマが、2018年5月にはドミニカ共和国が、同年8月にはエルサルバドルがそれぞれ台湾と断交し、中国と国交を樹立した。

5 武器の国際的な移転

中国は、小型武器、戦車、無人機を含む航空機、艦船などの輸出を拡大している。具体的には、パキスタン、バングラデシュ、ミャンマーが主要な輸出先とされているほか、アルジェリア、タンザニア、ナイジェリア、スーダンなどのアフリカ諸国や、ベネズエラなどの中南米諸国、イラン、サウジアラビアなどの中東諸国にも武器を輸出しているとされ、最近では欧州諸国の中では初めてセルビアが中国製UAVを導入する見込みである旨報じられている。中国による武器移転については、友好国との間での戦略的な関係の強化や影響力拡大による国際社会における発言力の拡大のほか、資源の獲得にも関係しているとの指摘がある。中国は、国際的な武器輸出管理の枠組みの一部には未参加であり、ミサイル関連技術などの中国からの拡散が指摘されるなどしている。

26 2017年12月のターンブル豪首相(当時)発言による。

27 SIPRI Arms Transfers Databaseによる。

28 2019年9月6日付のロシア軍機関紙「赤星」による。

29 2019年4月4日付のフィリピン外務省HPによる。

30 中国が2018年12月に発表した対EU政策文書による。